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※微裏
嫌なら全力で拒否れ、とシズちゃんは言った。
私が今本気で「止めてくれと」懇願したとしたら、シズちゃんはきっと何も言わずにすぐにその手を止めてくれるだろう。だけど私は何もせず、ただシズちゃんの行動を受け入れ続ける。
「"本当の俺"を、受け入れて」
脳裏にいつかのシズちゃんの言葉が響き渡る。あの時の事は今でも鮮明に記憶している。シズちゃんがどんな表情で、私にその言葉を紡いでいたのかも。だからこそ私は『彼』を受け入れる事にしたのだ。あの時受け入れる事の出来なかった彼を、今こそ受け入れるべき時なんじゃないかって。
多分、シズちゃんが言いたい事はこれだ。そして毎日悩み続けた。そんな彼を私は癒す事が出来なかった。
――だから……今は、
ピチャン、と蛇口から水滴が滴り落ちる音だけが小さな浴室中に響き渡った。剥き出しの素肌の上を水滴と共にゆっくりと流れ落ちる泡。ヌルヌルとしたその感触にブルリと鳥肌がたつ。
2人で使うにはほんの少し狭い身動きの取れない浴槽の中で、シズちゃんは私の両足を浴槽の両縁に掛け股を大胆に大きく開かせた。
「ッ!!」
馴れない体制に自然と顔が熱くなる。必死に体制を整えようと試みるが、両足の自由が奪われた上にズキズキと痛む左腕ではうまく身体を起こす事が出来ない。
浴室の電気は消えているものの、既に数十分経った今暗闇に慣れてきたのであろう私の視界は、未だにぼんやりとではあるがシズちゃんの動きや表情の変化を判断するには差し支えなかった。モゾモゾと上半身だけ動かしてみる。背中にひんやりとした浴槽の壁がピタリと当たり、これ以上後ろにも前にも逃げる事は出来ないようだ。太股の辺りを往復するシズちゃんの手つきがやけにもどかしく、そして何よりくすぐったい。
「ぅ、……あ!?」
次の瞬間、何かが下着の中にスルリと入ってゆく感触。思わず変な声が漏れる。頭の中が真っ白になる。それでもシズちゃんの指の動きは止まる事を知らず、やがてそのまま私の秘部へと1本の指が宛がわれた。途端に頭に蘇るのは男達に触られた時のあの嫌な感覚。
無意識に身体を強張せる私を見て、シズちゃんはほんの少し困ったように笑う。
「力、抜けって」
「だ……、だって……!」
「ほら、ゆっくり息してみ」
「……?」
言われるがままに思いきり息を吸って、そして吐く。
体中の力が酸素と共に抜けた出た時――その一瞬の隙を見計らって、シズちゃんはその細い指を直にナカへとゆっくりねじ込ませた。
「!」
突如襲う違和感。泡は既にほとんどがお湯で流れ落ち、シズちゃんの指に絡んでいるのは滲む汗と水滴だけ。直接秘部に触れられ、ビクンと身体が跳ね上がる。
身体の中に異物を感じ、途端に内側からゾクゾクとした嫌な感覚が走る。視界が悪いのも加えて身体は更に敏感さを増し、自然と私の意識はシズちゃんの指へと向けられた。
「すげ……なんか、」
「……ぁ、う……」
「すげぇヌルヌルしてる」
「ッ!」
僅かに口角を上げて「感じてくれてんだよな」――そう言ってシズちゃんは嬉しそうに笑うと、私の額にそっとキスをする。
ちゅ……と音をたてて柔らかい唇が離れた後も口付けられた部位から熱が失われる事はなく、むしろそこから更に熱が帯びてゆく感じがした。しばらく動きを止めていたシズちゃんの長い人差し指が、やがてたどたどしく動き始める。始めは私の様子を見るようにゆっくりと、そしてだんだんと動きの速度を上げてゆく。
「や!……ぁ…ッ」
連動する2つの身体は更に隙間なく密着し、反射的に瞼を閉じるものの、それが結果的には更に与えられる快感へと全意識を集中させるものとなってしまった。
それでもシズちゃんの手つきはあくまでも心地よい力加減であり、決して気持ちの悪いものではない。肝心の突起に決定的な刺激は与えずに、慣れない動きで撫で回し擦り続ける。その動きはまるで、何かを掻き出すかのようでもあり。
「や……、ぁ……」
「……」
「や……ヤだ……ッ、し、シズちゃン……!」
「……ッ!!」
名前を呼ばれたシズちゃんの肩が僅かに揺れ、そして突然もう片方の腕が持ち上がったかと思うと、大きな掌が私の口元全体を塞ぐようにしてガバリと覆った。
「む……ッ!?」
「あんま声出すな。……なんだかみさきに名前呼ばれると、凄ぇ変な気分になっちまうからよ。今その気になっちまったら、多分、俺は俺を抑えきれねぇ」
「……」
「こんな事で嫌われたくねぇんだよ……悪ぃ」
口を強く押さえ付けられ声の出せない私は、返事の代わりに首を小さく縦に振る。この行為がただの突拍子な性欲によるものではないのだという事を悟り、ほんの少しだけ安堵したのだ。
シズちゃんは申し訳なさそうに目を伏せてそう言うと掌は敢えてそのままにしたまま指の動きを再動した。私の身体が震える度にシズちゃんの指の動きがより一層激しくなり、秘部が異様に濡れていくのが分かる。
「……ん、」
極限声を出さないように気を使いながら、それでも敏感な身体は好きなように快感を身体全体に巡らせてゆく。秘部が脈打つように熱くなり、水滴ではない濡れる音がやがて響き始めた。
自分の身体が自分のものじゃなくなるような不思議な感覚と心地よすぎるくらいの快感に生理的な涙が目尻に浮かぶ。それに気付いたシズちゃんが舌でそれをベロリと舐め取る。その行動は私に大型犬を思わせた。
「ふ、……ぁ、ン」
しきりに込み上げてくる衝動。いつしか抵抗する事も忘れて、私はなるべく声に出さずに身体の火照りを感じながら悶え続けた。
そんな私の様子をシズちゃんが間近で見詰めていることに気付き、恥ずかしさが沸き上がると同時にシズちゃんに表情を悟られまいと片腕で自分の両手で覆う。
「顔、隠すなって」
「や……ッ、い、今はホント……ホント無理……!」
「いーから」
「え、やッ、ちょ……!」
シズちゃんの手から逃れるようにして必死に静止の声をかけるが、それでもなかなか言う事を聞かない私に多少の苛立ちを覚えたらしい。シズちゃんはさっきまでよりも指先に更に力を加え、新たな行動へと出た。
シズちゃんは更に私から身体の力を奪うように程よい力加減で突起を押し擦り始める。細い指先で撫で回しこね回し、そして擦り潰す。先程までの刺激よりも遥かに強い、電流のようなビリビリとした快楽に思わず背中が大きく仰け反った。
「ひゃあ……ッ!」
――え、なに……コレ?
――すごく……気持ち良すぎて……
「やっぱここ、イイんだな」
「! な、なんで……」
「だってみさきんナカ、すげービクビクしてる」
「!!」
いつの間にシズちゃんは左手までもを秘部へと向けており、右手では尚突起をクニクニと擦り潰しつつ、左手の指は割れ目でゆっくりと抜き挿しを行っている。
「あン、……あァ!!」
そのまま声を押し殺す事も忘れ、私の口からはひたすら喘ぎ声だけがしきり無しに溢れ出ていった。容赦無く小刻みに動くシズちゃんの指先。無意識にぴん、と指を立てる私の足。いやらしい水音が一段と大きく響き渡り、しかし何故だかどこか遠くにも聞こえた。
目の前が何だかチカチカする。頭の中にノイズが走るような、今までに感じた事のない妙な感覚。次第に気が遠くなってゆく――……
「みさき」
シズちゃんが子どもをあやすような口調で私の名前を優しく呼ぶ。いつ意識が飛んでもおかしくないようなこの状況で、私はシズちゃんの言葉を確かに聞いた。
口から洩れる喘ぎ声も途切れ途切れになり、体中の全ての力が抜けて今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
「俺が……俺がみさきを気持ちよくしてやる。今もこれからも、ずっと」
「ン、……あ……?」
「だから、みさきに俺以外の男は必要ないだろ?もうみさきが他の男に触れられる必要なんて、ないんだ」
「……?」
――男?必要ない?
――シズちゃんは、一体何を言っているんだろう。
そう疑問を口にする余地も与えられずに、私の頭の中が次第に真っ白に塗り替えられてゆく。
ぼんやりと薄く霞む視界の中――意識を手放す直前にシズちゃんは私に何かを言った。何かを私に伝えようとして、しかしもう既に私の耳にその声は届かない。
「*してる」
朦朧とした脳裏には、あの記憶の中の"紅い瞳"が一瞬だけ過り――それが一体何を意味しているのかを考える暇もなく、私の意識は次第に闇へと落ちていった。
尚も身体の火照りを感じながら。そして密着するシズちゃんの身体の体温に、心地よさすらも感じながら。