自傷行為



ざくりざくりと、何かを突き刺す音がしたと思えば、水音にも似たぬちゃぴちゃという粘着性を持った音が響く。
そんな音しか聞こえない空間は、ただただ闇だけが支配していた。
その中に灯る明かりはただ一つ。
点けっぱなしされたままのパソコンのディスプレイが、暗い部屋にぼんやりとした光を落とす。


ピーンッポーッンッ


間延びしたチャイムが来客を告げるが、部屋の主は一向に玄関に向かわない。
意図して向かわないのか、はたまた聞こえていないのかもしれない。
ただ何かを一心不乱に振り下ろす。
振り下ろす度に、ざくり、ぴちゃぴちゃ、ぬちゃりと、不快な和音を奏でた。


ガチャリ


鍵が開いて、ドアが開く。
それでも、部屋の主は振り下ろす。
自分の手に、芯を出したボールペンを。
ざくり、ぬちゃ、ぴちゃん。
ざくっ、ぬちゃり、ぴちゃ。
痛みなど感じていないかのように、帝人は無表情を崩さず、ただただ振り下ろした。
帝人には無断で作成した合鍵で、ドアを開け部屋へと入ってきた臨也は帝人の姿に驚くでもなく、そっと背後へと忍び寄る。
その手には、ドラッグストアのロゴが印刷されたレジ袋が提げられていた。


「帝人くん」


臨也の声にピクリと帝人の肩が揺れる。
ぐらりと頭が動いて、臨也を振り返る。
しかしながら、その目は臨也だけでなく、部屋すらも映してはいない。
光のない闇が映し出されるだけだった。


「帝人くん」


もう一度、臨也が呼び掛ける。
その声にか、闇でしかなかったに瞳に淡い光が射す。
それを確認すると、さまよった虚ろな視線に、優しく頭を撫でてやる。
そうして、帝人の横に座り、ガサガサとレジ袋から消毒液や脱脂綿、包帯などを取り出し、血が溢れ出る手をそっと取り、手当てをはじめた。


「臨也さん?」

「そう、臨也さん。染みるのは我慢してね」

「…臨也さん」


臨也の名前を確認するように、繰り返す。
それを横目に臨也はテキパキと手当てを完了させた。
いつも携えている仮面のような笑顔ではなく、穏やかにふわりと笑って、帝人の頭に手を置く。


「もうしないでね」


たった、一言。
されど、一言。
帝人の頬を涙が伝い落ちた。




にたがりマリオネット
(これで君は俺のマリオネット)




マリオネットが糸を自ら切ったなら、再び繋げるまでのこと。
涙を流す帝人をあやしながら、臨也の口元は笑みを象った。
(あぁ愉しい。愉快だ。人間は本当に面白い)








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