>39
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※微裏
「君さ、シズちゃんの事好きなの?」
この間の臨也さんの言葉が一瞬頭を過った。
ちゅっ、と小さく音を立ててシズちゃんの唇がゆっくりと離れてゆく。
そのままシズちゃんが顔の位置を下げたかと思うと今度は首筋に吸い付くようにキスをした。
「ッ!」
痛いくらいの吸い付きに思わず両目を瞑る。どうしようどうしよう。怖い痛い怖い怖い。
前に今みたいな状況にあった時の事を思い出す。それでもあの時は確かに私にも非があった訳で。
やっとシズちゃんが首筋から口を離したかと思いきやいつの間にかシズちゃんの右手が服の中へと入ってきた。
「し、シズちゃん!」
「……」
「そ、それは、マズイって……!」
シズちゃんの指がスルスルと私の肌を這いながら上へ上へと上がって行きやがて下着の中へと侵入する。
そのまま胸を鷲掴みにされたかと思うと、やんわりとシズちゃんの指が胸の膨らみへと食い込んでいった。
「ッ、」
慣れない感覚に思わず背筋がゾクリとする。
ふいにシズちゃんの細い指先が小さな突起に触れ、反射的に甘い声を漏らしてしまった。
「ひゃあ……!」
「!」
驚いたように突然シズちゃんの動きがピタリと止まる。
自分のものではないような声に羞恥心が沸き急いで両手で自らの口を覆った。
「(うあ、なんか恥ずかしい)」
「(……なんだ、今の)」
「……」
「……すげぇ、可愛い」
「……ッ!」
「もっと聞きてぇ」――耳元で小さく囁かれ、普段のシズちゃんなら絶対に言わないような台詞に思わず顔が熱くなる。
次の瞬間服を引っ張られるような感覚を受け、ほんの少し視線を下げて見ると服の裾が既に半分くらい捲られていた。
「ちょ、…待……ッ」
慌てて服の裾を直そうとするもののやはり力で勝てるはずもなく結果的に上着をベロンと捲られてしまう。
シズちゃんの視線が私の身体へと注がれているのを痛い程感じる。
「あ、あんまり……見ないで……!」
「なんで?すげぇ……綺麗だ」
ふいに腰のくびれにそって撫でるように指先を這われ、感じやすい私の身体は敏感にも小さく震えた。
「スゲ、鳥肌立ってる」
「……ふぁ、」
下着を上にぐいっとズラされ2つの膨らみが露になる。冷たい空気に思わず身震いする。今度は同時に両胸を大きく揺さぶられ、どうしようもない感覚に思わず顔を横に背けた。
他の人に触られるの初めてなのに、なのに、どうして
「(……どうしよう)」
「……気持ちイイか?」
「ん……ふ…ぁ…ッ!」
――どうしようどうしよう、嫌じゃない。
――すごい、気持ちイイ。
快感から逃れるように、右手で前髪をくしゃりと掴む。口からしきりに漏れるのは、甘い吐息。シズちゃんは満足気に目を細めると、胸の小さな突起へと舌を這わせた。その形にそって丸く円を描くように舐め回し、片方の手でもう片方の胸の突起をぐりぐりと押し潰す。徐々に固くなってきた突起を爪で軽く引っ掛かれただけで、身体の芯が疼くようにくすぐったい。
「ぁ……」
舌がそのまま腹部へと滑る。至るところにシズちゃんが口付けていくのを私は見ている事しかできなかった。胸、腹、そして脇。
口付けられた部位がほんのりと紅く色付く。シズちゃんがそこを愛しそうにペロリと舐める。
ふいに視線と視線がぶつかる。それから引き付けられるかのように長い長いキスをして、
それから、それから――
♂♀
「……はぁ、」
隣で熟睡するシズちゃんにそっと毛布を掛けてやると私は小さくため息を吐いた。
――随分と刺激的な夢を見てしまった。
――妙にリアルな、しかも、シズちゃんと、
シズちゃんが酔っ払って帰って来てソファに押し倒されたところまでは確かに現実なんだと思う。変な夢を見たせいか記憶が物凄く曖昧で、実際どこからどこまでが夢か現実か判別できなくなっている。
もしかしたら私は要求不満なのだろうか。それにしても、いつも滅多に夢なんか見ない私がどうして初夢にあんな夢を……!
「(……まあ、夢で良かったけど)」
安堵と罪悪感から再び溜め息を吐くと、私はごろんと横になり、まじまじとシズちゃんの寝顔を見つめた。相変わらず顔立ちの整った、所謂イケメン顔。多分、学校の同級生に紹介したら、とてつもなく騒がれそうな。
幸せそうに眠るシズちゃんを見て「どんな夢見てるんだろう」と内心思いながら、私は変に気だるくなった身体をもう一度休ませる事にした。
「(夢オチとか、ほんと最悪……)」
「(……でも、)」
薄っぺらな関係で結ばれた私達。断ち切ってしまえばもう二度と会う事もなくなるだろう。だけど相手に依存してしまっているのはきっと私の方だと思う。
果たしてこの気持ちが異性へと感じる恋愛感情なのか。恋を知らない私にはそれさえも分からない。だからといって今まで恋愛と無縁の人生を辿って来たのかと問われればそうではないのだ。ただ、かつて起こったあの事件がトラウマになっているというのも事実。
――……だけど、
「シズちゃん」
声に出して呼んでみた。本名ではないその名を。
「(好き、なのかなぁ)」
モヤモヤとしたこの感情に名前を付ける事もできないまま、私は静かに目を閉じた。
目を閉じていても隣に感じるシズちゃんの温もり。それがとても心地よくて、愛しい。