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※裏






これでもう何度目になるか、もはや覚えてなどいなかったが、今交わした彼女との深い口づけはしょっぱくて、僅かに涙の味がした。みさきはどうして泣いているのだろう。昔から感情が豊かだと他人にはよく言われていたが、それは苛立ちであったり憤怒の感情がほとんどであって、他の感情ーー特に悲しみに関しては疎いものがあった。辛い、と感じたことはある。この並外れた力を心底嫌ったあの幼少期がそれに該当する。しかし、それを理由に涙を流したことは1度たりともなかった。そんなことを言い訳に泣くなんて情けない、格好悪いことなのだと幼心にそう言い聞かせていた。

欠落しているーーその自覚はとうにある。その空白を埋めてくれるのがみさきただ1人だった。それは自身の本心に他ならない。代わりなどいない。いるはずがない。



「っ……はぁ、みさき……」

「ふ、ん……っシズ、っ……は、ぁ」



ゆっくりと、しかし確実にみさきの快楽を惜しげもなく引き出していく。すでに余裕のないみさきの表情は妖艶で、それでいてとても美しかった。その綺麗に整った顔を乱してやりたくて、口づけを交わしたその唇で続けざまに愛撫する。熱く濡れた舌で欲を煽り、時折思い出したように敏感な部位へと歯を立てる。その度に跳ね上がる小さな身体を抱き締めて、愛しげに彼女の名前を呼んだ。ただ、ひたすらその繰り返し。己の下半身は既にはち切れんばかりの欲に今にも爆発してしまいそうなほどで、すぐにでも温かな彼女のナカへと己の欲望を突き立ててしまいたくもなった。そんな衝動に駆られるも、せめて自制の効くうちは優しくしてやりたいと思っていた。いつ、どのタイミングで理性がぶっ飛ぶかなんて俺自身よく分からない。それが分かれば苦労しないのだが、と、内心面白おかしく笑う。その笑みが堪えきれず外に漏れてしまっていたのか、みさきがそんな俺の顔を見て不思議そうに首を傾げた。



「シズちゃん、笑ってる……?」

「っ……はは、そりゃあ笑いたくもなるさ。今、みさきとこうしていられるんだからな。嬉しいんだよ、俺は」

「……シズちゃん……」

「そういうみさきは、どうして泣きそうなツラしてんだっつの」

「えへへ……好きだよ、シズちゃん」

「お、おぅ……って、なんか誤魔化してねぇか?」
「そんなことないよ」


そう言ってふにゃりと笑うみさきがあまりに可愛くて、愛しくて。

ブツン。今の鈍い音がまさしく理性の糸が切れた瞬間だったのだと悟り、思わず「やべぇ」と言葉が口を吐いた。途端に目の前が真っ暗にーーいや、真っ白?とにかく、目に映る世界全てが徐々に一色に塗り潰されてゆく。この現象を上手く言葉で表現できないことがもどかしくもあり、そんなことを考えているうちに身体だけが本能のままに動く。



「(駄目だ、我慢の限界)」



不意打ちで彼女の身体を押し倒し、そのまま覆い被さるように身体を重ねる。勢いのままに首筋へと吸い付けば、白い肌には薄っすらと鬱血の華が咲いた。自らが残したそれを愛おしげになぞり上げ、視線は徐々に下へ下へと落としてゆく。そしていざトロトロと愛液を溢れ出し、まるで誘うように入り口をヒクつかせるソコを目の前にし、思わずごくりと息を飲んだ。まるで我慢の末、極上の好物を突然目の前に突きつけられたような、そんな感覚。いてもたってもいられず、俺はてらてらと艶かしげに光るそこに言葉通り”がっついた”。



「ひっ……!?」



びくりと震える太腿を抑え、わざと卑劣な水音を立てながらむしゃぶりつく。喘ぎ混じりの熱い吐息を漏らしながら、みさきの目尻には生理的な涙が溜まってゆく。もともと快楽に弱い体質であるみさきが絶頂を迎えるのは間もなくのこと。それでも尚、唾液に塗れたそこの愛撫を一向にやめようとはしない。ぴちゃぴちゃ、にちゅにちゅと厭らしい音で耳をも犯し、窄めた舌でぐりぐりとナカを刺激する。無我夢中で舐め回しているうちに、とうとうみさきは泣きながら嫌だと言って懇願した。



「や、やだぁ……もう、い、から……!」

「ん……、何が、だよ。舌だけじゃあ足りねぇか?」

「……っ!」



カァッと耳まで赤くしたみさきは、暫し黙り込んだまま俺を見つめ、やがて余裕の無い声でぽつりと呟く。



「……焦らさないで……」

「へぇ?なら、欲しいって言えよ」



意地悪。そう言ってみさきは恨めしそうに俺を睨むと、おずおずと口を開き、一言「欲しい」とだけ言った。何を、とまでは言わないところがみさきらしいのだが、それだけでも俺を興奮させるのに十分過ぎるほどだ。潤む瞳、火照った身体、極め付けには俺を欲しいと言う。それがどんなに刺激的なことか。途端にずくん、と疼く下半身は、何より笑ってしまうくらい正直だ。心身共に限界を感じた俺は、緩めたズボンから欲望の塊を取り出し、ヒクつくそこにぴったりと密着させた。先端を擦り付け、粘着質な液体を絡ませながら、一方では首筋から鎖骨にかけて何度も唇を滑らせる。くすぐったそうに身を捩らせるその仕草が可愛くて、感情の昂りは止まることを知らない。

何度も何度も名前を呼び、髪を撫でる。それでも、これから訪れるであろう痛みと快感を恐れているのか、みさきの表情が和らぐことはない。これも本能的な防衛反応の一種なのだろう。唇を噛み締め、ぎゅっと両目を瞑っている。まさに嗜虐嗜好な輩が好むであろうその反応にほくそ笑みを浮かべている自分に気付き、ふと頭をよぎった下種な感慨に若干の自己嫌悪に陥る。



ーーやはり、俺は狂っているのか。



大丈夫、痛くしないようにするから。耳元で優しく囁き、出来るだけ相手を安心させようと極力努める。そんなもの口先だけで、何をぬけぬけと。こんなにも厭らしいことをしておいてよく言えたものだ。そう罵られてもおかしくない。それでもみさきは何も言わず、拒絶せず、こんな俺を受け入れようとしてくれる。それがどんなに嬉しくて、幸せなことか。



「……息、止めんなよ」

「ひ、んっ、んあぁぁッ……ーー!!」



しとどに溢れた蜜が潤滑剤代わりとなり、互いの性器は難無く1つになる。こんなにも容易く1つになれるというのに、何を今までこれまでの時間を無駄に費やしてきたというのか。無理矢理にでも相手の身体を割り開き、力任せに犯すことはもっと容易い。みさきにはそれに抗うだけの力がないのだから。ただ、そこに相手からの愛を求めなければ。

見返りが欲しかった。それもこれも全部、1度味わってしまった蜜があまりに甘く、そして手放し難かったから。加えて俺は強欲なことに、自分以外の誰一人として、その蜜を味わらせてなんかやりたくなかったのだ。



「っ、……はぁ、はぁ……」

「……大丈夫か?」

「んっ……な、なん、とか……」

「痛かったら言えよな。途中でやめれる自信はねぇけど、加減はするから。……多分」

「あは……なにそれ。多分って」

「だってみさき、お前可愛すぎ」

「……!」

「ちょ……っ、締めんなって。挑発かよ」

「違……ッ、だ、だって、シズちゃんがそうやって、恥ずかしいこと言うから……、ひゃあんっ!」



下から捻り込むように突き上げた瞬間、みさきが小さく悲鳴をあげる。よほどイイところを突いたのか、彼女の身体が酷くビクビクと痙攣しているのを感じ、思わず口端が上がる。今しがた確認した箇所に重点を置き、少しずつ角度を調整しつつ、感覚だけを頼りに腰をひたすら突き動かす。



「ここ、か?」

「あッ!……んっ、やぁっ!!」

「……やっぱりな」



恥も何もかもなく、ただひたすら快楽に喘ぐ彼女の姿を目の当たりにし、確信する。恐らく、今、執拗に突いている”ココ”がみさきの1番感じる箇所なのだと。そうと分かれば話は早い。一旦引き抜いた自身を再びひと思いに突き入れ、その度にベッドの上をか細い身体が跳ねまわる。上体を丸めてぷくりと腫れ上がった乳首に歯を立てれば、みさきの口からはひっきりなしに甘い矯声が溢れ出た。その声を零すことすら許せなくて、いっそのこと全て奪ってしまいたいとさえ思う。声を、そして呼吸をも奪い取るように激しく口づけを交わし、同時に結合部をぐちゃぐちゃに掻き回す。何もかもドロドロにして、いっそのこと1つになってしまえたらいいのにーーそんなことを考えている自分がなんだかおかしくて、女々しくて、笑える。その一方でみさきはというと、与えられる快楽に反応することだけで精一杯のようで、表情からは余裕の無さを感じられた。



「なぁ……みさき。全部……俺に、くれよ……っ」

「ふ、あぁっ!まっ……ふか、い……!!」



ーーその声も、身体も、心も。

ーー全部、俺だけのものになればいい。

ーー……そうだ。そうすればもう、みさきは誰にも奪えない。

ーーずっとずっと、俺だけのものに……



それからは、かろうじて留めていた理性という名のストッパーは何の意味も成さず、ただ本能のままにみさきを犯し続けた。俺だけのものだという証を残したくて、執拗に、身体中に真っ赤な痣を残す。その様を見下ろすように眺めては満足気に目を細め、何度も何度も繰り返し。彼女の喘ぎと俺の息づかいだけが混じり合い、そして部屋を満たしていった。幸い、この部屋の壁は厚く、防音対策がなされていたはずだ。昔、新羅がそんなことを言っていたのを思い出すが、いずれにせよ今の自分にそこまでの配慮が出来たかどうかは分からない。



「も、だめぇ……っ、こわれちゃ……!」

「……はっ、いっそ壊れちまえ」

「んあぁっ、ぁあ……ーーっ!!!」



しなやかな身体が一際仰け反り、声にぬらぬ叫びと共にみさきは先に達してしまった。それでも俺の動きは変わることなく、寧ろスピードを更に速めてゆく。ひと呼吸置く余裕すら与えてもらえず、みさきからしてみればなんとも酷な話だ。イッたばかりの身体はより感度を増し、内壁はきゅうきゅうと搾り取るように俺の自身に纏わりつく。その感触が心地良くて、まるで相手からも必要とされているかのような幸福感に浸れるのであった。だって、みさきはこんなにも俺を締め付け、離そうとしない。それこそ俺を必要としている何よりの証拠ではないか。

どくん、と自身が一際大きく脈打ち、そろそろ限界が近いことを悟る。ここでふと我に返り、さてどうしたものかと頭を悩ませることとなった。今更気にするのも可笑しな話であるが、ここは自分の家ではなくて、ベッドも人の家のものを借りている。このままではシーツを汚してしまうのではないか。新羅相手に何と言おう。当然、そう簡単に答えが出るはずもなく、白濁色の欲望は容赦無く寸前まで込み上げてくる。こればかりは自然現象だから仕方がない。



「(……後処理、ちゃんとすればいいか)」



この場に似つかわしくないことを考えながら、俺は布団を掴むみさきの手の指に己のそれを絡ませ、ギュッと固く握り締める。それは合図のようなものだった。破裂寸前の熱を絞り込むように扱きたて、背筋を駆け上る熱に促されるままに、俺は同時に捻りをくわえて腰を打ち付け、みさきの身体を貪った。汗ばんだ身体を密着させ、愛しい彼女の名を口にしながら。



「は、ぁ……みさきっ、みさき……!」

「や、だめっ……シズちゃ、ぁっ、ひあぁッ……ーー」



びゅく、と勢いよく放たれた熱はみさきの腹部に吐き出され、その白い肌を汚す様はなんとも言い難く愉快であった。独占欲が満たされてゆく感覚に、再び熱が腰の奥底からじわりと這い上がってくる。

まだ、足りない。浅い呼吸を肩で繰り返すみさきの内腿を持ち上げ、今しがたの熱を全て吐き出し切ったところで旋律を再開する。状況がうまく飲み込めずにいたみさきが「えっ、……えっ?」と戸惑いの声を上げるが、それはすぐに甘い鳴き声へと変わる。俺の首に細い腕を絡め、必死にしがみついてくる。



ーーごめんな、みさき。



心の中で、俺はひたすら謝罪の言葉を繰り返す。現実にはそれを口にする僅かな時間すら惜しくて、彼女を舌で、唇で、とめどなく愛で続けているのだが。



ーーごめん、本当にごめん。

ーー無理させちまってるってことは分かってるんだ。

ーーけど、無理なんだよ。止められねぇ。



どうしたらこの気持ちを抑え込むことができるのだろう。感情のコントロールが効かず、それに加えて疲れを知らない丈夫な身体は体力の限界というものを知らない。みさきの呼吸はすでに絶え絶え、普通の人間ならば疲れ切っていてもおかしくはない。これ以上は駄目だ、みさきに無理をさせてしまうと頭では分かっていても、言うことを聞いてくれないこの身体が憎たらしくも思えた。

乱れた姿でありながら、みさきは未だに声が漏れることを恥じており、疲労感に耐えつつ抵抗をやめない。我慢することを諦めてしまえば、少しは楽になるだろうにーーその考えはいつしか「何もかも曝け出したみさきが見たい」という悪質な興味心へと変わる。相手の体力を全て奪い去ってしまったら、成す術無くこちら側のするがままに事は進むだろう。そんな薄汚い願望に酷く唆られ、俺はみさきの体力を奪いにかかる。最低だ、と己を蔑みながら。



こんなにも歪んだ愛情を抱きながら、
それでも俺はーー

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