>動機付け
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「こんな洒落た格好してよぉ……高校時代の同級生とやらを誘惑したかったんだろ?なまえちゃんよぉ」



何故、どうしてこんな事になってしまったのか。グツグツと怒りを沸騰させた静雄の顔をすぐ間近に見ながら、私は恐怖で今にもショートしてしまいそうな思考回路を必死にフル稼働させた。静雄がここまで怒りを露にしたのはこれが初めてではないけれど、私自身に対して向けられるのはこれが初めての事だった。だから恐怖というよりは寧ろ驚きの方が大きい。そんな状況下で、私は今日の出来事を簡単に振り返ってみる。

今日は久々に高校時代の同級生らと同窓会があると聞き、会場が自宅から比較的近い事もあり、再会に胸を膨らませながら私は同窓会に出席した。しかし静雄の思っているような如何わしい事をしようだなんて微塵も考えちゃいなかったのは事実だし、私にその気はこれっぽっちもなかった。ただかつての青春時代を共に謳歌した友人たちと楽しみたかっただけなのだ。特に大した問題もなく私たちは思い出話に花を咲かせていた。酒に酔った男子(今は男性と呼ぶ方が相応しいか)同級生が私を呼び出し、強引に迫ってくるまでは。


「俺、実は昔なまえの事が好きだったんだ」



そんないつの話だか分からない事をいきなり面と向かって言われても、反応のしようがないから困る。何しろ私には既に彼氏がいるのだし。しかしアルコール成分に犯された彼の頭は妙にポジティブ思考。大丈夫大丈夫1回くらいならなまえの彼氏にも気付かれないって、そんな滅茶苦茶な事を言いながら腰に腕を回してきた。顔も良く人が良いとそれなりに人気者であったかつての彼、そんな思い出の中の残像は呆気なくも崩れた。酒が入ると人間こんなにも変わってしまうものなのか。なんて無責任な人だろうと内心幻滅しつつ必死に身を捩らせるが、やはり男の人なだけあって力で敵いそうにない。

無理矢理両腕を頭の上で拘束され、顎をクイッと持ち上げられる。これは本格的にヤバいと思い、とうとう大声を出してしまおうかと口を開いたその時だった。



「手前……人の女になにしてやがる」



ゆらり、彼の背後で揺れる1つの巨大な影――

それからの事は言わずとも自明の理といえる。すぐに気迫負けした同級生はまるで冷水を浴びせられたような顔をして立ち退き、静寂と共に私と静雄の2人だけが残った。とてつもなく気まずい雰囲気の中、私はそのまま雰囲気が時間に流されるのを待ってから、それから謝罪と感謝の言葉を告げた。しかし曇った静雄の表情が晴れる事はない、背中を走るのは悪寒だけ。私は少しの間愛想笑いの仕方を思い出せなかった。どうにも笑って誤魔化せるような状況ではないようだ。



「え、と……その、どうして静雄がこんなところに」

「んだよ。いちゃ悪ぃのか」

「そういう意味じゃなくって……仕事、今日もあったんじゃなかったの」

「休んだ」

「え、ええ!?」



そもそもどうして静雄が同窓会の会場を知っていたのか、最大の謎が解決されぬまま事は進む。静雄が急に身を屈めて顔を埋めてきたかと思いきや、まるで獣のような鋭い歯が首元の肉へと食い込んできた。しかしそれは決して痛みを伴うものではなくて、まるで犬同士がじゃれ合う時にするような甘噛み程度だった。次第に歯先へと力が込められてゆき、若干痛いという感覚を覚え始める。ぼんやりとした光に照らされて反射する蜂蜜色の髪をくしゃりと握る。染めているが故にほんの少し傷んだ髪ではあったが不思議と柔らかい。

静雄、と呼んでも彼は離れようとはしなかった。そろそろ席に戻らなくては皆が心配するだろう。因みにここは店から出て少し歩いた先の路地裏である。あまりにも帰りが遅いと何かとあらぬ誤解を受けるし後々面倒だ。しかしようやく離れた彼の口から発せられた言葉は「行くな」の一言。思わず「はい?」すっとんきょうな声が出てしまった。



「何言ってんの!そんな事出来る訳がないでしょ!」

「どうして。元々同窓会なんて自由参加形式だろ。昨日のメールにもそう書いてあった」

「……昨日のメール、勝手に見たんだ……」

「なまえが俺に話さなかったのが悪い」



今回の件に関して相当怒っているのだろう。こうなってしまっては機嫌を取る事も難しい。



「ご、ごめんってば!お詫びに何かするから……ね?」



そう言うと静雄はニヤリと不敵な笑みを浮かべ――





「……短絡的過ぎる」

「うるせぇ。お前が俺のしたい事つぅからだろ」



無理矢理腕を引かれ、やって来た場所は適当なラブホテル。受付は無人で全てが全自動形式らしい。静雄はロクに見ず適当に部屋を選ぶと、私に先に入るよう促した。こうなっては仕方がないと渋々個室の扉を開くが、中を見た瞬間に思わず扉を閉めてしまう。私の不審な行動に静雄がどうしたのかと問うが、何と説明すればいいのかも分からず口ごもる。一応部屋を変えないかと提案してみるが、やはり静雄が聞き入れてくれる事はなかった。それどころかニヤニヤと怪しい笑みを浮かべる。そこでようやく気付いたのだが、どうやら静雄は予め分かった上でこの部屋を選んだらしい。



「し、信じられない!」

「何でもするつったよなぁ?こんな時じゃねぇとなかなかワガママ言えねぇし」

「いつでもワガママなのはどこの誰……ひゃあ!?」



唐突な背後からの衝撃に足元がふらつく。そのまま重力に従って身体は倒れ、ふかふかなベッドへとダイブした。幸いな事に倒れた先がベッドであった為身体を強く叩きつける事はなかったが、いつもに増して強引な彼に若干恐怖を覚える。

私がこの部屋を拒んだ理由――それはベッドを囲う壁がガラス張りであったが故である。派手に倒れてからすぐに身体を起こそうと試みるが、それよりも先に静雄の手によって再び押さえ付けられる。枕に顔が埋もれながらも視線を巡らせると、まるで肉食獣にまんまと捕らえられた哀れな小動物のような、鏡に映る自分と目が合った。腰だけ持ち上げ臀部を突き出す、それはあまりにも滑稽な姿。



「さあて、さっさとやっちまうか。2時間半しかねぇんだしな」

「にッ、2時間半って」

「おら、早く脱げ」

「ちょ……ッ!待っ」



今度はスカートの中に侵入してきた手によって下着を脱がされてしまった。膝上丈のスカートを選んできてしまった朝の自分を心底恨む。せめて清楚な膝下丈のものを選ぶべきだったか。

べろんと大胆にスカートを捲られ、直に冷たい空気が肌に触れた瞬間思わず身体をビクつかせる。しかしそれは本当に一瞬だけで、双方の臀部を鷲掴みにされ拡げられた後すぐに生暖かい風のようなものがアナルに吹き掛けられた。まだ慣らされていないそこはただむず痒く感じるだけで、あまりにも羞恥を駆り立てられる格好に嫌々と首を振る。



「ヤ、だって…… !?」



瞬間、ピリッと鋭い刺激が走る。続いてじわじわと広がる痛み。どうやら噛み癖のある彼に臀部をがぶりと噛み付かれたらしい。恐らく歯形が残ってしまったであろうその場所をなぞるように、ねっとりと唾液を含んだ熱い舌が這う。痛い上に恥ずかしい。それでも先に待ち受けているであろう事への期待に自然と下半身が疼いてしまう。静雄は執拗に臀部を吸ったり舐めたりを繰り返した後、ベッド脇に設置された棚の中からローションを取り出した。

瓶を静かに傾かせ、とろとろの冷たいローションを注がれた先はアナル。普段使われるはずの秘部からは耐えきれず愛液が溢れ、つつ…と太股を伝ってシーツに丸い染みをつくった。触られ、弄られる事を今か今かと待ちわびている。それでも静雄の行為は意に反するものばかりで、ローションで潤ったアナルばかりを細長い指で責め立てる。液体を絡ませた指の腹が中の壁を撫でるが、あまり使った事のないソコでは大した快感を得られず、慣れない感覚に気持ち悪さを感じた。



「分かってねぇなあ、なまえは。これはお仕置きなんだぜ?誰が気持ち良くしてやるつったよ」

「ひぅ!? ぁッあッ!」



ぐちぐちといやらしい音を響かせ、無理矢理押し拡げられてゆく。そして受け入れる側の心の準備が済まないままに、ソコにはひたりと熱い塊が栓をするように宛がわれた。密着した部分から、塊がドクンドクンと脈打っているのが分かる。

ベッドに突っ伏すように押さえ付けられた私の耳元に唇を寄せ、静雄は余裕のない声でこう囁いた。



「痛くても我慢な」

「ッ!? ……あぁ!!」



ずん、と質量の大きいモノが勢い良く突き刺さる。とてつもない違和感と共に生じる痛み、その衝動に耐えきれず生理的な涙が伝う。

静雄は何度か確かめるように自身の出し挿れを繰り返すと、挿入したままの状態で私の身体を起こす。結果私は静雄を背もたれにして座るような体勢になり、固くなった静雄のモノがズブズブと音を立てて突き刺さってきた。己の体重で否応なしに腰が沈んでいってしまう為どうにも抗い様がない。おまけに見晴らしがよくなってしまった分、見たくないものまでが私の視界に飛び込んできた。視線の先には鏡に映る、見た事のない淫らな自分の姿――



「!」

「はは、これじゃあ全部丸見えだなぁ?なまえのスゲーぐちょぐちょなココ、とか」



ココ――つまり、本来ならば欲望の塊を受け入れるべき場所である秘部。栓をされていないそこはだらしなくも止めどなくだらだらと愛液を流し続け、シーツにいくつもの大きな染みをつくっている。静雄がくぱぁと更に拡げてみせると、鏡にはナカまで丸見えの状態で映し出された。容赦なく掻き回され、泡立つ愛液。



「ひッ、あ……らめぇ、今は……まだァ……!」

「駄目、じゃねぇだろ?どうなんだよ、コッチは」



そう言うと静雄は、まるで強調するかのようにぐりぐりと先端をナカの壁に擦り付けてきた。下腹部に感じる大きな異物の存在。その間にも彼の両手はゆっくりと服の裾ごと上へ上へ、そして最終的には胸の膨らみにまで達し少々乱暴にブラを押し上げると強く突起を摘まみ上げた。乳輪に沿って指の腹を這わせ、時折くにくにと先端を押し潰す。

背後に座る静雄の表情は通常見る事が出来ないが、目の前の鏡は違った観点からありのままの姿を映し出した。悩ましげな表情ではぁ、と熱い吐息を漏らし、赤い舌を私の項に這わせる獣のような静雄の姿。第三者的な立場から自分たちの行為を見るのはとても恥ずかしいけれど、一方で身体が火照り始め興奮している事に気付く。



「本当はあの男にこうしてもらう気だったんだろ?」

「ち、違ァ ……あ!」

「嘘吐け。締まりよくなってんじゃねぇか」



こんな風にされても尚感じてしまうなんて、もはや救い様のない私の身体。静雄以外を求めるはずがない。

そういやよぉ、と静雄が話を切り換える。ついこの間ボーナスを貰って財布には多少の余裕がある事。そして明日は"たまたま"仕事が休みなのだという事。静雄の都合良く上手い具合に偶然と偶然が重なり合い、それは『必然』へと姿を変える。例えそれが彼の意図的なものだったとしても。



「2時間半なんて、生ぬるいお仕置きはやめにして、今日は俺の気が済むまで付き合ってもらうからな?なまえちゃんよぉ。まだまだしてみたかった事、たくさんあるんだからな」



彼は言った。私が今日同窓会へ行く事は昨日知ったのだと。それじゃあ、どうして昨日の時点で何も言ってくれなかったのか。昨日話してくれさえすれば、私には同窓会を欠席するという選択肢があったというのに。静雄の言い分を聞く限りじゃあ彼にとってもその方が賢明な判断ではないか。

これじゃあ、まるで――





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