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22歳になったその日から、それからの約2ヶ月は毎日がうぜぇ日々だった。特に着る服もなかったもんで、新しい仕事先にもバーテン服で出掛けている。仕事柄キレてしまう事がしょっちゅうで以前よりも物を破壊する頻度が増えた気もする、が、会社側(主に社長)が妥協して一時的に賠償金を肩代わりしてくれる事になった。これはとても有難い事だ。勿論後に自分の給料からさっ引かれる訳だが、警察からとやかく言われる心配もなくなった。

トムさんという良き仕事の上司ができた。仕事中だけは余計な事を考えられずに済んだ。だけど仕事を終えて1人になると、どうしても思い出しちまう。



「……みさき」



一体何処に行っちまったんだか。訳の分からないままみさきと別れたあの雨の日からもう2ヶ月が経った。以来、みさきの姿を見た事はない。街中でみさきに似た後ろ姿を見かける度に内心もしかしたらと期待してしまい、顔を見た瞬間に落胆してしまう自分がいる。

みさきが俺に似合うと誉めたサングラスを掛けるようになった。そんな自分の感情を他人に目で悟られないために。みさきが嫌いな煙草を吸うようになった。少しでもみさきの知っている『シズちゃん』から脱却するために。それなのに俺の視線は自分の意思とは裏腹に、いつもみさきの姿を捜してばかりいる。



「静雄?」

「! は、はい!」

「どうしたんべ、キョロキョロして。探し物か?」



これからも俺は、みさきとの思い出の詰まったこの池袋に居続けるだろう。池袋最強と世間からは恐れられ、今や視界に映らぬみさきを想い続ける。それこそが俺自身に課された真の罰。

そして2度と人を愛せない――いや、決して愛さない。それは罪の意識から来るものではない。きっとこの先みさき以上に好きになれる人間は現れないだろうと俺が確信しているからだ。今でも俺は忘れられない。みさきの顔、声や仕草、そして共に過ごした日常を。好きだから。大好きだから。だからこそ俺は――もうみさきと出逢ってはいけないのかもしれない。もし再び出逢ってしまうような事があれば、俺は躊躇なくみさきに酷い事をしてしまうだろう。もしかしたら傷付けてしまうかもしれない。そして、俺はそうなる事を心の底から望んでいる。



――だけど、

――それがもし許されるのなら、



「……そうっすね、」

「?」

「あ、いや……俺は探し物をしているんだなって」

「探し物ねぇ。気ィ付けろよ。大切なものほど無くしやすいってよく言うしな」

「……うす」



――大切なものほど無くしやすい。

――だからこそ、もし再び見つけるような事があったら、きっと俺は……



やり直す事ができるのならやり直したい。何がいけなかったのか、今の俺には分かる。だけどそれは後悔でしかない。「ほら、行くべ」トムさんの言葉を合図に、俺は今日も1日の始まりの幕を開いた。一瞬だけ瞼を閉じて、またすぐ開く。



「今日もアイツだよ、アイツ。この前も渋ってなかなか借金返そうとしなかったニートの奴。くれぐれも気絶しない程度に、な?」

「が……、頑張ってみるっす」

「あっはは、お手柔らかによろしく」



そんな歪んだ感情を無理矢理自分の中に押し殺して得た、つかの間の日常。もっとも、そんな願ってもいない日常は早々と幕を切って落とされてしまう訳で。

俺の勘が告げる。みさきがすぐ近くにいるのだ、と。



♂♀



チャットルーム



あひるさんが入室されました



「えーと、お久しぶりです」

「誰かいませんかー?」



セットンさんが入室されました



[おひさー>あひるさん]

[実は誰かが入室するのをPCの前で待ってましたw]

「どうりでタイミングが妙に良かった訳ですねw」

[最近ここも過疎ってたからね]

[私も最近忙しいですし、今日はたまたまオフだったもんで来てみましたけど]

「甘楽さんが珍しくいませんね。聞きたい事があったんですけど……」

[甘楽さんとはこの間もチャットで話してたんだけど、神出鬼没な人ですからいつかは来るでしょう]

[田中太郎さんも、最近は来なくなりましたね。残念です。なんだか忙しそうにも見えましたが]

「確か受験生って言ってませんでしたっけ。高校か大学かは定かではありませんけれども」

[なんだか大変そうだなぁ]

[そういえば、あひるさんも今年受験?]

「はい、大学受験です」

「……まぁ、正直どうなるかは未定です」

[じっくり決めて行くといいよ。進路は人生においても大切な事だからね]

[そうそう、何か甘楽さんに聞きたい事があるって言ってたけど、もし私に答えられる事があったら何でも答えますよ]

「本当ですか?ありがとう御座います!」

「ではその……、今の池袋ってどんな感じですか?」

[池袋?今日も相変わらず平和だよ。平和島静雄がキレない限りはね]

[ただ、最近妙にキョロキョロしているみたいで、誰かを探しているんじゃないかって周りの人たちは怯えているらしいけど]

「……そうですか」

[黄巾賊もブルースクウェアも抗争後は随分と大人しいよ。前者の方はたまーに黄色い布を巻いた若者を街中で見かけるくらいかな]



[あとは……ダラーズ]



「?ダラーズ?」

「初めて聞きました」

「ダラーズも、もしかしてカラーギャングだったりするんですか?」

[あれ、聞いた事ない?池袋じゃあ結構聞くけど]

「最近池袋の方には行ってなくて……家は新宿ですから」

[そっか。まぁ、黄巾賊は黄色、ブルースクウェアは青色って暗黙の了解があるけれど、ダラーズの色を一言で言うと無色透明だね]

「無色透明?目には見えないって事ですか?」

[私も実際にダラーズのメンバーを見た事はないんだよ。ただ、その名前だけはネット上でもよく見かけるし、なんだか名前だけが独り歩きしているって感じ]

[今のところそこまでの知名度はないけれど、知る人ぞ知るってヤツかな]

「へぇ……なんだか不思議なチームですね」

[ちなみに、私もそのチームに入ってる]

「!セットンさんも!?」

[勧誘のメールがこの前来て……特別なルールがある訳でもないし、名乗るだけでいいって言うから]

[もしかしたらあひるさんのところにも、ダラーズからのメールが届くかもしれないですよ]

「なんだか随分とユルいチームなんですねー」

「……と、すみません。同居人が帰って来たようなので、そろそろ落ちます」

[同居人って、もしかして例の?]

「ああ、いえ。その人とは違う人なんですけど……」

「……すみません。また今度、事情はゆっくり話します」

「もしセットンさんの都合が良ければ、今度お茶でも飲みに行きませんか?」

[え?]

[ああ、はい。いいですねー直接お話するのも]

[……実は私もあひるさんに話したい事があるんですけれど、それもまたの機会にって事で]

「はい。詳しい事は後ほどお話しましょう」

「では、また」

[おつかれー]



あひるさんが退室されました



[それじゃあ、私も落ちますねー]

[ああ、甘楽さん。最近忙しいようですが、無理なさらずに頑張ってください]

[また来ます]



セットンさんが退室されました



現在、チャットルームには誰もいません

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