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此処に来てからほぼ休めずにいた。バイブの振動は止められたものの、抜けないように奥まで挿入されたそれは未だに私の中に残っている。自分で抜く事など出来ず、当然リモコンは臨也さんが今も管理している。

首に隙間無く密着した首輪が冷たくて、首輪と連なる鎖のぶつかり合う音が耳障りで。外部の世界から遮断されたこの閉め切った部屋では時間の感覚が鈍ってしまったが、感覚的に今が夜中の11時頃であろう事は何となく分かった。あれから臨也さんは私でたっぷりと遊んだ後、まるで何かをやり遂げたような無邪気な顔で笑い、就寝前のシャワーを浴びに浴室へと行ってしまった。それがつい10分前。残された私は暫し無理矢理何度もイかされた身体をソファの上で休ませ、ようやく落ち着きを取り戻した頃に上半身を起こした。下半身への違和感が未だに残るのはやむを得ない。



――私は今、何をしていたらいいのだろう……

――それにしてもさっきの『シズちゃん』って……?



体力を激しく消耗した身体は食欲すら湧かない。再び横になろうとした瞬間、別の部屋から呼び出し音が鳴り響いた。やっとの事で身体を休めると思ったのに。



「ねえ、背中流してよ」



一応断りを入れてから脱衣場に入るなり、浴室から告げられた言葉はとんでもない命令だった。何度もくどいようだが私は彼に逆らえない。しかもその命令は自分も服を脱いで裸にならなくてはならないという条件付きで、先程臨也さんに切り刻まれてしまった為下には何も穿いていなかったのだが、唯一身に纏っていたシャツを躊躇いつつも脱ごうとしてはっとした。床に目をやればズルズルと引きずってきた鎖。首輪が邪魔で脱ぐ事が出来ないのだ。

しかしそれを都合の良い言い訳として命令を免れようとする甘い考えは即行切り捨てられた。状況を察した臨也さんはそのままの格好でいいから早く浴室に入って来るようにと最後に付け加えたのだ。恐る恐る浴室への扉に手を掛け、ゆっくりと遠慮がちに開く。臨也さんは腰にタオル1枚巻いただけの限りなく裸に近い格好で前方を向いて座っており、私が入って来るなり首だけを此方に向けた。目が合った瞬間やり場のない視線を宙へと逸らす。しかし臨也さんは困ったような顔をして笑うだけだった。



「今更照れなくてもいいんじゃない?ほら、おいで」

「……私は、何をすればいいんですか」

「洗って。背中」

「……」



こうして手渡されたボディスポンジ。視界は湯気で若干妨げられているものの特に支障はなかった。こんなの、さっきと比べれば大した事ないじゃないか。そう割り切った私はボディソープを少量泡立てると、まるで女性を思わせる綺麗な肌にスポンジを押し付けた。

時折「もっと強く」だとか「もう少し右」と力の加減や位置の細かな注文を受ける度に私は言われた通りに応える、ただただひたすらに。これから先の自分の事など何1つ考える事が出来なくて、それこそ頭の中は真っ白で無の状態だった。



「なまえ」

「! はい」

「もういいよ、流して。……なにか考え事でも?」

「い、いえ……何も」

「ふうん」



本当に何も考えていなかった。まさかこうも簡単に屈服してしまいそうになるなんて、まだまだ先は長いというのに。しかし例えどんなに酷い仕打ちを受けようと、自分が奴隷でなく人間である事だけは頑なに守り続けようと決めた。絶対にそれだけは守ってみせる。



「ありがとう。もういいよ」



泡を全てお湯で洗い流した後、臨也さんがゆっくりと此方を振り向く。また視線が合わないうちに私は浴室を後にしようと立ち上がるが、それよりもほんの少し早く彼に腕を引かれた。臨也さんは目の前に私を座らせると、両肩にそっと両手を置く。目の前に設置された鏡は湯気で曇ってしまっていて見る事が出来ない。



「今度は、君の番」

「えッ……」

「じっとしててね。綺麗にしてあげるから」

「わ、私は大丈夫ですから!だって、私は……」



――……私、は?

――私は一体なんなの?



咄嗟に口を開いてしまったが、後に続ける言葉がどうしても思い浮かばない。ここで『奴隷』と言ってしまう?そうすれば流れが自然ではないか。だって主人に雇われている身である者が主人に身体を洗ってもらうだなんて聞いた事がない。

しかし、そこで咄嗟に反芻する。それは同時に自分で自分を奴隷と認めてしまう事に他ならなかった。もしかしたら臨也さんはそれが狙いなのではないか。1枚も2枚も上手な彼、私はまんまと乗せられてしまった訳だ。臨也さんが口ごもる私の顔を覗き込みながら問う、口端を歪ませて「なあに?」と。成す術無く私は何でもないですと小さく呟き、俯いた。言い返すなんて出来るはずがなかった。



「すみません。……忘れてください」



そう言い終えるよりも早く臨也さんが私の腰を掴み持ち上げる。そのまま再びその場に立たされた私は突然の事にバランスを崩し、咄嗟に目の前の鏡へと両手をついた。必然的に下半身を臨也さんの方へと突き出す形になってしまい、慌てて体勢を整えようとするものの再度がっちりと腰を掴まれ固定されてしまう。



「いい眺めだねえ」

「い、臨也さん!」

「それじゃあ、主人の権限を行使して命ずるよ。そのまま動くなってね」

「……ッ!」



何も言えない、言う権利が私にはない――今は役使されるべき存在でしかない。

下唇を噛み、何かに耐えるように瞼を閉じる。双方の臀部に細長い指先がそっと触れ、思わず身体を強張らせた。暫くやんわりと揉みほぐされた後ぐいっと両手で広げられた性器に生暖かい息を吹き付けられる。無意識のうちに濡れていたのだろう証拠にひんやりとした特有の感覚、感じやすい女の身体に生まれてきた事を内心恨む。どんなに嫌でも身体は快楽を期待し、否応なしに愛液を滲ませた。



「っもう、やめて下さい」

「何言ってんの、内心期待してるくせに。こんなにヒクヒクさせちゃってさ。君は言葉に弱いようだね」

「そんな事……」

「俺さ、少しずつ分かってきた事があるんだ。まだまだ人間の心理は奥深くて興味深いけれど、今、俺は最ッ高に楽しいよ?なまえで好きに遊ぶ事が出来てさ」



楽しいですか?こんな事して、私は彼に1度こう訊いたのだ。勿論臨也さんはそれを肯定したが、今回はやけに実感の隠った言葉のように思えた。始めから同情だとか情の類いに期待などしていなかったけれど、純粋にこの男を恐ろしく見えてしまう。なんだかこの先もっと酷い事に喜びを見出だされてしまいそうで、果たして自分の身体は保つのだろうかと不安になった。

じわりじわりと何かが滲み出てくる感覚、次に何かざらざらとした得体の知れないものが触れる感覚。途端にぞわりと身体中の鳥肌が立ったような気がした。



「ひッ!!?」

「らまって(黙って)」

「そ、んな……の、無理ぃ……!」



ぬるりとした表面、感じた事のない感触にひたすら戸惑う。まるで生き物のようにうねるそれは秘部の周辺を焦らすように攻め、先端を押し付けるようにして刺激してくる。これは一体何の感触だろうと頭の中を模索し始めた時、ふいに敏感な部分を強く吸われたような気がした。思わず足がガクガクと震え、鏡についた両手がずるりと落ち、危うく身体ごと落ちてしまいそうになる手前何とか体勢を立て直す事に成功した。しかし先程よりも体勢が低くなった為下半身は更に上へと持ち上がり、何とも不恰好な形になってしまった。

臨也さんが言葉を発するよりも少し前に、うねる何かは秘部から離れる。



「……あは、もっと舐めて欲しいってことかな?」

「な、舐めるって、それじゃあさっきの感触……ッ」

「遅いよ。君、気付くの」

「!!?」



秘部をうねる何か――つまり臨也さんの舌は再びたくさんの唾液を含ませ、急に言葉を発さなくなったと思いきや、私の割れ目に沿ってゆっくりと舐め上げた。



「ひぅ……あッああッ!」



声が止まらない、堪えたいのに抑えられない。臨也さんに指先で触れられると不思議と肌がむず痒くなって声を出さずにはいられなくなってしまう。時折ヒクつくそこに口づけるように柔らかな唇を押し付け、ちゅうと音を立てて吸い付く。

あれほど嫌と言う程にイかされ続けた私の身体は、早くも熱を取り戻し始めていた。この熱の下げ方を私は知らない、臨也さんにしか分からない。結局私はまたも彼に身を委ねようとしている……?その時、ただ舐めるだけだった行為が突然切り替わった。臨也さんの舌が私のナカにまで侵入してきたのだ。尖端を固く尖らせた長い舌は順調に少しずつナカを突き進み、今はスイッチの切られたバイブへと軽くぶつかる。ただでさえ奥にまで挿れられたバイブが更に奥へと追いやられ、その感覚は既に快楽へと化していた。快感に身を震わせる私を見やり臨也さんは笑う。ココはすっかり開発されてきたねえ、と。



「君の身体は確実に変化しつつあるよ。これからもっともっと、俺無しじゃあいられないような身体にしてあげる。……ほら、嬉しいだろう?もっと喜びなよ」

「嬉しく、なんか……」

「素直じゃない子は嫌いだなあ。まだお仕置きされ足りない?」

「……ッ!」



臨也さんが取り出したもの――それは、散々弄ばされた時に使われたバイブのリモコン。どうやら防水加工が施されているらしい。



「ごっ、ごめんなさい!」

「駄目。君が分かるようになるまで教え込まなくちゃ、その身体に」

非情な主人の言葉は浴室に響き渡り、容赦なくボタンが押されると同時に再びあの音が鳴り始めた。今やその音は私にとっての終わり無き拷問のスタート音でしかない。既に最大に設定されていたバイブは突然ナカで暴れだし、耐えきれず崩れた体勢を臨也さんが間一髪で支えた。嫌なのに嫌なのに嫌なのに――渇いたはずの涙が零れる。嫌だと叫ぶも受理されず、終わり無き拷問は幕を開けた。今日だけでどれほど助けを乞いただろう、どれほど涙を流しただろう。強過ぎる快楽はまるで暴力のよう。

臨也さんの細長い指が敏感な陰核を摘まみ素早く擦り始めた。いっそのこと私を抱え込むこの左腕さえ離してくれたら床に崩れ落ちてしまえるのに、それさえも許されない。この腕から逃げる術がない。発散される事のない快楽は身体の中に溜まりに溜まって、今にも溢れ出そうな衝動は下半身に集中した。まるでずっと堪えていたものがとうとう我慢出来なくなるような感覚、それは例えるならトイレに行きたくなるような。



「い、臨也さん」

「なあに。そんな切羽詰まったような顔して」

「やだっ、お願……もう我慢出来な……」

「またイく気?」

「違っ、これ、は」

「……ああ、"そっち"」



にやりと臨也さんの口角が上がる。私の言いたい事が伝わったであろうにも関わらず何1つ動きが止まる事はなかった。バイブも、愛撫も、私を襲う衝動も。

この歳にもなってこんな事――絶対にしたくはなかった。耳元で臨也さんが小さく囁く。いいよ、と一言。



「楽になりたいだろう?」

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