帝人誕生日記念
春休みに突入しているからと、丸一日かけて僕の誕生日を祝ってくれると言ってくれた園原さんと紀田くんの二人と9時に池袋東口で待ち合わせて遊びに行く。
これが僕の今日の予定だったハズだ。
なのに、僕は今新宿にいる。
紀田くんの携帯に目の前の男が僕を装って、行けなくなったとメールを送った。
そう目の前で愉快そうに笑う臨也さんが。
「不機嫌そう」
「そうじゃなくて、不機嫌なんです」
間髪入れずに返せば、臨也さんの顔が少しだけ歪んだ。
いつも飄々と笑みから表情を崩さないこの人は、何故か、こと僕のことになると表情に出やすくなる。
笑顔も仮面のような笑顔じゃないものに変わる。
何でかなんて、僕にはわからない。
とにかく、彼に無駄に執着されているのは確からしい。
「帝人くん」
「はい」
「誕生日おめでとう」
朗らかに笑う折原臨也なんて怪奇以外の何物でもないと思うのは僕だけだろうか。
いや、きっと紀田くんなら同意してくれるハズだ。
でも、紀田くんに臨也さんの話なんて出来ないけど。
臨也さんのいの字を言った瞬間に話題が別次元に飛ぶのは今に始まったことじゃない。
「帝人く〜ん?」
首を傾げて僕の顔を覗き込む臨也さんがなんだか幼く見えた。
「あの、ありがとうございます」
お礼だけはしっかりしなさいというのは母の教育の賜物だ。
挨拶とありがとうをきちんとしてれば、大丈夫!と仁王立ちする母を思い出す。
回想に浸りかけた頭を現実に戻す。
目の前には臨也さん。
さっきから変わりはしない現状。
けれど、臨也さんの顔は見えなかった。
「臨也さん?」
「いや、うん、その、」
しどろもどろに返す臨也さんは片手で口元を覆って、僕から顔を背けていた。
僕よりは長く、けれども、短めに切られた黒髪の間から見える耳がほんの少し赤い。
「反則だよ、それは」
疑問符を飛ばす僕に、臨也さんの呟きは聞こえなかった。
君の誕生日に感謝!
(生まれてきてくれてありがとうなんて言えやしないけど)
(なに、あの笑顔。あれは反則だ。可愛過ぎるよ、帝人くん)