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事の発端を話すには、時を1日ほど遡る必要がある。



♂♀



Dear シズちゃん

シズちゃんに見せたいものがあるんだよね。場所は携帯に地図送っておいたからさ!俺ってわざわざ優しくない?勿論無視するだなんて選択肢、君にはないよ?

From 君の親友、臨也☆



ブチブチブチブチ。途端に俺の中の何かが凄まじい音を立ててキレた。気付いたら無意識のうちに、俺の右手は自然とその手紙を見事に握り潰していたらしい。

ボロボロになった紙切れを片手に、俺はご丁寧にも携帯へと送られてきた地図を頼りにその場所へと真っ先に向かって走った。とりあえず俺の気に入らなかったことは軽く5つ程ある。いいや、実際もっと数えきれないくらいに存在する、がキリがないので省略する。



@どうして俺のメアドを知っているのか

Aどうしてあいつが手紙なんて古風な真似をしやがる

Bつーかなんであいつ息してるんだ?ノミ蟲の野郎が生きている理由を10文字以内で述べてみよ

C無性に☆が気に食わねぇ

D殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す(以下省略)


「いぃぃぃぃざぁぁぁぁやぁぁぁぁ!!!!!!」



そう、ただ単にあいつの全てが気に食わなかった、それは今に始まった事じゃあない。多分お互いに目を合わせた瞬間から、全ての歯車は狂ってしまったのだ。

理由なんかとうに忘れたし思い出す気すらねぇ。もしかしたらそんなもの初めから存在しないのかもしれない。とにかく俺は今日こそあいつの息の根を止めるつもりでここに来た。……そう、ここまで来た、のに。



「手前がオリハライザヤか?」

「……は?」



思わずすっとんきょうな声をあげて、試しにキョロキョロと辺りを見渡してみたが、その声は明らかに俺の目を見て発せらせた言葉だった。しかも紡がれたその名前はたった今、俺が本気で殺すつもりで来た人物。



――……ぁあ?違ぇよ。

――つか、ノミ蟲なんかと一緒にすんな。



否定する間もなく後ろにいた別の奴が声を上げる。それは今の状況に対しての求めていた答えでもあった。



「間違いないですって!金髪のバーテンダーだからすぐに分かるって、さっき黒髪の男に……」

「!!!」


ああ、そういう事かと頭の中で妙に納得した。つまり俺は見事に臨也の野郎に都合よくハメられましたって訳か。フム、と顎に手を当てて素直に自己判断する。

目の前の奴等は何かを伝える暇すら与えてくれなかった。口々に挑発の言葉をまくし立て始める不良たち。



「手前……今までよくも俺達を騙しやがったな!?」

「つくづくナメた真似しやがって!」

「俺らを敵に回したらどうなるのかって事を教えてやるよ!」



是非とも教えてやってもらいたい。確かにあいつは色々と世の中をナメていやがる。心の中で名前も知らない男たちに同意しつつ、しかしその言葉は俺に向けられているのであって、何だか複雑な気分にもなった。

畜生あの野郎……!高校卒業してからしばらく身暗ましてたかと思いきや……!



「何とか言ってみろよゴラァ!!」

「……うぜぇ」

「ぁあ?今、何つった?小さくて聞こえね……



途端にピタリ、と動きが止まる男たち。その全ての視線が俺の持つものへと注がれているのが分かる。やり場のねぇ怒りを抑えきれず俺は文字通り手元にあった道路標識を引っこ抜いた。

そしてそれを――力任せに男たちへ"ぶん投げた"。

どがぁぁぁああん、



辺り一面に鈍い金属音が鳴り響く。こういうややこしい奴等を黙らせるには暴力しかない事を知っていた俺は、それに従って大嫌いな暴力を発動する事にした。



「は、……は?」

「お、思い出した……こいつ、昔来神学園にいた……やけに人一倍喧嘩が強ぇって有名な……」



――……ほら、な

――やっぱりこいつらも同じだ。



「ッ、ば、化け物!!」



――そういう酷く怯えた目で俺を見やがる。



分かってる。自分の力が世間じゃあ何と呼ばれているのかを。暴力、ただそれだけ。その2文字で簡単に説明がつく。より簡潔であり、そして何よりインパクトのある言葉。簡単な話だ。

男たちは俺をその視線に捉えたまま、指1本動かそうとしない。そして俺が少しでも動く度に、怯えたようにその大きな身体を必死に小さく縮こまらせるのだ。



「………ッ」



俺は逃げるように身を翻すと、その場から逃げ出すようにひたすら走り続けた。

残酷な現実から目を背けたいが一心で。この先に目的地なんかない。力の制御もできない化け物に居場所など存在しないのだから。分かってる、分かってはいるのだけど――深い深い心の奥底で、俺はずっと探し続けていたのかもしれない。



「何をしているんだ君たち!」

「こら!そこの君、止まりなさい!」

「(! ……やべッ)」



――ほんと、笑える。

――俺、捕まるのか。

――さっきの件は別として『公共物破損』とかで訴えられそうだわ……はは。



自分自身を嘲笑って、がむしゃらに平穏に行きたいと叶わぬ望みを胸に抱いて。

それでも、それでも、





「大丈夫、ですか?」



俺は、探していた。

こんな俺に手を差し伸べてくれるような暖かな手を。

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