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※裏
誘導自慰/目隠し
ぞくぞく。ぞくぞく。
身体は物凄く熱いのに身体の震えは止まらない。その様子を見て臨也さんは満足げに瞳を細めると、私を立たせようと肩を抱く。
「う、あ……」
「苦しそうだねえ。気分はどう?……て、答えられる訳ないか。立っているのもやっとだって言うのに」
臨也さんのか細い指が肩に触れ――それだけで私の身体は過剰に反応してしまった。触れられた部分が熱を持ち、快感へと変換されて身体全体を駆け巡る。
拒絶したくても口から出るのは荒い呼吸と甘い喘ぎ声だけ。「触らないで」と拒みたいのにどうしても言葉にならなかった。ただ、ひたすらに身体の温度だけは上がってゆく一方で。
「すごいね、鳥肌」
「ひゃッ、や、やだ触んな……で……!」
「あは、可愛いなあ。こんなに薬の効果が強いなんて。それとも……元々感度がいいのかな?」
臨也さんはそのまま私を優しく抱き上げると奥の部屋へと移動した。暴れて抵抗したいのに、下手に身体を動かすと服と肌との間に摩擦が生じ、それすらが強い快感へと変わってしまう。
風邪をひいて熱が出た時とは違う。自分の感情が抑えきれなくなっている。こんな感情知らない。知りたくないのに身体がより強い快感を求めてる。「もっと気持ち良くなりたい」、と。
「感じてるの?」
「! み、耳元で喋るの、やめて下さい……ッ」
「……へえ、みさきちゃんって耳弱いんだ。面白い事聞いちゃったなあ」
「……ッ」
私の弱点が耳だと知った途端、臨也さんは執拗に耳元で言葉を囁き始めた。吐息たっぷりの、持ち前の甘い声で。その度に身体が疼いてしまう。感じたくないのに、感じてしまう。
臨也さんに連れて来られたのは、1人で寝るには広過ぎるくらいの大きなベッドのある部屋だった。無造作にドサリとベッドに投げ出され、その上に臨也さんが跨がる。顔こそは笑っているものの臨也さんの目は間違いなく本気だった。サァッと血の気が一気に引く。
「今までの報酬の件だけど……君には特別に身体で支払う権利をあげるよ」
「!?」
「罰ゲームは……うーん、どうしよっか。君からの御奉仕次第かな?場合によっては免除してあげる」
「ふ、普通に料金払いじゃ駄目なんですか!?」
「別にそれでも構わないけど、多分物凄い額になっちゃうと思うよ?君にその金額を払えるのかい?」
「ッ、で、でも……今まで臨也さんのところで働いてきた分を差し引けば……」
「そうだね、君は本当によく働いてくれた」
シズちゃんと別れたあの雨の日から約2ヶ月間、私は表向き秘書として臨也さんに忠実に仕えてきた。仕事に関しては私なりに真面目に取り組んできたつもりだ。毎日の家事だけじゃない。書類整理から何まで、様々な雑用もこなしてきた。
その毎日の積み重ねが、多少の足しにはなるんじゃないかと思ってた。だけど臨也さんは私を見下しながら非情な言葉を吐き捨てた。
「でも、ちゃんと差し引いてあげてるじゃない。シズちゃんを警察から解放してあげた分を、ね」
「!!」
すっかり忘れていた。臨也さんにつくってしまった借りの数々、そして裏ルートを通った情報が、いかに高価であるかという事を。それなのに私は先の事を何も考えずに、無手っ法な行動ばかり取っていたのだ。
「それにね、みさきちゃん。それだけじゃない。俺達は確かにこう約束したはずだよ?『罪歌の謎を解き明かそう。これから先情報を提供し合おう』って。それなのに酷いのはみさきちゃんじゃないか。すぐに約束を破ろうとするなんてさ」
「ご……ごめんなさ……」
「君は今、もしかしたらこう考えているんじゃないのかな。『罪歌なんてどうでもいい』と。正直、罪歌の事は忘れてしまおうとさえ思ってる。だけどそれって、目前の幸せに目が眩んでいるだけなんじゃない?本当にそれでいいのかい?後悔しないと言い切れる?」
臨也さんの言う言葉の1つ1つが私に重くのしかかる。臨也さんの言い分はもっともだ。私はただ辛い過去から目を背け、都合のいい方向へ逃げようとしているだけだ。何1つ自分で努力さえしようとしないまま。
「そんな事、許される訳がない。……いや、俺が許さない」
「……」
「約束するよ。これが終わったら今までの分は全部チャラ。それと1つだけいい事を教えてあげる。多分君にとっては、かなり重要な情報になるんじゃないかな。どう?いい話だろう?」
「……その情報、信用してもいいんですか?」
「確実性は保証するよ。ちなみに情報の中身っていうのが、罪歌である可能性が十分に高い人物についてなんだよね」
「! 罪歌の!?」
思いがけない大きな取引に、思わず背中が強張る。確かに罪歌を持つ人物について知る事ができたら、きっと今まで以上に自分の知りたい真実へと近付く事ができるだろう。しかしその代償は己の身体で払え、と。
それはとても大きな犠牲に感じられた。だけど今ここで拒んでも――きっと逃れる事はできない。だったら今この場で条件を呑み、情報を聞き出した方が利口なやり方なのかもしれない。
「……分かり、ました」
意を決して、そう呟く。一瞬だけシズちゃんの顔が頭を過り――すぐに消えた。
「おいで」
臨也さんに手招きされ、恐る恐る近付く。右手で頬を撫でられて思わずギュッと両目を瞑った。薬のせいと言えど、現に身体が欲情してしまっている事実から少しでも目を背けるように。
「緊張してるの?」
「べッ、別に……」
「素直じゃないねえ」
それから臨也さんは私の腕を掴み取り身体をぐいっと引き寄せると、耳の中にぬるりと舌を入れた。途端に忘れかけていた快感が再び電流のように身体中を走る。臨也さんのいう『イケナイ薬』とやらは、どうやら強力な媚薬だったらしい。
わざとらしく唾液でピチャピチャと水音を響かせながら、臨也さんが引き続き言葉を紡ぐ。直接鼓膜に響くような感覚から少しでも逃れようと身体を捻るが、首を抱くように絡み付いた両手がそれを一切許さない。
「本当は欲しくて欲しくて堪らないくせにねえ」
「ンあッ だから……そんなんじゃ、な……ッ」
「はいはい。でもさあ、みさきちゃん。今自分がどんな顔してるのか分かってる?誘っている風にしか見えないよ?」
クツクツと笑いを含ませながらそう言うと、背後に回り私の肩に顎を載せる臨也さん。結果後ろから抱き締められる体勢になり、私は全体重を臨也さんの胸に任せる形となってしまった。
心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思える程に、ぴったりとお互いの身体が密着する。すぐ耳元で囁かれ、おまけに相手の表情が見えない体勢にほんの少し恐怖さえも感じる。
「ここ、もうとっくに濡れてるんじゃない?」
「! やッ、今は――」
「だーめ、足開いて」
背後から私の身体を覗き込むようにして無理矢理両足を開かせると、スカートを強引に剥ぎ取った。私の視界には当然臨也さんの手の動きしか映らなくて、相手がどんな表情をしているのか全く見当もつかない。
臨也さんは私の片足をほんの少し持ち上げながら、もう片方の手で下着に指を這わせた。じわりと秘部から愛液が滲み出るのが分かる。臨也さんの手つきは慣れていると言うか、不器用なシズちゃんと違って的確だ。女の人の気持ちイイところを知り尽くしている。
「あっは、ほら見て。もうこんなに濡れてる」
「〜〜ッ!!」
早くも下着すら取り払われ、自分の下半身が露になり恥ずかしさで涙が出そうになった。臨也さんが指を秘部にツプリと挿れていく様子が鮮明に目に映る。臨也さんがわざとやっているのかは定かではないが、この体勢は自分の秘部が自然と視界に映ってしまう。それが羞恥心を更に煽るのだ。
何度かやらしい水音を響かせた後、臨也さんが何かを思い出したように言う。
「みさきちゃん。自慰ってした事ある?」
「ン……、ぅ?」
「オナニーの事」
「!?」
「ねえ、やってみてよ」
「な、何言って……」
度を過ぎた行動に流石に反論しようと口を挟むが、臨也さんは無理矢理私の右手を掴むと、秘部へと指先を誘導する。指先の関節をほんの少し曲げてから、中へとそのまま挿入させた。
ヌルヌルとした感触を感じ取り、そこが自分の中だと知った途端に身体が急激に熱くなる。自分の意思とは裏腹に臨也さんが私の手を使ってイイところを的確に探ってゆく。心の底では抗いたいのに身体が更なる快感を求めて私の言う事なんて聞きやしない。秘部が指をズブズブと飲み込んでいく様子が堪らなく恥ずかしくて、視界に映らぬよう思わず顔を背けてしまった。
「もしかして自慰、初めてだった?」
「ひぁ!! ……も、やだ……臨也さ……ッ」
「……ほんと、可愛いよねえ。なぁんで、よりによってあいつなんかと……」
「ふあ…、……?」
「あいつ以外の男だったら、簡単に消す事もできただろうにねえ」
言葉と共に吐息が洩れ私の耳元をくすぐる。臨也さんの表情は見えなかったけれど、その声は悪意と憎悪に満ちていた。
その言葉の意味を考える間もなく、頭の中が真っ白に塗り替えられてゆく。あと少しで絶頂を迎えようとしたその瞬間――臨也さんの手の動きが急に止まった。
「ッ ……なん、で」
「イきたいって顔してるね。それじゃあ、可愛くねだってごらん?」
「?」
「御奉仕の仕方くらい分かるよね」
――御奉仕?
――なに、それ……?
私と臨也さんの経験値の差はあまりにも大き過ぎた。今までこういった経験がほとんど皆無だった私には彼の言う意味がいまいち理解出来ない。何をしたらいいのか分からず、戸惑う私を見て臨也さんは薄く笑う。
「ま、いいや。俺が色々と教えてあげるから、俺の言う通りにしてみて。……そうだ!目隠しとかしてみない?」
「そ、そんな事したら……前が見えないんじゃ……」
「いいんだよ、見えなくて。そっちの方が俺としては楽しめるしね」
そう言うなり臨也さんは何処からかタオルのようなものを取り出し、私の視界を妨げるようにして巻き付けた。視界を奪われ、おまけに両手まで縛られ自由を奪われてしまい、とうとう自分の力ではどうする事もできなくなってしまった。
視界が奪われてしまった分だけを補おうと自然と他の感覚がより敏感になる。どこにどのタイミングでどのように触れられるのか、全く予想する事ができない。
――我慢しなくちゃ。
――これは情報の為の取引なのだから。
心の中で呪文のように繰り返し、必死に自分に言い聞かせた。もしここで拒んだりなんかしたら、今までの頑張りが全て水の泡になってしまうのだから。それだけは何が何でも避けたい。
上半身の服までもが全て脱がされ、生暖かい部屋の空気が直に肌に触れるのが分かる。次に耳に入ったのは臨也さんが息を呑む音。そしてゆっくりと指を這わせたかと思うと、身体の所々に強く激しく吸い付いた。
「い……ッ、たぁ」
「ほんの少し痛いけど、ちょっと我慢しててね」
「ン……、」
その痛みさえも気持ち良いだなんて――これは本当に媚薬だけのせい?視界が妨げられたせい?予測不可能な臨也さんの動きに、私はただただ身を震わせた。
早く、早く終わって欲しい。罪悪感から解放されたい。そして身体の中をせめぎ合う、このじれったい快感がもどかしくて堪らない。