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セルティから今朝、連絡があった。あいつからメールが届くなんて滅多にない事だ。

内容は『今日会えないか』、と。実にシンプル且つ伝わりやすい短文のメール。どうやら急ぎの用らしい。何だか嫌な予感がした。





「……悪ぃ、待たせたか?」



今日は早々と仕事を切り上げいつもの公園で既に来ていたセルティと合流する。

時刻は18時。近くで買って来たシェイクを片手に、セルティの座っていたベンチに腰掛ける。



『いいや、私こそすまない。急に呼び出したりして』

「別にいいんだけどよ。お前がわざわざ呼び出すなんて、余程の事がない限りないからな」



それだけ言って、シェイクを半分くらいまで一気にキュイキュイと飲み干す。

セルティはしばらくオロオロしたり頭を抱えたりと、何だからしくない落ち着かない様子を見せたが、やがて意を決したようにPDAを持ち直すと早々と言葉を打ち込んで見せた。



『単刀直入に言うぞ。静雄』

「? おう」

『お前は警察に狙われている』

「……」



なんだか、どこぞのテレビドラマで聞いた事のあるような台詞だ。セルティはPDAを俺の目の前に突き出したまま動かない。どうやら俺の反応を待っているようだ。「……はぁ、」1つ溜め息を溢し、頭をポリポリと掻いた。

咄嗟に顔には出さないものの、内心かなり焦っていたりもする。ただでさえ嫌な予感はしていたものの『警察』という言葉の響きが心臓の鼓動の強さを数段階跳ね上げた。――……心当たりがあり過ぎる。



「ちょっとしたいざこざがあってな……」

『何があったんだ?』

「聞くな」

『……(ああ、また臨也のヤツか)』



ピキリと血管の浮いた俺の額を見て、セルティは何となーく状況を察したのか、やれやれと呆れたように肩をすくめると再びPDAに文字を打ち込み始めた。



『それじゃあ、昨日は?』

「昨日?」

『ほら、カラーギャングとかいう奴らの大きな抗争があったじゃないか』

「……へぇ、(初耳だ)」



俺の呼び出された違う場所で同時にブルースクウェアが暴れていた、という事か。ま、どーでもいいけど。

根こそぎチームをぶっ潰してやれたかと思ってたのに。それだけは残念だ。



『お前が関わっているんじゃないかって警察は睨んでいるらしい』

「俺は別に黄巾賊とやらに手を貸した覚えはねぇぞ」

『だろうな。だけど警察は無条件にお前を捕まえる為の口実をつくろうと、やけに必死だ』

「……」



――……いや、確かに暴れたり公共物ぶっ壊したりはしてるけどよ……。



「そこまで俺を捕まえたい理由なんて……」



そこまで言って――ハッとした。もしかしたらこれこそが、臨也の狙っていた事なんじゃないのか。あいつの事だ。十分考えられる。

例えば――



「……臨也のヤツよぉ、なーんか最近怪しい連中と絡んでいやがったよなぁ」

『ああ、それなら私も見たことがある』

「んで、突然パタリと姿を眩ませやがった」



だからあいつは追われるような厄介事を池袋(ココ)に残して、何処か遠くへ姿を眩ませようとしている……?そしてその罪を俺に擦り付けたとして……、

俺にしてはやけに整った考えが頭の中で出来上がった。凄ぇ、なんか今の俺冴えてるぞ。そして物凄く筋が通っていやがる。普通なら考えもつかない非道な術。



「(……やるな、ノミ蟲なら躊躇なくやらかす。その上、俺になら迷わず)」

『どうした静雄。シェイク握り潰してるぞ』



そして右手に握られていたはずのシェイクはいつの間にかコンパクトサイズに縮んでおり、俺の手はバニラでベトベトになる悲惨な結果に終わった。

ああ、まだ中身半分くらい残っていたのに。あれもこれも全部ノミ蟲のせいだ。怒りの矛先となる肝心の本人の姿が見えないのだから余計に腹立たしい。あの野郎……絶対ぇぶっ殺す!



「……いや、何でもない。サンキューな、セルティ」

『いいや、……そんな事よりも静雄』

「ん?」

『お前、確か同居人がいるとか言っていたよな』

「……みさきの事か?」

『そうそう、そんな名前』

「まぁな。 ……つーか、何かみさきに関わる事があったのか?」



それからセルティは首を僅かに傾げながら、俺の背後を見据えて言った。

……無論、セルティが直接口にした訳ではないが。



『……髪の長さがここらへんで』



そう言って指を真っ直ぐに伸ばした右手で、胸のあたりを指し示すセルティ。



「みさきが、か?確かにそのくらいの長さだったかな」

『小柄で』

「(そうそう、ちっこいよなぁみさきのヤツ)」

『黒髪で』

「……」



――あ……、れ?



確かにセルティにみさきの話をした事は1度だけある。しかしながら当然、直接紹介した事がある訳ではない。第一そんな機会、今までなかったじゃないか。

その後もセルティは、みさきの見た感じの印象や特徴を次々と言い当ててみせた。ここでひとつ、素朴な疑問が浮かび上がる。どうして会った事も見た事もないみさきの特徴を、こうも的確に言い当てる事ができるのか。どうも適当に言い当てている様には見えない。



「俺……そんな事まで話したっけか」

『おお、やっぱり当たってたのか?』



――……エスパーか?

――セルティは超能力者だったのか!?



『ああ、違う違う。そんなんじゃなくて』



セルティは口元に手を添えながら肩をカクカクと震わせて(ヘルメットの動きからして、どうやら笑っているようだ)ほんの少し間を置いてから、PDAに再び指先を這わせた。



『ほら、あそこ』



――……あそこ?



『後ろ後ろ』





そう指摘されて、背後へと首だけ向けた先には――みさきだと思われる人物が木陰に隠れてい(るつもりだっ)た。

どうやらこちらの様子を伺っているようで。「!?」――驚きのあまりに開いた口が閉まらない。いつからいたんだ?つか、どうしてこんな時間に池袋に!?



「な……ッ、みさき!?」

「あ。シズちゃん……はぅ」

『いやぁ、さっきから妙に目が合うなって思ってたんだよね』



『まぁ、ジロジロと見られる事にはもう馴れているんだけど』と、相変わらず笑いながら付け足すセルティを他所に、俺は急いでみさきの元まで歩いて行くと咄嗟にみさきの腕を掴んだ。「え?」みさきは相変わらず状況が掴めていないようで、ただ単発的な言葉をひたすら繰り返している。

一瞬だけセルティの方を振り返る。セルティも唐突な事に何が何だか分からないといった様子で、ただポカンと立ち尽くしている。俺は「スマン」と口パクで謝罪の言葉を伝えると、みさきの身体を片手でヒョイッと持ち上げた。それも文字通り、自らの肩を使ってみさきを抱え込む形で。



「!?」



しばらく停止していたみさきの身体が、次第に両手両足をバタつかせ始める。



「ねぇ、ちょっとシズちゃん」

「……」

「いい加減降ろしてよー」



この時ばかりは、セルティが口で喋れない事に感謝した。ここで「静雄」なんて呼ばれてしまってはみさきに気付かれてしまう。分かってる。そんなのは無駄な抵抗なのだと。そしていくら鈍感なみさきでも、薄々俺の正体に勘づいている事も。多分キッカケがないだけで、お互い何1つ大切な事を話せないでいる。

だけど臆病者な俺は、それが未だに出来ずにいる。



「ねぇ!シズちゃん、首なしライダーさんと知り合いなの!?すごいすごい!」

「(すごい事なのか?)……いや、ただ道を訪ねられただけで……(あ、ちょっと言い訳が苦しいか)」

「あ。なーんだ、そうなの?」

「……あぁ」



いつまで俺はみさきに隠し通していくつもりなのだろうか。嘘をつくのはこんなにも容易い事なのに――真実を口にするのはこんなにも恐ろしくて、怖い。

でも、いつかはきっと話すんだ。俺自身の事を全て、ありのままの俺自身をみさきに。俺に勇気が出るまでは――……、あれ?



――それって、いつの話?



「あ、そうそうシズちゃん!今日野菜が安かったからさー今度一緒に鍋でもやろうよ!」



楽しげに弾むみさきの声。

なんて能天気な声だと内心笑いつつ、俺はさっきまでの自分の考えを悟られないように、出来るだけいつもの調子で言葉を返した。



「鍋か、いいなそれ」

「冬って言ったら、やっぱり鍋だよねぇ」

「何鍋?」

「んー、適当?」

「寄せ鍋決定だな」



街の電灯に明かりが灯り始めた頃。俺はふと、空を見上げた。星が小さく輝きを増す。都会の割には結構綺麗な星空だと思う。

公園から離れた地点で俺はようやくみさきを降ろし、そして一緒に星を見た。みさきが言った。ほんの少し恥ずかしそうにして、



「ほら、前に私がお風呂で逆上せちゃって、シズちゃんに助けられた時あったじゃん。あの時も私、この星空を見ていたんだよ」



星空を逆上せるまで見ていたなんて、つくづく馬鹿なヤツ。でも、そんな理由も分かるような気がした。

ああ、本当に、都心の癖に田舎みてえな空しやがって。何様のつもりだ。



♂♀



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《ああ、そうそう》

《最近彼に呼び名のようなものまでついたらしいんですけど、これまた面白くてw》

[呼び名?]

《ま、ぶっちゃけそのまんまなんですけどね☆》



《"池袋最強"ですって!》



[ああ、なんて捻りもない]

《……ね?そのまんまでしょ?笑っちゃいますよねwうふふ!》

[嫌な予感がします]

《そうですかぁ?》

《私は何か楽しい事が起こるんじゃないかって、今からとってもwkdkですよ!》

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