>今宵の立入禁止区域
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子どもには、踏み込んではいけない世界が存在する。

誰だってまだ見ぬ世界に憧れもするし、見てみたいという欲求に駆られる。だけど私は知らなかった、その裏の世界がどんなにきな臭いのかってことを。目の前に立つ男2人を前に、私は無知な自分を心底呪った。



「……見られてましたか」

「あーらら、こんなところに潜り込んで来るなんてイケナイ子だねぇ」



黒髪の男が切れ長の瞳を更に細める。しかしその威圧感ある男とは対照的に、高級そうな色眼鏡をかけた派手めの男はヘラリと笑いながら言葉を紡いだ。どちらも三十代と思しき長身であり、若くもないが中年にも見えない。どちらにせよ私とひとまわり以上歳が離れていることは確かだろう。

ここは都内の外れに位置する廃ビル。数十分前、私はここをたまたま通り掛かる際、何かが破壊されるような爆発音をこの廃ビルの中から聞いた。何事だろうと好奇心で迂闊に覗き見てしまったのがいけなかった。廃ビルの中は煙で立ち込めていて、まるで交戦したばかりの戦場のよう。床にはたくさんの男たちが突っ伏して倒れており、そんな中2人の人間が背中合わせで立っていた。ようやく危機感を感じた私は慌てて回れ右をするが、足元で砂利が音を立ててしまい呆気なく見つかってしまったのだ。



「んー、おいちゃん達に女の子を虐める趣味はないんだけどねぇ」

「赤林さん」

「分かってますって、四木の旦那ぁ。ただ……ちょーっとオシオキするだけですから」



カツカツと派手な杖を床に打ち鳴らし、ゆっくりと近付いて来る男。どうやら赤林というらしい。しかし今の私にとってはどうでもいいことだ。必死に逃げ出す道筋を考え出すが赤林に両腕を片手で掴まれ、とうとう絶望的な展開を迎えてしまった。途端に脳内を支配するのは、殺されてしまうかもしれないという恐怖。

赤林のすぐ後ろで、腕を組み仁王立ちしている四木と呼ばれた男が呆れたように溜め息を吐いた。



「怯えてますよ、彼女」

「取ってすぐ食う訳じゃあないですって。……いや、『食う』って表現は強ち間違っちゃあいませんかね」

「それは貴方次第では」

「やだなぁ、旦那。分かってるくせに。……で、嬢ちゃんの名前は?」



今すぐここから逃げ出したいのに、彼らの視線から逃れることが出来ない。逆らってはいけないと本能が告げる。だってこの人達はたった2人で、これだけの人数を捩じ伏せてしまう程なのだから。嫌でも視界に映る数々の屍。もはや動くことはないだろうそれらから視線を外すと、私は恐る恐る自らの名前を口にした。



「……なまえ」

「へぇ、名前も可愛いねぇ。おいちゃん、なまえちゃんのこと気に入っちゃったよ」

「口説き方が一昔前のものじゃあありません?」

「まだまだ現役のつもりなんですがなあ」



赤林の高い笑い声が、恐ろしいくらいに静まり返った廃ビルの一室に響き渡る。

すると赤林は私の身体を冷たいコンクリートの壁に無理矢理押し付け、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。今までのヘラヘラとした笑い方とは違う、まるで相手に恐怖を植え付けるかのような鋭い眼光をその目に湛え



「それじゃあ、旦那の目の前で現役ってところを証明しようじゃありませんか」



♂♀



「それにしてもこんなに可愛らしい嬢ちゃんと遊べるなんて、おいちゃん嬉しいよ。場合によってはうちのルールでなまえちゃんを消さなくちゃいけないんだろうけど……ここは平和的に大人のやり方で解決するのが1番いいと思ってねぇ」


なにやら物騒なことをサラリと口にしつつ、はだけさせた服の隙間から片手を入れる。下着越しにやんわりとバストを揉まれ、出そうになった喘ぎ声を必死に喉の奥へと必死に追いやった。首を嫌々と振るが、赤林の手の動きは止まらない。

未だに見ているだけの四木に瞳で助けを訴える。四木も赤林の仲間であって、当然その望みはごく稀少だったけれど、助けてくれるのなら誰でもいい。藁をも掴む思いだった。しかし四木はそんな私を一瞥しただけで、淡々と非情な言葉を口にする。それは今あるこの残酷な現実を突き付けるかのような、落ち着いた声。



「この廃ビル周辺は人通りが少ない。いくら大声を出そうと助けなど来ないでしょう」

「ッ」

「ま、そーいう訳だから観念した方がいいよ?大人しくしていた方がなまえちゃんの為にもなるってもんだ。下手に抵抗すると怪我することになっちゃうからねぇ。おいちゃんも、出来るだけ手荒な真似はしたくないのさ」

「……んうッ!?」



赤林はやけに手際よくブラのホックを外したかと思うと、そのままするりと指先を滑らせ突起部分へと親指を添えた。乳輪に沿って親指をくりくりと回せば、それだけで突起がぷくりと膨れて、更にその存在を主張する。感じたくないのに感じてしまう、自分の意思とは裏腹に身体はこうも与えられる快楽に従順なのだ。

全体重を背後の壁に預け辛うじて震える足でその場に立っていたが、徐々に身体から力が奪われ、それすらも耐えきれなくなってしまう。力尽きた身体が壁を背にずるずると落ち、とうとう冷たい床にぺたりと座り込んでしまった。赤林がそれに合わせて屈み込み、あららと他人事のように笑いながら私の顔を覗き込む。



「随分と感度がいいようだけど、こういう体質は男が喜ぶから気を付けた方がいいよ?なまえちゃん」

「ッ、……や」



伸びる手から逃れようと身体を捩るが、どこにも逃げ道がない為虚しくも失敗に終わった。再びその手に捕らえられ、無意識のうちにびくりと身体が反応する。

両足を強引に開かれ、スカートから覗く太股を嫌というほど丹念に撫でられ、嫌でも秘部が潤ってきているのが分かった。すると赤林は持っていた杖の先端をこちらへ向け、下着越しに秘部を軽く突っつくようにして刺激し始める。下着越しだというのに狙いが正確であり、隠核を的確に攻めてくるその焦れったい刺激にとうとう甘い声が漏れた。



「四木の旦那ぁ、どうです?先程"殺った人数"はおあいこでしたが、たまにはこういう勝負ってのも悪くないと思いません?」



赤林の言葉に四木はほんの少し笑みを浮かべたように見えた。しかし何1つ口にはせず、代わりにこちらへ少しずつ歩み寄って来る。



「この歳にもなって性欲に駆られてしまうというのは、実に情けない話ですな」

「はは!そうこなくては」



何が可笑しいのか私には理解出来ない。ただただ身体が恐怖に支配されてゆくのを感じる。同時に自分の思い通りにならない身体に憤りさえも感じつつ、ひたすら己の悲運を嘆き続けた。

赤林が背後へと回って私を立たせ、余った手を肌に這わせる。へその辺りから上へ上へと肌の上をゆっくり滑る。そして膨らみまで両手が到達するとそのままバストを揉み上げるように愛撫し、しかし決定的なより強い刺激は与えてくれなかった。私が赤林の手の動きに全神経を集中させているその隙に、四木があろうことかスカートを大胆にもぐい、と床へずり下げる。



「で、目的はなんです?」

「!?」
「先程も言いましたが、この廃ビル周辺は人通りが少ない。もし貴女がごく一般の人間ならば、こんなところにわざわざ入り込もうとはしないでしょう。若さ故の好奇心?……いや、もしくはその筋の人間だと推測されても可笑しくはない」

「ち、違……ッ!」



私が何を言おうとしても四木は聞く耳を持ってはくれない。ただ黙々と作業に没頭し、次第には下着まで取り払われてしまった。既にたっぷりと潤った秘部が外にさらけ出され、冷たい空気に直に触れたそこはスースーとして気持ちが悪い。

重力に従ってつつ……と太股を流れた愛液を四木が舐めとり、秘部へと引き寄せられるかのようにその舌を上へと滑らせてゆく。ちゅくりと水音を立てて舌を挿入し、ひくひくと痙攣する内壁を舌先で刺激する。初めは慣れない感覚に戸惑うものの、そこを中心に駆け巡る快感に身体中の鳥肌が立った。一方で赤林も私の耳裏を舐め回しながら両手の愛撫を強めたりと、四木の愛撫に負けじと続ける。



「あッ! や、やめ……」



立っていられないくらいに両足がガクガクする。しかし腰が少しでも沈めば下方にいる四木の舌が更に奥へと突き刺さり、座るに座り込むこともできない。ふいに四木の高い鼻が隠核に触れ、想像を絶するその快感により高い声が上がった。

それが四木の意図なのか定かではないが、舌を動かす度に同時に顔の角度も変わる為、鼻が必然的に隠核を擦るような動きをする。既に皮の剥けたそこはかなり敏感になっており、それに気付いた赤林が、胸を愛撫していた右手をするすると滑らせ下半身へと向けた。



「ひッ……!?」



右手の親指と人差し指で摘ままれ、指の腹で素早く擦り合わせるように執拗に隠核を刺激する。その速さが増す度に目の前でチカチカと閃光が走り、頭の中でスパークのような感覚が起こる。しかし私の身体はそれに反応するしか手はない。



「さあ、イッてみようか」



♂♀



黒い高級車の後部席、1人の少女が気絶したまま横たわっていた。彼女は絶頂を迎える直前、彼らに向けてこう言い放った。双方の瞳にいっぱいの涙を浮かべ「人殺し」、と。確かにあの状況を目にすればそう思えてしまうのも頷けるが、と赤林は笑う。自分達が手を下したのは事実なのだし。

赤林は自らのスーツを脱ぐと、なまえの身体にかけてやる。その瞳には相手への愛しさをも滲ませており、



「まさか気絶しちまうとは、ちょっとばかしやり過ぎちまいましたかねえ」

「とりあえずは連れて帰りますか。なに、この街で人が消えることはそう珍しいことでもない」

「物騒なことを言いますねえ、旦那。ま、"拷問"なんてものは得意じゃないんですが、聞き出せるところまで聞き出してみますか」

「今夜はまだ仕事が残っていると、先程愚痴を溢していたのは貴方でしょう」

「あっはっは。なまえちゃんを渡したくないのなら素直にそう仰ればいいのに。旦那も年下がお好みで?」

「あんたみたいな確信犯に言われたくはないですな」

「何言ってるんですか。園原さん家の嬢ちゃんは、ほら、訳ありだから。なんたって初恋の女の大事な娘さんだからねえ。……でも」



赤林はチラリとなまえを見ると、口元に怪しい笑みを浮かべる。



「久々に、いい女と巡り会えたもんですわ」

「しかし、嫁にするにはちょいとばかし若すぎるのでは?」

「そんなこと言っておいて後で独り占めしないで下さいよ、四木の旦那」

「まさか」



夜道に男達の笑い声が響き渡る。いい歳した大人になったにも関わらず、一回りも二回りも年下の少女にここまでの時間を費やすなんて。ただ、人殺しや強姦紛いのことをやってみせる我らを人殺し呼ばわり出来るとは。その物怖じしない彼女の強気なところに惹かれてしまったのだと四木は思う。普通の人間ならば、ただ泣いて助けを乞い終わるだろうに、その点に関しては彼女もただ者ではない。

一癖ある至極の獲物に巡り会えたことに口端を緩ませながら、彼らは車を走らせた。自分達が己を粟楠会と名乗った時、少女は一体どんな顔をするのだろう。そんな期待に胸を膨らませながら、男たちは無数の屍が転がる廃ビルを後にした。

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テーマ「人外ファンタジー」
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