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これは、私がどれだけ主人の要求に応える事が出来るかが試される。意思のない道具としてではなく人間として扱われたいというのなら、それ相当の事をしてみせろ。遠回しにそう言いたいのだろう。臨也さんは私の身体に巻き付いた縄から一旦解放してくれた。しかし、両手の自由は奪われたまま。両手首には痕が残ってしまう程に、きっちりと赤い縄が絡み付いている。



「今から出す命令に、君なりに忠実に応えてごらん」

「私なりに、ですか」

「そう。言っただろう?これは賭けなんだ。もし君が俺を"その気"にする事が出来たら、ご褒美をあげる」

「その……もし、私が負けた時は……」



彼の顔色を伺いながら、恐る恐る問う。臨也さんはにんまりと笑うだけで何も答えてくれなかった。想像するのは容易いが、口にするのも恐ろしい。私は敢えて気付かないフリを貫き通す事にした。奴隷の素質のない用済みが一体どうなってしまうのか――弄ばれる玩具に逆戻り、もしくは捨てられるだけの哀れな存在。

一瞬だけ、捨てられてしまうのもまた別の手段かもしれないと考えが過った。しかしそれが主人からの解放を意味していたとして、私の求めている自由とは何かが根本的に違う気がする。



「俺ねぇ、シズちゃんと約束しちゃったんだ。次会う時までに、なまえにフェラくらいは教え込んでおくからって。……この意味、分かるよね?」

「……」



その言葉の意味が分からない程子どもではない。しかし、自由の利かないこの状態で一体どうしろというのか。戸惑う私の心情をすぐに察したのか、臨也さんは表情1つ変えずに淡々と私への要求を口にする。まずは俺の言う通りに従えと。

つい先程まで私が縛り付けられていたその椅子に、臨也さんがほんの少し両足を広げ悠々とした態度で腰を掛ける。足と足の間のスペースに膝立ちをするよう促され、私は一切の抵抗をせず従う事を選んだ。ここで抵抗したとして、それが私にとってプラスの要素と成りうる事は決してない。とにかく今は、自分の身を守る事を優先的に考えなければ。長きに及ぶ行為は無駄に体力を削られるだけだ。



「何を戸惑っているんだい?」

「え、えと……手……」

「……あのさぁ、ちょっとは考えられない訳。手なんか使わなくたって、さ」



そう言うなり臨也さんは私の頭を乱暴に掴み、あろう事かそのまま引き寄せ――



「ジッパー、口で下げて」

「!?」

「ジッパーのタグを軽く噛んで……あとは簡単だろう?」



つまり彼は、手を使わずに口だけを使って奉仕してみろと言っているのだ。勿論口というのは、無駄口を叩く為に使えという意味ではない。彼の要求全てに、両手の自由を奪われたまま応えろという過酷な命令だ。

彼は早くしろとでも促すように、力強く掴んだ私の頭を更に己の下半身へと引き寄せた。突然の事にバランスを崩し前のめりに転びそうになるものの、かろうじて膝でバランスを取る。そして目と鼻のすぐ先にあるズボンのジッパーを躊躇いつつも唇で挟んだ。ジジジ…と音を立て、ゆっくりと下ろされてゆくチャック。



「そう、いい子」



彼は私が従順であればある程優しい。つい先程までとは打って変わり、冷たさを帯びたあの綺麗な声が今は柔らかで温かいのだ。臨也さんに優しく頭を撫でられて、素直に喜んでしまう自分がいる。褒められる事が無性に嬉しくて、だから私は素直に従ってしまうのだと思う。例え、非情な時の彼とのギャップがどんなに大きなものであろうと。
開かれたジッパーから取り出されたそれは、頭の中で想像していたよりもずっと大きかった。どんな事でもしようと覚悟していたはずなのに、いざ目の前にするとどうしたらよいのか分からなくなってしまった。キュッと閉じた唇を恐る恐る開き、先端を口に含む。性器独特な風味に思わず顔をしかめるも、主人の希望に応えようと懸命に堪えた。



「もっとくわえ込んで」

「む……」

「舌使って、先っぽ舐めて?」

「んっ ……ふ」



知識の無い私は臨也さんの言う通りにする他ない。出来るだけ竿部分を口内へ迎え入れ、亀頭にそっと舌を添える。唇を窄めれば窪からはじんわりと先走りが溢れ、突然舌先に感じた苦味に驚いた私は思わず性器を吐き出してしまった。当然臨也さんがそれを許してくれるはずもなく、半ば強制的に私の口へ再び自分のモノを捩じ込む。容赦無く無理矢理押し込まれ、息苦しさからか目尻には自然と涙が滲んだ。ぼんやりと揺らぐ視界の中で、彼はそんな私を見下し笑みを深める。



「誰が離していいって言った?」

「…ッ、むぐゥ……!」



更に奥へと捩じ込まれたそれで口いっぱいになったこの状態では、喋る事すら呼吸さえままならない。臨也さんに頭を固定されてしまったが為に自力で今の状況を脱する事も出来ず、とにかく今は臨也さんをいち早く満足させる事が最も賢明なのだと判断した。

喉にまで達しそうなそれに舌を絡ませ、たどたどしく這わす。浮き出た血管のような感触を舌先で感じ、懸命に舌で奉仕する程にそれは大きく脈打った。臨也さんが感じているサインなのだと悟ると同時に、何故だか嬉しくも感じる。しかしどうにも決定的な刺激には結び付かないらしく、時折吐息を漏らしながら臨也さんが優しく私に指示した。



「は…ッ、そうそう。出来るだけ舌に唾液絡めて……」

「ン、 ……?」



無我夢中で奉仕していた最中、押さえ付けられていたかと思いきや、今度は何の前置きもなしに引き剥がされてしまった。無理に引き離されても尚、舌と性器を繋ぐ銀色の糸の光る様がやけにやらしい。口に含んでいたモノを改めて目にし、途端に恥ずかしくなってすぐに顔を背ける。唾液でテラテラと光るそれは初めて見た時よりも更に大きさを増し、浮き出る血管も感覚だけでなく目に見える程。



「舐めて」

「ぇ……」

「舌だけ出して、アイス食べるみたいにさ。分かるだろう?」



両手が後ろで縛られている為多少不安定ではあったものの、今度は自分から足の付け根へ顔を埋め、唇を寄せて舌を出した。既に立ち上がりかけていた性器の竿から亀頭までを幾度か這って往復し、その度に首を何度も上下に振る。付け根あたりも舐めてと臨也さんから注文を受け、一瞬の躊躇もせず素直に従った。その際に頬とそそり立つ性器とが必然的に触れ合い、先走りと唾液が頬を濡らす。その様を笑いながら見ていた臨也さんが、指で軽く拭ってくれた。

ぬるりとした感触。それは決して心地よいものではないけれど、彼が少しでも気持ち良いと思ってくれたのならそれでいい。主人の為にこの身を捧げ、出来る限りの奉仕を尽くす――それこそが奴隷の姿。果たして今の私は本来あるべき姿に近付けているのだろうか。



――もっと気持ち良くなって欲しい。

――もっと気持ち良くしてあげたい。



今はただその一心で。言われてもない事を、私は自分なりにフェラというものをひたすら続行した。窪を舌先で突っついてみたり、軽く甘噛みしてみたり。しかし次の瞬間、突然臨也さんは私を再び突き放し「ストップ」と口にした。どうやら私は奉仕する事だけに夢中になっていたらしく、徐々に変わりゆく彼の表情に気付いていなかったのだ。

遠慮がちに彼の表情を覗き見る。臨也さんはいつになく余裕のない表情で、表情から笑みは消えていた。しかし私と目が合うと同時に再び怪しげな笑みを取り戻すと、足の爪先で私の秘部をぐりぐりと刺激した。今回ばかりは快楽を与える側であった私は、久方ぶりに他者から与えられる快楽にふるりと身体を震わせる。



「ぁ……」

「あは、ぐちゃぐちゃ」

「い、臨也さん」

「なぁに。俺の舐めて、そんなに興奮しちゃった?」

「……ッ」



彼の言う通り、私は興奮しているのだと思う。その証拠に頬が、身体が火照っているのが嫌でも分かる。ただでさえズボン越しに触れられただけで、こんなにも気持ち良いのだから。



「あの、私……」

「まだ駄目」



そう言って制すると、臨也さんはゆったりとした動きで椅子から立ち上がり、膝立ちしていた私の肩を軽く押した。予期せぬ衝動に耐えきれず私の身体はぐらりと揺らぎ、そのまま床へと倒れ込む。辛うじて受身は取れたものの縛られていては手をつく事も出来ず、叩き付けられた肩部の骨がズキリと痛み悲鳴を上げた。

性器を取り出した臨也さんが私の顔を挟むように膝立ちになるものだから、痛みに一瞬顔を歪ませつつも、この先に待ち受けているであろう展開に思わずごくりと喉が鳴る。むんずと髪を鷲掴みにし私の顔を持ち上げると、案の定彼は膨張したそれを勢いよく口の中へ突っ込んだ。絶え間無く腰を打ち付け、ずちゃずちゃと卑劣な音を響かせながら出したり挿れたりを繰り返す。その素早いスピードについていけず、口の中で激しく動く性器にただただ犯されていった。飲み切れなかった先走りと唾液が口の中で混ざり合い、口端からつつ…と伝って落ちる。気持ち良くするテクニックなど一切不要で、今はただ突っ込まれる為の"穴"として何も言えずに従うだけ――



「そろそろ出すね」



彼のその言葉を合図に性器は一際大きく脈打ち、次の瞬間口の中はみるみるうちに苦味を増していった。



「……!? ん、ぐっ」



その凄まじい味に本気で吐き気をも催すが、臨也さんはそれを許さない。ドクドクと精液を絞り出した後も性器を取り出そうとはせず、私の髪も掴んだまま。涙目になって無言で訴えるものの、彼はそれを知ってか知らずか清々しい笑顔でこう続ける。「残さず全部飲んでね」と。それはお世辞にも美味しいと言えるものではなかったし、ネバつく精液は飲み下すのにかなりの時間を要する。一気にたくさんの量を飲み込もうとすると、ねっとりと喉に絡み付いて離れないのだ。

少しずつ口内の精液を喉の奥へと流し込み、こくりと喉を鳴らしながら確実に量を減らしてゆく。どうやら全て飲み終えるまで満足しないらしい。やっとの思いで飲み切ると、彼はようやくずるりと性器を取り出した。唾液だけでなく精液で白濁色に濡れたそれを私の頬にぴたりと当て、綺麗にしてと言って擦り付ける。



「ほら、早く」



頬にぬるぬるの精液を塗り付けられ、特有の匂いが鼻に広がった。雄を感じさせるその匂いに不思議と頭がトロンとし、もはや何も考えられなくなる。ならばいっそのこと、このまま意地もプライドも全部捨ててしまえばいい。かつて私が人間でありたいと頑なに守り続けた意地とプライド。それが今や崩壊し、彼の奴隷でありたいと強く願う。

舌を器用に使い、精液を念入りに舐め取る。直に舌先で感じるその味はやはり苦味が強かったものの、嫌なのかと問われればそんな事はなかった。

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