>感情の模索
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以前俺は彼女に身体の関係を拒まれた事がある。本能のままに押し倒したベッドの上、なまえは小さな身体を更に小さくさせ、声を出さずに泣いていた。向けられた目には恐怖の色を僅かに滲ませて。あの瞬間はそれなりにショックもでかくて、一体自分の何が悪かったのかと本気になって頭を悩ませた事を今でも鮮明に覚えている。自己嫌悪と申し訳なさに苛まれながら。

俺が校内で有名な問題児であったが為に、彼女であるなまえが有名であった事は言わずもがな。別名『猛獣使い』(獣とは恐らく俺を指す)のなまえの評判は良く、正直な話俺なんかでは釣り合わないくらいにあいつはいい女だ。喧嘩で負ける気は毛頭ないが、「お前なんかに彼女を幸せに出来るのか」といった類いの言葉にはとことん弱かった。



「それにしても、どうしてあの2人付き合ってるんだろうね」

「あの2人?」

「ほら、なまえちゃんと平和島静雄。意外性ナンバーワンカップルで有名な」

「平和島静雄?門田くんの間違いでしょ」

「……」



そんなやり取りは既に聞き飽きた。ばっちし会話聞こえてるっつの。横目で見やり、内心そう思ったが口に出すのはやめた。何も言えなかった。なまえが門田の事を実の兄のように慕っている事は知っていたし、事実門田は俺なんかよりもなまえに相応しい男だ。人から認められ人望も厚い、仲間思いの兄貴分。おまけに喧嘩だって強いらしい。そんな同級生を俺は密かに尊敬していたし、内心羨ましくもあったのだけど。

噂とは実に厄介なものである。こうも早くたくさんの人間に情報が行き届いてしまう。そして更に厄介なのが、人と人との間で噂が伝達されていくうちに、次第に誤った方向へと情報が次々と書き換えられてゆくことだ。最悪の場合、原型を留めていない場合もあるくらいなのだから余計にタチが悪い。仮に俺がもっと胸を張れるような立派な人間だったなら、なまえとの関係も堂々と口に出来るだろうに。それが出来ないのは自分に自信がないからだ。だからこそ、せめてなまえを泣かせるような事は決してないよう今日まで努めてきた。少しでもなまえに相応しい男になる為にも――



「私、今夜静雄の家に行きたい」



そんな衝撃的な爆弾発言をなまえの口から聞いたのは、日向ぼっこには最適なよく晴れた昼時の事。ぽかぽかとした太陽の下で2人くつろいでいた時だった。飲んでいた牛乳を思わず吹いてしまいそうになる。しかも今からではなく今夜と時間帯が指定されているものだから、過度に期待してしまう。そりゃあ、男だし。

その他色々と思う事はあったものの、牛乳のストローを再び口に加え、何食わぬ顔でふうんなんて言ってみせた。実際のところ心臓が高鳴って仕方がない。会話が途切れてしまってはせっかくのチャンスが無駄になってしまうので、とりあえず何か喋っておいた。



「どうしたんだよ、急に」

「うん。ちょっとね」

「ちょっと、って」

「……」

「意味、分かってて言ってんのか?」



途端になまえの顔がぼぼぼと赤くなる。悩ましげに眉を潜め気まずそうな表情を浮かべた後、下唇をぎゅっと噛み締め無言のまま俯いてしまった。そして瞬時に確信する、今夜はいけるかもしれない。心の中でガッツポーズを決めつつもやはり表面上は冷静に、俺は飲み終えた空の牛乳パックを片手でぐしゃりと握り潰してしまった。

さて家族には何て説明しよう。歳の近い弟にはすぐに感づかれてしまうだろうか?彼女を家に泊めるのはこれが初めての経験だった。



♂♀



リビングのテーブルの上にはお袋からの簡単な書き置きと、適当に何か買って食べるようにと今夜分の夕食代。几帳面なお袋の小綺麗な文字で記された手紙によると、幸いな事に両親共々今日中には帰って来られないらしい。この時期は特に仕事が忙しいのだと、昨日の食卓で親父がぼやいていたのをふと思い出す。

とりあえず俺の部屋で待機しているなまえを待たせる訳にはいかないので、台所の冷蔵庫から適当な飲み物と食べ物を取り出し、両手に抱え込むようにして持つと階段を一気に駆け上がった。階段を上ってすぐに位置している幽の部屋をチラリと見やる。電気は点いていない。まだ学校から帰って来ていないのだろうか。



「親、帰って来ねぇとよ」



両手が塞がった状態のまま足で器用に扉を開き、行儀よく正座したなまえの姿を確認する。なまえは俺が帰って来るなり慌てた様子で素早く背中に何かを隠した。おかえりの声もほんの少し上擦っている。何かが可笑しいと直感的に思った。



「……なあ、今何か隠さなかったか?」

「な、なんでもない!」



もしやと勘づき、一旦両手に抱え持っていたものを全てテーブルに置き、真っ先に枕下を確認する。なまえは相変わらず何でもないからと俺の腕を引くが、力で彼女に負ける気はしない。

無理矢理押し切って確認すると、案の定そこには何もなかった。いや、何もなくては困る。そこになくてはならないもの――それは、



「見た、よな」

「……はい」



申し訳なさそうになまえが目の前に出したそれは――「ん?」俺が思っていたものとは少し違っていた。



「静雄って、巨乳好きだったんだね……」

「!? ち、違ッ!……くはねぇけど」



所謂エロ本。彼女に見られてしまったのだからここは慌てるべきなのだろう、しかし最も見られたくないものではなかったが為に何処か安心してしまう。自然と漏れる深い溜め息。

なまえから返された雑誌をパラパラと捲り、肝心のものがページの間に挟まっていた事をまず確認する。どうやらここまで細かくは見られていないようだ。きっと純ななまえの事だから始めの数ページで耐えきれず閉じてしまったのだろう。



「……」



チラリと彼女の表情を盗み見る。なまえは怒っても引いてもなく、落ち込んでいるように見えた。



「もしかしてお前、今日来た目的って……」

「ッだって、そういう本の系統を見れば、彼氏の好みが分かるからって……友達から聞いて」

「他に方法があるだろ」

「ごめんなさい」



心底申し訳なさそうに謝るなまえ。別に怒ってなどいない。ただ、こんな事だろうと思ったんだよなあと頭をわしわしと掻いた。寧ろ俺の好みなんかに関心を持ってくれていたなんて、かなり嬉しい。安心して心が落ち着くと同時に笑いがこみ上げてきた。自分でもよく分からないけれど、この滑稽な状況に笑えてきた。

それでも俺の興奮度合いは相変わらずピークに達していて、かなり期待していただけにそう簡単に収まるものではない。再び雑誌を手に取り、間に挟まっていた1枚の写真をなまえに見せてやる。途端に驚きの表情を浮かべるなまえ。それもそのはず、そこには撮られた覚えのない自分自身が写っていたのだから。悪い言い方をすれば盗撮写真。しかしそれを悪びれもなくなまえに見せたのは、彼女に全てをさらけ出そうと思ったから。なまえがこういう格好していたら、なんて想像してさ。そう言って雑誌のページを開いて見せる。



「俺、前になまえに拒否られた事あるだろ。我慢しようとは思ってたが、こればかりはどうしようもねえんだよ。断りもなくお前で性欲を満たしてたなんて、最低だったと思う。けど俺だって我慢してたんだ。……妄想くらいいいだろ」

「……」



なまえは何か言いたそうな顔をしていた。が、何も喋らない。待ちかねた俺はなまえの顎をそっと持ち上げ、軽くその唇にキスを落とした。いつもなら恥ずかしいからと始めこそは抵抗するなまえが今日は抵抗してこない。確かめるように角度を変え再び深く口づけてみると、なまえの口からは言葉の代わりに熱い吐息が漏れた。まるで熱に浮かされているかのように潤んだ瞳、唾液で濡れた血色の良い唇――全てがエロい。



「なまえ、すげーエロい顔してる」

「……今の静雄には言われたくない」



それから互いにクスクスと笑い合うと、俺はゆっくりとなまえの身体を柔らかなベッドへと押し倒した。なまえはやはりされるがままで、しかし何処か緊張した面持ちで俺の服の裾端をぎゅっと握ってくる。大丈夫だから、と頭を優しくぽんぽんと叩く。そしてなまえが潰れてしまわぬように力を加減して抱き締める。

服の隙間からするりと腹部を撫でてやれば嬉しいくらいに敏感な反応が返ってきたし、時折聞こえる息遣いが俺の鼓膜を震わせる。五感全てがなまえただ1人へと集中し、もはやその他の事は何も考えに及ばなかった。ただひたすら彼女に触れたい、精一杯愛してやりたいとそればかり考えていた。気持ち良くなかったら言えよ?と予め告げておいてから、ずぼりと服の中へ頭ごと突っ込む。服の中はなまえ特有の甘い匂いで充満していて、吸う度に頭がクラクラする。



「わわッちょっと、静雄!?」

「んだよ。お前も俺と同じ気持ちなんじゃねえの……?」

「! わ、私、あんなに巨乳じゃない!」



肩をぐいぐいと押し返されるも口を使ってブラをズラし、確かに巨乳ではないものの初めて生で目にする形の良いバストに思わず息を飲んだ。そぉっと舌先で先端を突ついてやると、まるで己の存在を強調するかのようにピンク色のそこはぷっくりと膨らむ。自分の数少ない知識すら頭の中からは吹き飛んでしまい、ただただ本能的にぱくりと口の中に含んだ。

なまえの甘い声が布越しに聞こえてくる。もっともっと聞きたくて、ひたすら執拗に舐め続ける。声に呼応するかのように自身がひくひくと反応しているのが分かる。1秒でも早く挿れてしまいたくて、なまえの片足を持ち上げると無造作に制服を放り投げた。ぱさりと床に落ちる乾いた音が狭い部屋に響き渡る。初めて見る何の隔たりもないそこは既にたっぷりと潤っていて、簡単に指の根元まで飲み込んでしまった。ネットなんかでは3本が良いと聞くが、きっと個人差なんかもあるだろうし、果たして何が正解なのだろう。分からない事が多すぎる。堪らずズボンのチャックを下ろす音に、なまえがギョッとしてこちらを見た。



「ま、待って。もしかして、もう……!?」

「悪ぃ。次からはなまえがもっと気持ち良くなれるように、色々と勉強してくるから」

「ッ、静雄って、もしかして」

「……初めてだよ。悪ぃかよ」



なまえはまるで意外だと言わんばかりの顔で俺の顔を見つめていたが、やがてその視線は俺の下半身へと遠慮がちに向けられる。



「む、無理!!」

「!? はあッ!?」

「だって、なんでそんなに大きいの!?絶対に無理無理入んない……!」

「いや、だから入れるんだって」
「やだッ、怖い!」

「……なんだ。お前も初めてか」

「!?」



何よりも大切ななまえを泣かせたくなくて、自分を犠牲にしてまでも性欲を抑え込んできた。だけど、どうしてだろう。なまえが嫌だと言って泣いているその表情に物凄くそそられてしまう。この上なく興奮する。



「あッ、やぁ……あんま触らないで」

「なまえが入らないって言うから慣らしてるんだろーが。でも、すげーぐちゃぐちゃだし……そろそろ大丈夫、だよな?」

「ひぁッ、あああ!?」



ズブズブと音を立てて飲み込まれてゆく己の欲望。確かに若干キツくはあったものの、無理矢理にでも腰を押し進めていった。

今まで頑なに守り続けてきた何かが、いとも簡単に揺らいでしまうなんて。それ程までに今のなまえは今まで以上に性的な意味での魅力を感じた。この感情は一体何だと言うのだろう。無意識のうちに口端が歪む。



「痛ッ……」

「我慢しろって。あともう少しだから」

「だ、から、入らないって……んン……!」



――あれ?おかしいな。

――こいつの泣き顔……すげー可愛い。



今の自分が普通じゃないって事くらい、俺自身が1番よく知ってる。

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