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《昨日の騒動、セットンさん知ってます?》

[ああ、あの黄色い奴らと青い奴らの抗争ですか?]

[私が直接見ていた訳ではないんですけど……私の相方が見たって]

《実はあの騒動、同じ時間帯にもう1つ違う場所でも起きていたらしくて》

《また平和島静雄が絡んでいるんじゃないかって、騒がれているそうですよー》

《今度こそ彼、危ないんじゃないですか?》

[ええ!?]

[また何かあったんですか?]

《詳しくは知りませんけどー何だか派手に暴れたらしくて、とうとう警察の方も無視できなくなってきたって話です》

[最近は大人しくなったと思っていたんですけどね]

[原因とか、分かってないんですか?]

《これは人に聞いた話ですけれど……》

《女絡み、らしいとか》

[え]

[それ、本当ですか!?]

《もー、私が嘘ついたことありますぅ!?》

《ま、あくまで噂ですよ!ウ、ワ、サ!》

[……そうですか]



《でも、この1件はかなり一般の人達にも広まっちゃっているそうですよー》

《どうやら被害が本当に酷いみたいで、彼が公共物破損で訴えられるのも時間の問題でしょう》

[なんだか大変な事になってきましたね]

《ま、カラーギャングの抗争も、ブルースクウェア側のリーダーが捕まった事によって"カタチだけ"終わったようですし♪》

[これで、少しは落ち着いてくれるといいんですけど……]



《ああ、そうそう》

《最近彼に呼び名のようなものまでついたらしいんですけど、これまた面白くてw》

[呼び名?]



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♂♀



次の日、ブルースクウェアの連中が言っていた事がどうしても気掛かりで。紗樹に何かあったかと臨也さんに急いで連絡してみたところ、やはり紗樹は昨日抗争に巻き込まれ足を怪我して入院しているらしい。

包帯の巻かれた左腕に目をやる。私はどうやら骨にヒビが入ってしまったようで、完治するまでに時間は掛かるもののそれほど重症ではないそうだ。だからこそ紗樹がどんなに痛い思いをしたのか、考えるだけで胸が傷んだ。



「そんな……!今、紗樹に代わってもらえますか!?」

『それが、まだ本人が目を覚まさなくてねぇ。今、池袋の来良総合医科大学病院ってとこに入院してる』

「……そう、ですか」

これを機に幸い抗争を止める事はできたらしいものの、その賠償となる紗樹の犠牲はあまりにも大き過ぎた。

やっぱり昨日の時点で助けに行けば良かった、と後悔した。『君が気にすることじゃないよ』と臨也さんは言ってくれたけれど。



『じゃあさ、今度見舞いに来てやってよ。君は紗樹と仲が良かったようだし、紗樹も君に随分となついていたから』

「……分かりました」

『あはは、ありがとう。あの子もきっと喜ぶよ』



そう言って電話越しに笑う臨也さんの言葉に、ほんの少し安堵していた。臨也さんに異常なまでに狂信的な紗樹の態度に、私は不安を覚えていた。臨也さんの事だから、何か裏があるんじゃないかって――一瞬でも疑ってしまった過去の自分を殴ってやりたい。

臨也さんはこんなにも、紗樹の事を考えているのに。



「……紗樹の事、ちゃんと考えてあげているんですね」



それはふと思った事を口にした、本当に何気ない一言のつもりだった。

臨也さんは何故だか間を置いて、そして静かに――笑った。受話器越しに笑い声が聞こえただとか、そういう意味じゃない。ただ、なんとなく。口元にうっすらと笑みを浮かべるように。



『……さぁ?どうだろうねぇ。もしかすると俺は自分の為だけに、たくさんの人間を利用しているだけかもしれないよ?』





通話が終わってからすぐ、臨也さんからメールが来た。内容は『例のあの件』について話そうというもので、メール本文をスクロールさせると日程と時間がご丁寧に指定されていた。

確かこの日は何もなかったはず……と一応携帯でスケジュールをチェックし、その上で了承のメールを送信する。臨也さんからの返信は物凄く早い。



From 臨也さん
Sub 追記
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場所は新宿の事務所ね。

近々新宿に引っ越すから



そして添付された画像には新宿にあるという臨也さんの事務所への地図。私が極度の方向音痴だと知っている臨也さんなりの親切心だろう。多分、ここから歩いてすぐの近場だ。初めて池袋の事務所へ向かう時も道のりが随分と長かったっけ。迷子になって。

出勤するのが随分と楽になったと内心喜びながら、「引越し見舞いって必要なんだっけ?」だとか呑気な事が頭を過った。もし必要だったらどうしよう。そもそも臨也さんの好きなものが何なのかすら曖昧だ。以前、好きな食べものを訊ねた時には、


「好きな食べもの?俺は基本好き嫌いしない主義なんだ。まぁ、強いて言うのなら調理者の個性が見え隠れする料理かな?……あ、でも缶詰とかレトルト食品とかは勘弁してよね。ホント」

「(……なんて、言ってたっけ)」



やけに缶詰とレトルト食品に関しては全否定する臨也さんの身振り手振りを思い出しながら、今度新宿の事務所で会う時には何か作ってやろうと決めた。料理、好きだし得意だし。

それから午後は1人で池袋の街へ繰り出し、優雅にショッピングなんかを楽しみながら街の中をブラブラ歩いた。久方ぶりの平和な一時。今ではすっかり見慣れてしまった都会の街並みをぐるりと見回す。今日はいつもと何かが違った。昨夜の抗争以来、黄色い奴らを見かける事がほとんどなくなった。黄巾賊のリーダーも流石に負い目を感じているのだろう。



「……ん?」



公園へと差し掛かる角を1つ曲がると、数メートル先に見馴れた人物の後ろ姿が視界に映った。見間違えるはずもない、あのバーテン服。

そして向かい合ってバイクに跨がる人物――いや、人物と言ってもいいのだろうか――は、池袋じゃかなり有名なあの都市伝説――。



「(……首なし、ライダー?)」



別に負い目がある訳ではないけれど、こっそりと木陰に身を隠しながら彼らの様子を盗み見る。……シズちゃんの笑い声が聞こえる。何だか和やかな雰囲気だ。



「(何話してるんだろう)」



私はどこにあるのか分からない、首なしライダーのヘルメットの奥の顔を見つめた。『首なしライダー』て言うくらいだから、その名の通り首から上は本当に存在しないのだろうか。

素朴な疑問を感じながらも観察続行。ふいに首なしライダーと目が合ったような気がした。……まぁ、やっぱりどこに目があるのかは分からないんだけど。

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