帝人誕生日記念



静雄がそれを知ったのは今から1時間前に遡る。
仕事が休みになっていた今日、静雄は新羅に呼ばれて、新羅とセルティの住むマンションに来ていた。
新羅が静雄を呼ぶのは何ら珍しいことではない。
やれ研究だの、やれ検査だのと、静雄を呼び付けるのだ。
結局、そんな新羅に静雄がキレて、診察など出来ないまま終わるのだから、諦めればいいのにと、セルティが内心溜息を吐いているのに、新羅は気付いていない。


『そういえば、昨日は帝人くんを借りて悪かったな』


PDAに打たれた文字に静雄は疑問符を飛ばし、新羅にもセルティにも驚かれた。
静雄と帝人が付き合っているのは周知の事実である。
帝人に手を出せば静雄はキレるし、静雄がキレているところに帝人が遭遇すれば静雄の怒りが収まると、水面下で広がった結果だ。
当人達はそこまで広まっているなど知りはしない。


『誕生日だっただろう?』


その文字を見た瞬間、静雄が啣えていた煙草が床へと落ちた。
不幸中の幸いか、火を点けようとライターを探しているところだったお陰で、火は点いていなかった。


「もしかして、静雄」


知らなかった?と続くハズだった新羅の言葉は、静雄に出されたコーヒーカップが割れる音によって阻まれた。
勿論、コーヒーカップを割ったのは静雄である。
素手で握り潰したにもかかわらず、一滴も血が出ていないどころか、破片が刺さらずに全てテーブルに落ちたことに、セルティは驚きを隠せなかった。
とはいえ、驚きを表す表情など首を持たないセルティにはないので、静雄には感じさせることなどなかったのだが。


「悪ぃ、用事思い出した」

「あぁまた今度」

『気をつけて帰れよ』


PDAに打ちはしたが、セルティの文字を見ていたかは甚だ疑わしいが、とりあえず、ある種の危機が去ったのは事実だった。
というようなことが1時間前に起こり、静雄は新羅の家を飛び出したわけである。
新羅のマンションから帝人の住むマンション(というよりアパート)は同じ池袋とはいえ、少しばかり遠い。
更に言うなら、その間に静雄の家があるくらいだ。
とにかく、微妙に遠いのである。
その距離を走り、静雄は通り掛かりのコンビニ全てに寄る羽目になっていた。
何の呪いか、行くコンビニ行くコンビニに、静雄が目当てとする物が一つたりとも置いていないのだ。
売り切れている現状に、静雄の頭に過ぎったのは他でもない臨也であったが、すぐにその残像を消し去り、帝人へと想いを馳せる。
今は臨也に苛立っている場合ではない。
最後の一件、帝人の家に1番近いコンビニで最後の一つを見つけた静雄はそれをレジに持って行き、会計を済ませると、あと少しの距離を走り出す。
着いた帝人の部屋の前で軽く上がった息を整え、携帯を取り出す。
履歴の1番上の名前を確認し、発信する為、通話ボタンを押した。
呼び出し音が耳元で響き、扉の向こうでバタバタと部屋を駆ける音が聞こえた。


『もしもし』

「竜ヶ峰?俺だ」

『静雄さん、ですよね?どうしたんですか?』


心底不思議そうな様子が声音だけでわかる。
きっときょとんとしているだろう帝人の顔を思い出し、込み上げてくる穏やかな笑いを噛み殺した。


「ドア開けてくれ」

『へ?…………!』


間の抜けた声の後、暫しの沈黙があり、何かに気付いたのか、携帯越しの帝人が息を飲む。
電話を鳴らした時のようにバタバタと足音が響き、錠が上がる音からすぐ、静雄の目の前のドアが開いた。
携帯を耳に当てたまま驚く帝人の姿に思わず頬が緩み、口元に笑みが浮かぶ。


「遅くなっちまって悪い。誕生日おめでとう、帝人」







に携帯、左にケーキ、
(君には愛を)



「み、帝人って」

「嫌か?」

「嬉しいです!」

(どっちかプレゼントを貰ったかわかんねぇな)










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