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※裏





俺自身に向けられる言葉はいつだって悪意に満ちていた。俺だってごく一般家庭で生まれ育った人間だ、血も涙もある。周りの視線に耐えきれず辛くて苦しい時期もあった。ただどんなに辛くても自分の存在を肯定出来るものなど何処にもなくて。高校を卒業してからは、これ以上両親に迷惑を掛ける訳にはいかないと早々自立を決意し、たった1人で出た世の中はあまりにも冷めきったものだった。

どうせそんなものだ、結局は皆自分が1番可愛い。突き付けられた現実に毒を吐く日々、だけどその一方で羨ましくもあった。俺には自分を好きになる事など出来やしないのだから。他人からも愛されず、自分さえも愛せない。自暴自棄にだってなる。ずっとずっと欲していた愛の言葉――『好き』という、たった2文字の言葉。昔は誰からだって良かった、ただ認めて欲しかった。それがいつからだろう。がむしゃらに欲していたその言葉を、みさきの口から、みさきの声で聞きたいと思い始めたのは。いつからだろう。みさきにさえ認めて貰えれば、他にどう思われようがどうでもいいとさえ思い始めたのは。



「ふ…、んゥ……」



みさきがくぐもった声を出す度にいちいち身体が反応する。声、仕草、全てが愛しくて堪らない。そして何よりも、みさきが俺を好きだと言ってくれた事の喜びが、胸をはち切れんばかりに膨れ上がる。初めはその言葉の意味をよく理解出来なくて、受理するのに少々時間を費やした。だけどハッと我に帰り、事の重大さに気付くよりも先にみさきを愛してやりたかった。精一杯の気持ちを相手に伝える術は、とにかく本能のままに実行へと移すべし。口下手な俺が百の愛言葉を並べるよりも、その方がきっと伝わるかと思ったから。

ぐるぐると、頭の中で自問自答を繰り返す。みさきは言った。俺の目を見て「好き」と。本当に?帰って来るなり押し倒され、訳が分からないうちに犯されてしまいそうなこの状況で。未だに信じられなくて、目の前にいるみさきは俺の妄想の産物なのではと錯覚してしまう程だった。嬉しい事に指先から伝わるみさきの低めの、だけどいつも以上に温かな体温が、これが現実である事の唯一の証明。



「(あったけぇ……)」



人肌がこんなにも優しくてあたたかなものだったなんて、今まで知る由もなかった。ただその場にみさきがいるだけで、こんなにも幸せな気持ちになれる。嫌な事など全部忘れて。



「はぁ ……ん、」

「声、出せよ」

「ヤ……、ここだと声、余計に響く…から……ァ!」



何度も何度も快感に喘ぎ狂うみさきを想像した。だけど実際にその様子を目の当たりにすると、俺の想像なんかよりも色っぽくて。下着が透けて見える程にぐっしょりと濡れたシャツ。そんな刺激的な姿にゴクリと喉を鳴らしつつ、裾から両手をゆっくりと忍ばせ、下着越しに双方の膨らみを焦らすように愛撫した。

大きく揉み回しながら少しずつ下着をずり下ろしてゆくと、固くなった突起が顔を出す。それを指先で弾くように弄くり回し、執拗に同じ箇所ばかりを愛撫し続けた。立て続けの快感に耐えきれず、終いには嫌だと言って逃げ腰になるみさき。ただでさえ自由の利かないみさきの両腕を己の両腕の間接部分で上手い具合に拘束し、尚、愛撫の手は休めない。俺の手で確実に追い詰められてゆくみさきの様にひどく興奮を覚えた。



「! ゃ……駄目!!」



突然脱力しきった身体を無理矢理起こし、下半身へと伸ばし掛けていた俺の右手を必死に掴む。簡単に振り払ってしまえるくらいに弱々しかったけれど、俺は敢えてその動きを止めた。やめるつもりは毛頭ないが。



「なんだよ。今更やめろってのは聞かねぇぞ」

「え、と……その、今ソコはまだ……ひゃんッ!」



みさきが言い終えるよりも早く、掴まれた方でない腕で割れ目を撫で上げる。本当は上ばかりを攻めて、暫くはいじめてやりたいとも考えたが、何処を触られるとみさきが1番乱れるのかは俺がよく知っている。下着越しの柔らかな感触に心踊らせ、邪魔なものは全て浴槽の外へと放り投げた。

たっぷりと水分を含んだそれらは、べちょ、と重々しい音を立てて落ちる。このまま放置していても到底乾きそうにないだろう。それにしても、俺はつくづく酷い男だと思う。みさきの嫌がる表情が見たくて、わざとみさきの嫌がる事をするのだから。そしてその瞬間だけは、他の誰よりもみさきを独占しているのだと実感する事が出来るのだ。



「ぁ……っはァ」



小刻みに震える熱っぽい吐息。感じてくれているのだと確認すると共に、もっともっと乱れて欲しいと思ってしまう。ふにふにと柔らかい箇所にまず中指を宛がい、指先を突き立てるように下着の布ごとナカへと沈み込ませる。そこは浴槽にはられたお湯なんかよりも断然温かくて、だけど上手く指先を動かせない。すぐに布1枚の隔たりさえも鬱陶しく思った俺は、みさきのほぼ無意味な抵抗もお構い無しにずるりと下着をずり下ろした。

自由に動けぬよう浴槽の縁に掛けておいたみさきの片足を左、右の順に高く持ち上げ、手際よく脱がす。これで下を覆うものは何も無くなった。思わず凝視してしまう下半身への視線に気が付いたのか、みさきは慌てて両足を閉じようとするが、そうはさせまいと大きく開脚させた状態で再び元の状態へと戻す。両足が水面よりも高い位置にあるという、またも無理な体勢にみさきの上半身が後ろへと崩れるが、それを優しく包み込むように、身体全身で受け止めてやった。



「こ……こんな格好……ひ、ぁああッ!」



ビクン!と一際大きく跳ね上がるみさきの身体。両足が左右に大きく開脚したままである事に加え、先程の愛撫によって、秘部はひくひくと痙攣しながらぱっくりと口を開いていた。ただでさえ敏感なみさきの身体が更に感度を増す瞬間――そう、俺はこの反応を待っていたのだ。何もせず、ただ指の腹でそっと触れるだけで、綺麗な肌がぞわぞわと面白いくらいに泡立つ。

この場にそぐわない感情かもしれないが、今この瞬間俺は"楽しかった"。この可愛らしい姿を、仕草を、自分だけの目にとどめておけるのだ。しかしその一方で欲深な欲求はむくむくと膨れ上がるばかり。こうしたら、次はどんな反応を見せてくれるのだろう――と。



「みさき。後ろに体重預けてろ」

「ァ…、……?」



手の甲で口元を覆いながら潤んだ瞳で俺を見上げる。今にも涙が零れ落ちそうな目尻にそっと口づけ、するすると腹の上を伝いながら秘部全体を覆うように撫でた。次いで、ぬるりとした感触に思わず口元が緩む。



「はは、水ン中でも分かるんだな。すげーぬるぬる」

「! 違…ッ、それは……ンう!」

「じゃあ、なに。まさかコレもお湯です、なんて事は言わねぇよなあ。こんだけ濡らしといてよぉ」

「う、ぅ……恥ずかしい事言わないで……ひぁん!」



左指を使ってそこを押し拡げてみると、それこそアダルト漫画で使われる『くぱぁ』なんて効果音が聞こえてきそうな――それほどまでに、みさきは十分に濡らしていた。ここがお湯のはられた浴槽の中でなかったら、仮に真白なシーツのひかれたベッドの上であったのなら、とろとろと溢れんばかりの愛液が丸いシミを作り上げていた事だろう。

1つ息を吐き、指先を小刻みに動かしながら隠核を刺激する。強く押し付けてみたり、時折ぎゅっと摘まんでみたり。悩ましげに眉をひそめながら、みさきは声を圧し殺して鳴いた。



「……―――ッ!」



今にもイッてしまいそうな瞬間、俺は静かにその手を離した。達する事の出来なかったみさきは肩で大きく呼吸をしつつ、もどかしい様子で唇を噛む。より彼女を深く愛せるように、俺はみさきの両足を縁から下ろしてやると、くるりと身体ごと此方に向かせた。

改めて正面から見るみさきの表情は、言葉に言い表せない程に色っぽかった。汗なのか涙なのかも分からない小さな雫がみさきの頬を伝って落ちる。そっと両手を頬に添え、ぺろりと舐めてみたそれはしょっぱい。



「みさき、大丈夫か?」

「じ、焦らすなんて、酷いよ……」

「……続ける、な?」

「……うん」



うわ、やばい。今のでかなり、グラリときた。目の前の大きな瞳を見つめ返す。

今度はみさきの両肩に両手を置く。ゆっくりと引き寄せ、視線を少しずつ下方へと向けた。ぷっくりと膨れた突起に舌先で触れ、堪らずそのまま口に含む。ピクンと小さく強張る身体。手のやり場に困ってしまったのだろう、みさきは恐る恐る俺の頭に触れると、弱々しく髪の毛をくしゃりと掴んだ。それが拒絶――例えば肩を押し返してきたりだとか――そういう類いのものではない事に思わず安堵の溜め息が漏れる。くちゅくちゅとわざとらしく水音を出し、浴室なだけにその音は繰り返し辺りに響き渡った。引き続き繰り返される音、犯されてゆく脳髄。



狂ってしまいそうだった。



あの時に戻ってはいけないと、頭では十分理解しているはずなのに。冷えた身体が疼く。触りたい、壊したい、大切にしたい。どうして己の感情はこんなにも歪んでしまっているのだろう。自分でも理解出来ぬこの気持ちをどう整理したらいいのかも分からず、ぐちゃぐちゃになった頭で想うのは、それでもみさきの事。



「大切にするから」



俺なりの方法で。例えそれが一般論に基づくものではないとしても。


「……ちゃんと、好きだからよ」



本当は気付いていた。みさきが胸の内に秘めていた不安、それは俺自身が招いた結果なのだと。だからこれからはみさきに不安なんてものを微塵も感じさせないくらいに、たくさんたくさん愛して。俺がどんなにみさきを想っているか、その身体に刻み込ませよう。



「だから、ンな顔すんな」





「シズちゃんは何も分かっちゃいない」



目を瞑ると思い出されるのは、たった数時間前の出来事。みさき以外に俺をシズちゃんと呼ぶのはアイツだけ、俺を焦燥へと追い込んだ張本人。呼ばれる相手が違うだけでどうしてこうもイライラするものなのか。



「物事の表面しか見えてないんだよ、シズちゃんは」



どうせまた意味の分からねぇことを言い並べて、俺やみさきを惑わそうって魂胆に決まっている。だからこんな戯言に耳を傾けてはいけない。時間の無駄だ、そう吐き捨てて、すぐにその場を立ち去れば良かったのだ。そうすれば少なくとも今、こんなにイライラする事もなかった。唐突にヤツは「半年後」、と続ける。



「その時が来るまで、せいぜい恋愛ごっこでも楽しんでればいいさ。どうせ駄目になる運命なんだから、君達は」



なんだ、それ。そんなもん誰が信じてやるもんか。怒鳴り返してやりたくて、すぐに言葉を飲み下した。こんなヤツに構うのはやめよう。早く帰って、みさきの顔を見て安心したかった。

だけどヤツの言葉の続きが気になってしまうのは、心の何処かで根拠のない不安を感じていたから。



「この池袋で何が起こるのか、今からとても楽しみだよ」



あぁ、俺はみさきとただ一緒にいられればそれでいいのに。ヤツの言う『何か』が起こる前に早くみさきを自分だけのものにして、何処にも行けぬように縛り付けておかなくてはと思ってしまうあたり、やっぱり俺はどうしようもなく歪んだままだった。アイツの言葉を鵜呑みにしてはいけないのに、俺はどうしてこんなにも焦っている……?この焦燥に身を任せてしまえばみさきを傷付けてしまうであろう事も分かっていた。

例えそれが、結果として同じ事の繰り返しだとしても。

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