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※裏





肩を大きく上下させて機械的に繰り返される息遣い。

イきそうになる度にシズちゃんはわざと動きを止める――もう何度繰り返された事か。もどかしくて早く気持ち良くなりたくて、頭の中がビリビリと麻痺する。



「……ッ! ふ、……」



――また、イけなかった。



物凄く恥ずかしいはずなのに、思わず自ら動いてしまいそうになる自分が猥りがわしい。中途半端に理性と性欲が頭の中でごちゃ混ぜになって、感情を上手くコントロール出来ない。おかしくなってしまいそうだ。「イきてぇのか?」耳元でシズちゃんが色っぽい声音で囁く。焦らしている割には余裕のない表情。鼓膜に響き渡る掠れた声に思わず身体がゾクゾクした。



「なら、自分で動いてみろよ」

「ッ、は、恥ずかしいから……」

「ふぅん。……ま、俺はいいけど」



そう言うなり、ナカからズルズルと抜かれる感覚。大きく膨張したモノが失われ、大きな喪失感を覚える。



――まだ、1度もイかせてもらってないのに……



「……や、やだ……」

「嫌? なら、どうシて欲しい?」

「い……言わなきゃなの?」

「口にされないと分かんねーし、俺」



そう吐き捨てるとそのまま肌に舌を這わせ、再び弱い快感を与え続ける。まるで私に「言え」とでも促すかのように。ベロリと頬を大きく舐め上げられた。

身体がおかしい。舌のザラザラとした感触にすら敏感に反応し、その度に身体が熱くなる。しかしその熱は発散出来ぬまま、蓄積されていく一方で。早く楽になりたい。気持ち良くなりたい。崩壊目前の理性が、かろうじて私を制御する。



「……シたい」



シズちゃんの服の袖端をキュッと掴みながら呟くと、シズちゃんはほんの少し不満げに両目を細めた。



「シたいだけなら、前にヤッた奴とでもすりゃあいいじゃねーか」

「ッ ……し、シズちゃんとが、いい……です」



最後の方は本当に消え入りそうな声で言葉を紡ぐ。羞恥で身体だけでなく、顔までが更に熱くなってきた。

今度は満足のいったようでシズちゃんはニヤリと小さく笑うと、ギリギリまで抜きかけていたモノを勢いよく奥まで突き刺した。その圧迫感に思わず息が詰まる。呼吸がうまく出来ない。



「あ……!」

「ま、みさきにしたらよく言えた方だよな」

「はぁッ ……ン!」

「……ほんと、すげぇ可愛いよ」



シズちゃんが一瞬だけ切なそうな表情を見せる。その顔が堪らなく寂しげで――だけどそんな顔をさせているのは確かに自分のせい。それじゃあ初めから『罪歌』の事なんて忘れてしまえばよかったのか?臨也さんと関わらなければ、こんな事にはならなかった?答えは勿論――"NO"だ。中途半端な気持ちのままではシズちゃんとも自分とも向き合えなかっただろうし、キッカケはどうであれ、臨也さんから情報を買ったのは私自身の意思なのだから。

繋がったまま強引に上半身を起こされ、シズちゃんにギュッと力強く抱き締められた。背中に回されたシズちゃんの両手が私の身体をきつく締め付ける。やっぱり背中は痛いけれど……それよりも強く、シズちゃんのにおいに酔いしれる。



「やっぱり俺、みさきの事……大好きだ」



ドクン、と心臓が跳ねた。

あの照れ屋なシズちゃんの口からこんな言葉が聞けるなんて、想像していなかったから。ズルい。このタイミングで言うなんて。



「ぁ、……シ、ズ……」

「……はぁ、」

「ン、……あぁッ!」



溜まりに溜まった快楽が一気に押し寄せて――それと同時にシズちゃんの背中にがむしゃらに爪を立てた。



♂♀



「……む……」



起きた途端、首元に激しい痛みが走る。まるで火傷を負ったような、同時に自分の身体全体がほんわかと温かいものに包まれている感覚。起き上がろうとして寝返りを打つ――が、上手く動けない事に気が付く。

スゥ、と耳元で誰かが寝息を立てる音がした。すぐ近く――というか、かなり密着しているらしい。いつの間にかシズちゃんと一緒に寝ていたらしい。しかも抱き締められた状態で。おまけに結合部が繋がったままの状態であると気付き――



「   !?」



身体を少しでも捩らせようとすると、中で精液がグチャリとやらしい水音を立てた。昨夜の余韻が残っているのか、敏感な下半身が熱く疼き始める。処理もしないまま寝てしまったとは。

ベッド脇の時計が6時を指す。……こんな朝早くから欲情するなんて、恥ずかしい事この上ない。頭の中のモヤモヤを晴らすように軽く首を振り、動けないから仕方なく再びシズちゃんの胸元へと顔を埋めた。昨夜の行為による傷痕だらけで身体中はボロボロだった。



――どうしよう……

――私って、要求不満なのかな。



もっと触りたい。キスしたい。抱き締めたい。そんな欲求が頭の中をぐるぐると巡る。試しにシズちゃんの首元に吸い付いてみる。しかし、どう頑張ってもシズちゃんが私の身体に付けるような痕は残らなかった。

何だか悔しくて、今度は軽く噛みついてみる。遠慮がちに甘噛みする――が、痕どころかシズちゃんが起きる気配すら見せない。位置を変えようと身体を動かすと、ナカのイイところをシズちゃんのモノが掠めた。



「ひぅ……ッ!」



少し動いただけで、こんなに気持ちイイなんて。思わず声が出てしまった。……早朝から1人で何やってんだろう自分。馬鹿みたい。

――……でも、



「なら、自分で動いてみろよ」



昨夜のシズちゃんの言葉が頭に響いた。腰に回されたシズちゃんの両腕を優しく剥ぎ取り、ゴロンと転がし仰向けになったシズちゃんの上に跨がる。勿論、結合部はそのまま。所謂騎乗位とかいう体制らしい。

重力に従い、秘部が自然とズブズブと根元までくわえ込む。それがあまりにも気持ち良くて、身体が前のめりに倒れ込んでしまった。



「ン……」



腰をたどたどしく動かしてみる。自分のイイところを探るように。わざと擦り付けるように。シズちゃんの動きより激しくはないけれど、的確な自分のイイところを突く事が出来た。



「……ぁッ、……私も、シズちゃんの事……大好きだよ……?」



そんな言葉も今だからこそ言えるのであって、きっと目を見て言う事は出来ない。「言葉にしないと伝わるものも伝わらないよ」沙樹からそう教わったのに。だから言葉にしてみた。相手の意識がないうちにだが。

シズちゃんの呼吸が乱れていくのが分かる。瞼は相変わらず閉じたまま。熱っぽい吐息を時折洩らす、その唇にキスをした。なんだか物凄く――変な気分だ。



「ン…ふ……、 !?」



ゆるゆると腰を動かしながらキスに夢中になっていると、腰に何かが触れるのが分かった。腰をしばらく撫で回し、それぞれの指を使ってガッチリと固定する。

それがシズちゃんの両手であると理解するよりも先にズン、と下から貫かれた。慌てて唇を離し、すぐ目の前のシズちゃんに問いかける。いつの間にかシズちゃんは目を覚ましていた。



「ひゃあ! お……起きてた、の……?」

「途中からな。……夢かと思ってビビった。まさかみさきから欲情されるなんてなぁ?」

「よ、欲情!?そ、んなんじゃ……、ぁ」

「まったく、素直じゃねぇなぁ。おかげで朝から勃っちまったし。……処理、大変なんだからな。男の身にもなれよ」

「ご、ごめん……今どけるから……離し……ンあッ」

「謝るくらいなら……手伝えよ。処理」

「あッ、……ちょ、ちょっと待……これ以上中で出したら……はぁッ!」

「……悪ぃ。後でちゃんとどうにかするから……今は我慢できねぇ」



頭を片手で掴まれて、そのまま前に押し倒された。思わず両目を思い切り瞑る。

身体を折り曲げた衝動で腹部の傷に痛みが走った。乱れた服の合間からチラリと覗く白いはずの包帯に、じんわりと血が滲んでいる。



――ああ、まただ。

――また傷口が開いてしまった。

――だけど、もう……この痛みにも慣れてしまった。



本当は安静にしておくべきだった。それでも今回のように無理に身体を動かしたりして、その度に閉じかけた傷口が開いてしまう。初めは確かに痛かったけれど今やその痛みすらも普段の日常化してしまっている。

慣れてしまえば、きっと何だって自分の日常になってしまうのだ。以前までの自分なら受け入れられないような事も、今なら理解出来るような気がする。そしてここ最近では――『罪歌』の人間の愛し方さえも。





「……はぁ、は、ぁ……」



情事後、私がシズちゃんの胸板に倒れ込むようにして荒い息を繰り返しているとシズちゃんは思い出したように上半身だけ起こした。

ズルリと自らのモノを抜き私の両足を大胆に開く。



「! ヤ……ッ、明るい場所で恥ずかしいって……」

「いや、その……避妊してねぇなって……」

「……気付くの遅いよ」



「いいよ。今からシャワー浴びてくるから」――そう言って浴室に向かうはずが、立ち上がるよりも先にベッドの上に組み敷かれる。



「俺がやる」

「い、いいって!シズちゃんと違って、私は自分1人で処理でき……ン!」

「いーから」



相変わらず強引なシズちゃんのペースに巻き込まれ、こうなってしまっては身を任せる事しか出来ない事を知っていた私は、仕方なく抵抗を諦めた。秘部に指を何本か挿れ、中を掻き出すようにバラバラに動かす。

秘部からトロリと何かが流れ出るのを感じ、思わず小さく身震いした。シズちゃんの行動全てが快感で、気持ち良すぎて、思わず――



「……泣いてんのか?」

「違っ……、嫌だったとかじゃなくて……」

「そんなに良かったか?」

「……ッ」



言葉に詰まる私を見て、シズちゃんはいとおしそうに私の目尻にキスをした。いつもシズちゃんは私が泣いている時、こうして涙を止めてくれる。その行動が物凄く私に安心感を与えた。

出来るだけ精液を外に掻き出した後、シズちゃんがゆっくりと秘部に舌を這わせる。「後処理は念入りにしねぇとな」なんて言いながら。「も、もういいってば!」頭をグイグイと押し返してみたけれど、やっぱり力で敵うはずもない訳で。



「せっかく治りかけていたのに。身体、また傷だらけになっちまったな」



そう言って笑うシズちゃんに、それを受け入れて日常化してしまった私。狂ってしまったのはどっち?シズちゃん?私?……いや、もしかしたらどちらも普通なのかもしれないし、どちらも狂っているのかもしれない。今の私には何が普通なのかさえも、分からない。



この行為がシズちゃんとの最後の行為になるなんて、

シズちゃんに涙を止めてもらえる最後になるなんて、

少なくともこの時の私には分かる術もなかった。

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