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※微裏
お互いの服が蒸気で濡れるにも関わらず、俺は浴室にみさきを連れ込み椅子に座らせると上半身だけ脱いだ。せめてシャツだけは濡れないようにする為だ。
「今綺麗にしてやるからな」
そう言って優しく額に口付ける。それから片手でシャワーの水温を確認しながら、俺はもう片方の手でみさきの(正確には俺のなのだが)着ている白シャツのボタンを器用に1つ1つ丁寧に外してやった。
やがて程よい水温になったのを確認し、全てのボタンを外し終えた白シャツの前がハラリとはだけるとみさきが恥じらいながら自分の身体を両手で隠す。
「ッ、シズちゃんのシャツ濡れちゃうよ」
「どうせ洗濯するだろ」
濡れようが何をしようが、正直シャツなんて今はどうでもよかった。完全に剥ぎ取った白シャツを洗面所の洗濯物籠へと適当に放り投げ、ブラのフックを外す。
何も身に付けずにむき出しになったみさきの上半身に後ろから優しく指を這わすと、嬉しいくらいに敏感な反応が返って来た。白くて綺麗な肌。だけれどあの男達の汚い手で汚されてしまった。俺だけのみさきに触れる事など、決して許されない事なのに――
「……や、シズちゃん。それ、くすぐったい」
「ああ……悪い悪い」
小さな身体をほんの少しビクつかせながら、しかしその瞳には戸惑いの色を隠せずにいる。そんなみさきを安心させるように俺は優しく笑ってみせた。今胸に秘めている感情を表に出す事が出来たら、どんなに楽な事だろう。感情に任せてしまおうとする弱い心と、それを自重しようとするわずかな理性。板挟みになったこの状態で何だか頭が狂ってしまいそうだ。
風呂場には大きな鏡があって、しかし今は湯気でくもっていてよく見えない。シャワーの温かい水をかけて鏡のくもりを取り除いてやると、正面からのみさきの姿が鏡に映し出された。それに気付いたみさきは慌てて自分の胸元を隠す。
「し、シズちゃん!」
「? どうした?」
「は、恥ずかしいから……」
そう言って顔を真っ赤にするみさきがこれ以上ないってくらいに可愛らしくて、そんなみさきを苛めてやりたいという男特有のS気というか所有欲というか――とにかくそんな感じの出来心がムクムクと次第に膨れ上がる一方だった。それでもみさきの気持ちは出来るだけ尊重してやりたくて、「せめて浴室の電気は消して欲しい」という要望にはちゃんと応えてやった。
浴室の照明を消した後も俺は感覚だけを頼りにみさきの肩にそっと触れると、背筋に沿って舌でゆっくりと丁寧に舐め下ろす。ゾワリと震えるみさきの身体。
「!?な、何して……ッ!?」
「ん、綺麗にしてる」
「だ、だからって舐めなくても……!」
それを止めさせようと一瞬こちらを振り返るが、そんな小さな抵抗はすぐに無意味となった。みさきの身体は快感にとことん弱い。ほんの少し刺激を与えてやるだけで、みさきは物凄く感じてしまうのだ。
首筋からくびれた腰までを舌で這うようにして、ゆっくりと往復する。みさきの肌に鳥肌が立つのが解る。
「ふ……ン、」
我慢していた声が次第に漏れ始め、狭い浴室に艶かしい声が響き渡る。それがやけに色っぽくて思わず俺は興奮してしまった。
無理もないだろ。好きな女が目の前で喘いでる姿とか、多分……1番そそると思う。特に俺なんかは。
「ぁ……、ふ」
「(……やべーな、興奮してきた)」
「……、…〜〜ッ!」
それでも必死に声を噛み殺そうとするみさきの姿が俺を焦らされているようにも見え、それが物凄いもどかしく、何とか声を出させてやりたい俺は意地の悪い事にみさきの弱いところをペロリと舐めてやった。
例えば首筋だとか耳だとか至るところにみさきの性感器官は存在する。耳をねっとりと舐め取るように一舐めすると一際みさきの背中が大きく仰け反り、俺の1つ1つの行動全てに敏感過ぎるくらいの反応を示してくれる忠実な身体に思わず口元がニヤついてしまった。それを悟られまいと必死に表情を取り繕い、一旦舌を引っ込める。
「……は…ぁ、」
肩を大きく上下させ、ぐったりとしたように呼吸を続けるみさき。俺は唾液やら水滴で濡れた口元を右手の甲でぐいっと拭い、やがてみさきが落ち着き始めたのを確認するといてもたってもいられなくなって、既に湿ってしまったスカートにそっと人差し指をかけた。
途端、みさきが驚いたように両目を見開く。
「ぇ……、し、下も!?」
「当たり前だろ。1番綺麗にしなくちゃいけない場所なんだから」
そして再び脳裏に浮かぶのは、男達の汚い手で犯され喘ぐみさきのよがる姿。どこか物欲しそうに潤む瞳。あの光景を見た瞬間、これは悪夢なのだと真っ先に願うのと同時に、腸が煮え返る思いがした。
そして、これは確かに現実なのだと、認めざるを終えなかった。俺以外の男に敏感に感じていたみさきが、俺以外に女を感じさせたみさきが、どうしても許せなかったんだ。
――なんで、みさきは、
――俺が1番みさきのことを強く想っているはずなのに、なんで、なんで、
「!! や……ッ!」
スカートのフックをわざわざ両手で外すのも面倒で、ほんの少し力を加えただけなのにそれはいとも簡単にビリビリと音をたてて破けてしまった。
そして気付く。みさきの瞳に確かな拒絶の色が伺えることに。それは俺が今まで嫌と言う程に見てきた、俺を恐れる人間の目だった。
「……あ」
もしかして、俺が今しようとしていることは、あの男達と全く同じことなのではないか。無理矢理服を破ったりして、みさきの身体に一方的な快感を与え続けて
いや違う。俺はあいつらみたいにただ性欲を満たしたいだけじゃない。それは強い愛情故に。ただあの男達の手の感情が残ったみさきの身体が嫌で嫌で嫌で嫌で
「……悪ぃ。でも、変な事はしねぇから。だから、」
――どうか、怯えないで。
「シズちゃ…、……ッ!」
何かを言いかけたみさきを無視し、俺はみさきの背後から抱きつく形で腕だけ伸ばしスカートの下の薄い布地にそっと指を添えた。余裕なんて一切ない。みさきが動揺の色を隠せずに慌てて両足を閉じようとするが、俺はすかさずもう片方の手でみさきの太股を掴み取りそれを防いだ。掴み取った太股を真上に上げるようにして固定し、みさきの身体の自由を奪う。
そこはもう既に湿っていた。ふにっ、とした柔らかい感触。思わず喉が鳴る。
「……し、シズちゃん」
「心配すんなって。ただ、"あの男達と同じ事"をしてみるだけだから」
「!!」
「今までした事ねーけどさ、でも、みさきがあんなに気持ち良さそうにしてたんだからなぁ。……あんな知らない男達相手でも」
「あ、あれは無理矢理……!」
「だから……いいよな?気持ちイイんだもんな?誰だって気持ちがイイことは、大好きだろ?」
多少強引にみさきの言葉を遮りながら、耳元に吐息混じりの声で囁くとみさきは更に顔を真っ赤にさせた。何だかみさきが自分の思うがままになっているような、そんな錯覚さえ起こしてしまう。理性なんてとうにぶっ飛んでしまった。身体が言う事を聞いてくれない――いや、正確には聞こうとすらしない。あの時、怒りに任せて青色のバンダナを巻いた奇妙な集団をぶん殴ってやったように、今や身体のストッパーと言えるものは存在しない。その相手が例えみさきであろうとも。今みさきに向ける感情は揺るぎ無い恋心でもあり――静かに燃える怒りでもあり。
指先に更に力を加えていくと、薄い布と共にみさきのナカへと指がゆっくりと沈み込んででいった。そこは俺が思っていたよりも温かくて柔らかくて、直接触れたいが為にその薄い布の隔たりさえ今すぐにでも取り除いてやりたかった。そんな感情を押し殺すと同時に、やっぱりあの男はいつか絶対に殺してやろうと強く思った。俺よりも先にみさきにこんな事するなんて、万死とかそんなんじゃなくて、つーか普通に自殺行為に値するだろ?なぁ。
「ま……ッ、ちょ……!ほ、本気でちょっと待って!」
「待てって……いつまで?」
「ッ!」
――ほらな、
――みさきはいつだってそうだ。
「いつまでって……そんな事……」
ああ、今までもこうだった。いざというときみさきは必ず俺を拒否する。そしていつも先伸ばしにする。俺の事が嫌いなら嫌いで、いっその事この家から追い出してしまえばいいものを。それが出来ないのはみさきの優しさ故か。もし仮にそうだとしたら寧ろ同情めいたその優しさこそが俺を苦しめているというのに。
みさきの気持ちが分からない。分からないからこそ苦しい。だけどそれを聞く勇気もない。俺はいつまで経っても臆病者のままだな。
「嫌なら全力で……拒否れよ。本当に嫌なら出来るだろ。中途半端なんかにじゃなくて、本気で」
予めそれだけ告げておく。
暗闇にようやく目が慣れてきた頃、覚束無い視界の中俺は一旦両手をみさきから離し、手探りでボトルを掴み取ると両手に泡立てた泡を馴染ませた。そして今度は泡にまみれた右手で再びみさきの内腿を撫で下ろす。
「……ん、」
みさきの身体がふるり、と震える。俺の言葉に対して拒否もせずに、そして否定もせずに。ただ声を必死に押し殺している。
「ん、んぅ……」
「……(ああ、俺はやっぱり狂ってるのか)」
好き、大好き、愛してる。
そんな言葉じゃあ足りないくらいにこんなにもみさきが愛しくて仕方がない。
壊してしまいたい
一瞬でもそう思ってしまったこんな俺を許してくれとは言わない。