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カッと頭に血が昇る。自分でも何がしたかったのか分からなかった。ただ、微動だにしない奴の表情を少しでも歪ませてやりたくて。

手を伸ばし、彼女の細くてしなやかな腕を掴む。力強く、しかし決して折れてはしまわぬように。突然引き寄せられたなまえの身体は堪えきれずにこちらへ倒れ込む。小さな身体に腕を回し、臨也からしか見えないように隠れて舌を出してやった。ざまあみろ、と。



「何がしたいかなぁ」

「分からねえ?挑発してんの」



表情こそは変わりないものの、にっこりと笑った満面の笑みには必ずと言っていいほど裏がある。その裏側を暴いてやりたかった。特になまえの前でだけ被っている"仮面"を無理矢理にでも剥いでやりたくて。その正体を暴いた時、きっと何かが分かると確信した。

俺は折原臨也が死ぬ程大嫌いだ。だからこそ、知っている。こいつが1人のたかだか人間相手に執着する事など決してあり得ないという事を。仮に彼女が人間でないとしたら話は別だが。



「質問を変えよう。……何を、考えてる?」

「は?何言ってんだ手前」

「なまえを救ってやりたい。なーんて、思ってるでしょ」

「……」



臨也の言葉に誰よりも大きく反応を示したのはなまえだった。大きな瞳を更に大きく見開き、驚いたような表情で俺の顔を覗き込む。

正直、どんな顔をして見つめ返せばいいのか分からない。原因不明の気まずさに視線を逸らす。助けたいとは思う、が、一瞬でも己の薄汚い欲望がこの胸に沸き上がり広がったのは事実。



「気に食わねえんだよ。お前のその、何もかも見透かしたような目が」



このまま臨也の野郎の好きにさせて堪るか。腕の力でなら唯一、誰にも負けない自信はある。今だってきっと力に任せてなまえを奪う事も出来るだろう。それを知っていてしないのは、少なくともなまえの目の前では同情を寄せる"良い人"でいたかったから。

耳から入る全ての情報を再び絶つ。臨也なんかにとやかく言われたくはなかったし、なまえの声を聞いてしまったら決心が鈍るような気がしたからだ。きっと今の俺はとんでもない最低な野郎なんだと思う。利用されていると知りつつも逆にそれを利用し、何食わぬ顔をして自分を正当化する。



「今の君みたいな人、何て言うか知ってるよ。俺」



ぎらりと怪しく光る赤い眼が俺の視線を捉えたかと思うと、次いで奴の声で紡がれた言葉は『偽善者』だった。まさしく今の自分を一言で表すのにその言葉はあまりにも相応しく思え、いつもなら殴りかかるはずが思わず黙り込んでしまう。

偽善者、確かにそうなのかもしれない。ならば敢えて自分から"悪者"に成り下がろうとするコイツの真意は一体……?分からない事だらけで嫌になる。ただ1つだけ確実に理解出来た事、それは――臨也が少なからずなまえに対して特別な感情を抱いているのだという確信。その特別な感情の名が何にせよ、使い古された他のどんな言葉よりもきっと重いものに違いない。



「お前、やっぱりなまえの事……」



その時だった。突如なまえの身体が大きくビクついたのは。俺に抱き止められたまますがるように拘束された手でシャツを掴み、胸元へ顔を埋めてくる。何が起きたのかさっぱりだったがようやく状況を理解した。



「は…ッ、い、いざやさん……!」

「ほら、何されてるのか言ってごらん?頭の悪いシズちゃんにも分かるようにさ」

「やッやめ……」

「いいの?やめて」

「! ……ッ」



俺の位置からではよく見えないものの、状況から判断する事くらいは出来た。臨也の右手がなまえの秘部を覆うように背後から伸びているのだ。奴の細くて長い指が少しずつ徐々に沈んでゆくその様が、酷く卑猥で思わず息を飲んだ。俺だってエロ本は買うしヤラシイ映像なんかも時に見たりする。男である以上性的な事に関心がないと言ったら嘘になるだろう。しかし目の前で、それもなまえほどの魅力を兼ね揃えた女となると戸惑わずにもいられない訳で。日常生活上他人のこんなところ、なかなか見れるもんじゃあない。体質もあり、我ながら自分は非日常の中に身を置いているのだと思っていたが、まさしく今の状況こそが本物の非日常なのだと悟った。

くいっと絶妙なタイミングで臨也の指がくの字に曲がる。恐らく意図的にやっているのだろう、奴は怪しげな笑みを浮かべたまま、ぐちゅぐちゅと、まるで気泡を無理矢理押し潰すかのような音を響かせている。何度も何度も挿れた指先を間接で折り曲げ、何処かを探っているようだ。ナカで指を押し広げ、そしてある一点を掠めた瞬間――



「!!?」

「あは、ここがイイんだ」



明らかに先程までとは違ったなまえの反応に臨也は満足げに微笑んだ。そしてその一点ばかりを攻めるように、執拗に指先でそこを突く。逃げられぬようなまえの背中に圧力を掛けているのか、それ故に雪崩れ込んでくる彼女の身体を俺は支える事しか出来ない。



「ひぁッ、あ、んあ」



――おいおい。こんなにも近くでンな顔されたら……

――ヤバい。まじで、そろそろヤバい。



下半身が疼く。悲しくも俺の息子はあまりにも性に忠実過ぎた。

吸って、舐めて、例えそれが臨也からの強制であっても愛して欲しい。堪らず無意識のうちになまえの頭に手を置くと、彼女は愛欲にまみれた大きな瞳を此方へと向けてきた。それが、合図だった。俺の頭から『理性』なんて言葉が掻き消されたのは。次の瞬間俺は唐突にもなまえの頭を抑え付け、膨大した己の欲の象徴を目の前へと突きつける。



「あーらら、スイッチ入っちゃった?」

「うるせぇ。誰のせいだと思ってやがる」

「んー……俺、かな。責任はとるよ。なまえがね」

「尻拭いは他人任せかよ」



面倒な後処理や始末はいつだって他人任せだった。コイツは昔から何1つ変わっちゃいない。そして俺もまた、変わってなどいなかった。どうしたって「したい」という本能には勝てず。

自制、出来ない。





♂♀



振動音と彼女の喘ぎ声だけが部屋に木霊する。シズちゃんの手により再びブチ込まれたそれは、また彼の手によって再び動きを再開させた。1度快感を味わってしまった#名前の身体#は更なる快感を求め、疼く。もはや並大抵の快感では物足りなくなっているだろう。

他人の介入を経て、こうして少しずつ主人と奴隷の関係は築かれてゆく。



「(……面白く無いなあ)」



なまえの身体が俺以外の男に弄ばれている事、が。例えそれが俺の企てた事だったとしても、この事実はあまり面白く無い。出来る事なら彼女の身体も、心さえも独占したい――こう思うのは何故故なのだろう。



かつて、人々の格差が今よりも大きかった時代――裕福な貴族は何人もの奴隷を私物化していたという。奴隷は老若男女問わず存在したが、中でも高値で取引されたのが力のある若者、そして容姿の美しい女性だった。美しい女奴隷は主人の性奴隷となり弄ばれ、自ら死を選ぶ者も少なくはなかったらしい。それが彼女たちにとってどんなに過酷な仕打ちであったのかは過ぎ去った過去へと置き去りにされ、今や知る者は誰1人としていない。

勿論現時点でなまえを失っては困る。あと少しで見出だせそうな"何か"を確かめるまでは、死なない程度に利用してやろうと思っていた。だからこそ俺は彼女を人間として見ていない。一時の感情に流されてはならないと何度も自分に言い聞かせてきた。決して同情なんかしてやらない、全ての行為に愛なんてものは存在しない。そうすれば彼女も俺の事を憎悪の対象として見るだろう。その方がずっとやりやすいではないか。



――……いや、



しかし実際はどうだ。彼女が俺をどう思っているかはさておき、いやはや自分はどうだろう。本当になまえをモノとして見ているのなら「面白くない」などと思わないだろうに。俺以外の第三者――つまりはシズちゃんなんかを利用しなくとも、俺自らが散々酷く犯してしまえばいい。そうすれば彼女は更に俺への恐れを覚え、より従順な奴隷に仕上がるかもしれない。何度も何度もこうして同じ考えに至った。それでも俺が彼女と身体の関係を求めないのには1つ大きな理由がある。それは多分大半が俺の持つ変なプライドのせいなのだろうけれど。

第三者の介入。それは彼女の事を更に手懐けるには必要不可欠だった。主人の目前で第三者に身体を弄ばれるという行為は、ここまで順調に形成されていった彼女の心を大いに動揺させる事だろう。だから、例えどんな事があろうと欠かす訳にはいかなかった。全ては彼女を自分の手中へと収めるが為に。その為ならば俺はなんだってするだろう。



「手、止まってる」

「! ひあッ……!」



継続的に与えられる快感に耐え凌いでいたなまえ。ヤツの膨大な欲の塊は相変わらず脈打っていたし、手際の悪いなまえのたどたどしい手の動きでは到底終わりそうになかった。ならば仕方がないとなまえの両足首を掴み上げ、愛液にまみれたヒクつくそこを見せつける。ヤツは驚きこそはしたもののそこから視線を外す事は出来ず、黙視したままゴクリと生唾を飲み込む。

所詮、化け物も性欲には忠実という訳か。やはり面白くない。しかしそれだけではなかった。同時に確信する。もしかしたら俺は、今まで思い通りにいかなかったこの化け物をも思い通りにする事が出来るのではないか?なまえへの同情心を逆手に取り、彼女自身を餌にしてしまえばヤツはきっと食い付くだろう。そうとなれば後はこちらのもの。



「使ってみない?」

「……」

「あ、でもココは駄目。シズちゃんなんかには勿体無いからねえ。なーんか飽きてきちゃったし……さ、そろそろ仕上げといこうか」



ココ、と指し示したぐちょぐちょの秘部にぐいっと己の親指を捩じ込む。途端に伝わってくる小刻みの振動に、それに合わせてビクンビクンと脈打つ温かい内壁のうねり。更に奥へと捩じ込んでいくと、親指はぐちゅりと音を立てて意図も簡単に付け根まで飲み込まれていった。引き腰になるなまえの身体を包み込むように背後から抱く。甘い声で大丈夫だからと耳元で囁いてやると、なまえは目尻に涙を溜めて1つだけコクリと頷いた。大丈夫だなんて根拠は何処にもないのだけれど。



「俺に愛されたいのなら、何より従順でなくちゃね」

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