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※裏

(!)露骨表現注意





熱のこもった吐息を絡ませ、それからは暫しの間、どちらともなく唇を重ねていた。時折性器の結合部をぐちりと擦り合わせてやれば、みさきは小さな悲鳴にも似た嬌声を上げる。涙で潤んだその瞳は言わずともその先の快感を望んでいた。しかし互いにそれを促すようなことを口にしないのは、この行為に没頭している証拠か、或いはただ単に強がってみせているだけなのだろう。余裕のない姿なんて、男としてみっともないし格好悪い。みさきの前では大人でいたいという、何とも子どもめいた俺の意地だ。正直、限界。早くみさきの方から折れてはくれないだろうか、と、頭ではそんなことばかり考えている。



「もーちょい素直だったら言うことナシなんだけどな……」



そんな秘めたる本音がついポロリと口をついてしまった。まずい、と思った頃にはもう遅い。別に特別やらかしてしまった訳ではない。ただ、今まで秘密にしていたことがバレてしまった時のような後ろめたさが何処かにある。



「……の方が……」

「? 悪ぃ。今、何か言ったか?聞き取れなかっ……」

「すっ、素直な方がシズちゃんは好きなの!!?」

「あー……まぁ、なんつーか、その」

「欲しい」

「……は」

「シズちゃんが、欲しいの」



いやいやいや、このタイミングでそれを口にするのはズル過ぎる。危うく理性が崩壊しかけた手前で何とか我を保ち、今にも泣き出しそうなみさきの頭をとりあえず撫でてやった。彼女を宥める為にではなく、主に、自分自身を落ち着かせる為に。



「お前、無理してねぇ?」

「し、してないよ……ただ、私は……その、少しでも喜んでもらいたくて……というのは口実で、早く……その……」



まごまごとまどろっこしく言葉を続けているうちに、本当に言いたいことが何だったのか分からなくなってきたらしい。こういう状況下であることも加え、みさき自身、平常心を保っていられないようだ。誰だってこんな時はおかしくもなる。俺だって例外ではない。



「つまりね、シズちゃんと今すぐ繋がりたいの!」



いかに言葉を要約するか、頭の中で彼女なりに試行錯誤した結果がこの殺し文句だ。これを好きな女に言われた男が黙っていられる訳がない。今なら死んでもいいーー本気でそう思えた瞬間。しかしそれよりも早く俺の身体は真っ先に動き出していた。衝動的に、本能が命じるままに。

辛うじて挿入されていた先端がズブズブと音を立て、中へ中へと最奥を目指し、押し進んでゆく。初めこそは拒絶反応を示すみさきのそこも次第に完全なる受け身となり、内壁はまるで誘い込むようにきゅうきゅうと収縮し始めた。強過ぎるその締め付けが最高に気持ちイイ。情けない話、あまりの良さに早くも達してしまいそうになってしまった。このまま蕩けてしまうんじゃないかという程に熱く、そして温かい。限界まで己をも焦らし、ようやくひとつになれたこの瞬間が酷く心地よかった。それはきっと俺がみさきに心底惚れているせいなのだろう。代わりなんていやしない。ようやく見つけた、たった1人の愛すべき女ーーこのまま彼女の中を自分自身の欲で余すことなく満たしてやりたい。



「ひぅ……ッ!」



1度スイッチが入ってしまうと居ても立っても居られず、欲の塊でひくつく入口を執拗に何度も抜き差ししていく。嫌でも耳につく、ぬぷぬぷという卑劣な音。みさきの身体が赤く火照ってゆく。



「やっ……は、激し……!」



縋るように両手でシーツを掴み、涙目で喘ぐ可愛いみさき。



ーーくそ、なんでこんなに可愛いんだ。



見れば見る程に、そして共に時を刻む度にどんどん好きになっていく。出会ったばかりの頃はまだあどけない表情を残していたみさきも、今や誰もが認める美しい女へと成長した。そもそも元が良く端正な顔立ちであったが、改めて見る都度、やはりみさきは美しいのだと思う。だからこそーー怖いのだ。みさき程の女となれば、力でしか取り柄のない俺とは釣り合わない。この瞬間にだって関係をばっさりと切り捨てられても可笑しくはないのだ。みさきは俺を好きだと言うが、正直不安ばかりが募る。



ーーどうしたら?

ーーどうしたら俺は相応しい男になれる……?



そんな女々しい自分が情けなくて、何も出来ない自分に腹が立つ。前にも何度か同じことを繰り返し考えた。結果、何1つ思い付かなかった。代わりに残るのは自分への憤慨ばかりーー発散できない憤りはいつしか自虐心となり、大きく肩にのしかかる。うじうじと、そればかり。



「ふ……、し、ずちゃ……」

「? みさき……?」



ーーみさきが何かを伝えようとしている?



止まらない衝動に耐えながら、必死に言葉を紡ごうとしているみさき。俺の方へと手を伸ばし、口をパクパクとさせている。いつからそうさせていたのか、考え事をしていた俺にはすぐに気付いてやることが出来なかった。

腰の動きを少しずつ緩やかにし、一旦みさきを落ち着かせようと頬を撫でる。赤く染まった頬は冬であるにも関わらず僅かに汗ばみ、まるで高熱に浮かされているようにも見える。もしかしたら自分への憤りが反映し、つい動きが激しくなってしまっていたのかもしれない。



「……悪ぃ。なんか、余裕なくて」



申し訳なさから口をつく謝罪の言葉は、酷く言い訳じみていた。しかしみさきは首を振り、違うの、とだけ告げる。



「違うって、なんだよ」

「はぁ……違……ッ、私は、謝って欲しいんじゃないの……だってシズちゃん、様子がおかしかったから……つい、」

「!」



そしてーー気付く。俺は自分が思っていた以上に嘘が下手で、みさきにお見通しであったということに。



「……はは、敵わねぇな、みさきには」

「わ、私だって、そんなに鈍感じゃあ……!」

「心配なんだよ。みさきが、何処かに行っちまいそうで」

「ッ!」

「なぁ、笑えるだろ?俺ってこんなに女々しいヤツだったんだなあって。今この瞬間だって怖くて怖くて堪らない」

「……」



ごめんなさい、と、彼女が小さく呟いたような気がした。こんな時でも繋がったままの結合部は酷く疼いて仕方がない。違う。違うんだよ。俺は謝って欲しい訳じゃあない。ただ、感じさせて欲しい。見せて欲しい。みさきが本当に俺を好きだという証を。



「じゃあさ、少しばかりわがまま言ってもいいか?やってみたかったことがあるんだ」

「やってみたかったこと……?」


それは、ちょっとした出来心。

今だ張り詰めたままの欲の塊を勢い良く引き抜き、俺は1つの提案をする。



「んぅッ!……な、なんで」

「みさきもイきてぇよな?ここ、こんなにひくつかせてるし」

「あぁッ、……!」



塞ぐものを失い、切なげにひくつく秘部を窄めた舌先で軽く突つく。意図せずともみさきのそこは舌の動きに敏感に反応を示し、はくはくと収縮し続ける。しかしそれだけではやはりイクまでには至らず、焦れったい感覚にみさきの腰は無意識のうちに揺れていた。まるで俺を誘うかのように。当然みさき当人にそんな気などなく、ただただ抗いようもない羞恥にいやいやと首を振って懇願する。汚いからやめてくれ、と。汚いなんて思っていないし、やめる気などさらさらない。しつこく舌を突っ込んでいるうちに、みさきの目からはとうとう涙が溢れ出た。



ーー意地悪が過ぎたか。



流石に申し訳ないと思い、ごめん、と素直に謝る。みさきはず、と1度だけ鼻を啜ると、濡れた瞳で俺を見た。



「私は……何をすればいいの?シズちゃんのやりたかったことって、まさかこのことじゃあないでしょう?」

「なんだよ。本当に付き合ってくれんのか?」

「……できる限りのこと、なら」



きっとこれは彼女なりの罪滅ぼし。みさきが悪くないことは分かっている。それでもーー



「(俺はお前に行って欲しくねぇだけなんだ)」





みさきとしたいことなんて山ほどある。全部挙げたら切りが無いくらい。ただそれだけの時間と余裕が今の俺たちに残されてはいなかった。だからどの行為を最も優先すべきなのかもよく分からない。猶予があるのなら他にもっと話しておくべきことがあるだろうに、例えばこれからのお互いのことだとか。それでも俺はみさきと少しでも長く深く繋がっていたいと願った。そもそも考え事は得意ではないし、話し合ったところで状況は何1つ変わらないんだ。きっと。そんなことを考えながら、俺は羞恥により一層顔を赤くしたみさきが俺の上に覆いかぶさる一部始終を眺めていた。しかし彼女が向いているのは俺と同じ方向ではない。愛液の滴るやらしい内腿で膝をつき、俺の自身に恐る恐る口づける。この体勢を所謂69とか言うらしい。以前みさきとのマンネリを恐れた俺が、如何わしい雑誌から知識を習得したものの1つである。各々の性器を相手に向けて組み合うその様が名前の由来であり、随分と体力を消耗しそうだというのが率直な感想であったと記憶している。男女どちらが上になってもいいのだが、ここで敢えて体力の勝る俺ではなくみさきを上に選んだのは、ほんの小さな出来心。ただ純粋に、俺の為に必死になるみさきの姿を見たかったのだ。

あと少し彼女が腰を落とせば、もうすぐ目の前に迫るであろう濡れた秘部に指先で触れる。人差し指の第二関節辺りまでを一気に挿し込み、ぐるりと中を探るように動かした。緩い刺激を与えながら更に中指を追加すると、指の骨がイイところを掠めたのか、俺自身をどう愛撫しようか戸惑っていたみさきからは鼻に掛かった甘ったるい悲鳴が上がった。



「んう……ッ、ひ、人がせっかく頑張ろうとしてるのに……!」

「んないつまでも焦らされてたら、あっという間に朝になっちまうぜ?それに、こんなもん目の前に見せ付けられてたら我慢できない」

「こ、これは、シズちゃんが……恥ずかしい格好、させるからで……ぁあッ!!」

「ほら、喋ってばっかいねぇで、そんなんだといつまで経ってもイかせられねぇだろ」

「ひぅ……わ、たしだって……私も、気持ち良くしてあげたい……から……」



必死に息を整えようとしているみさきをもっと弄り回してやりたいという思いもあったが、ここはひとまずみさきの意思を尊重することにする。何もかも己に指導権があるというのも気が引けたし、何よりみさきの口から発せられた建気な台詞は、それだけで俺の心を十分に満たしてくれた。

みさきは肩で大きく呼吸を繰り返しながらも、ガクガクと快楽で震える腕で懸命に体勢を立て直す。そして俺の自身を優しく両の手で包み込むと、先端部分を舌先でチロチロと舐め始めた。忘れ掛けていた熱が腰の奥底からじわりと這い上がってくるのを感じる。負けじと彼女の性器に直接舌先を伸ばして触れれば、みさきも負けじと舌で応戦する。まるで我慢大会のような互いの愛撫が続き、並行戦の末ついに力尽きたのはやはりみさきの方だった。逃げるように持ち上がる腰を逃さぬよう両手で固定し、滲み出る愛液を舐め取る。継続的に与えられる快感に力を奪われ、腰だけ突き出したまま突っ伏すみさきの姿は酷く征服欲を刺激させる。



「お、願……シズちゃん……もう、」

「あぁ、俺も限界」

「ひっ、ぁん……んん!!」



辺りに立ち込める特有の匂いはまるで媚薬のよう。痺れる脳髄ではただ気持ちイイことばかりが優先されてしまう。快楽に溺れ、理性を手放し、まるで野生動物のように求め合う。これから訪れるであろう空白の時間を埋め合わせるように、隅の隅まで貪り尽くしたい。そうでもしないと失った後の喪失感に頭が狂ってしまいそうだ。

果たして俺は耐え切れるのだろうか。みさきのいない色褪せた世界での退屈な日々を思い起こす。途端、走る悪寒。何もかもどうでも良くなってしまうのだ。家族のことやトムさんへの恩、友人のセルティや腐れ縁の新羅、他にも自分に連なる全ての人々ーーそんな彼らのことさえも。なんて自分は空っぽな人間なのだろうと自虐的に笑う。



ーー結局、自分が可愛いのか。

ーーいや、そもそも人間ではなかったっけか。



みさきの喘ぎを遠くに聞きながら、俺はむくりと上半身を起こすと、毛布に額を擦り付けたまま肩で呼吸するみさきを抱き起こした。まるで親猫に首根っこを咥えられた子猫のように、されるがまま力無く抱え込まれるみさき。己の胸に背中を預けるよう座らせ、その体勢のまま挿入した。みさきの身体にはもはや重力に逆らう力も残されていない。とろとろのあそこはあっという間に俺を咥え込み、何度か内壁をうねらせた後、すぐに順応していった。

後ろから彼女を抱き締めて、衝動のままに無我夢中で腰を打ち付け揺さぶり続ける。絶頂が近付いてきたことを感知すると、俺は無意識のうちにみさきの名前を呼んでいた。1度のみならず、幾度も。



「みさき……っ、みさき……!」



ぐいと顔だけ後ろを向かせ、赤く色付いた唇に貪り付く。それとほぼ同時に己の欲を彼女の中にぶち撒けた。一滴残さず注ぎ込み終えても尚繋がったまま互いに呼吸を整え、暫し2人の間には濃密な息遣いだけが響き渡る。ようやく自身を引き抜くと、ごぽりと音を立てて白濁色の液体がとろりシーツに流れ出た。

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テーマ「人外ファンタジー」
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