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「何なんだよ、手前ら」



誰かにつけられている気配を感じ取り、敢えて路地裏へと入り込む。気配のする背後へと振り向きもせずにそう言い放つと案の定柄の悪そうな男たちが数人姿を現した。手には鉄パイプやナイフなど、思い思いの武器を隠し持っている。どれも使い古したものばかり。

するとリーダーらしき目付きの鋭い男が一歩前へと踏み出し、光る眼でギロリと俺を睨む。どうやら何らかの恨みがあるようで、その声にはやけに感情が込もっているように感じた。生憎俺の記憶にそのような記憶は既に残ってなどいない。



「手前が平和島静雄だな?」

「……だったらどうした」



以前にも似たような状況に追い込まれた時のことを思い出す。あの時も臨也の仕業だった。多分、今回も。

あいつが決して良い人間とは言いがたいヤツらと関わりがある事くらいは知っている。知ってはいるが、それを止めさせようという気も義理も俺にはない。第一あいつと俺は親しい仲でもなんでもないのだし。新羅なんかは俺等を見て『犬猿の仲』だとか言っていた。



「この間の貸し、きっちり返させてもらうぜ」



ドスの効いた古臭い台詞を聞いてああそうかと納得した。こいつら、この前の。



「いくら強いっつってもよー平和島さん。こんだけの数を相手にするのは、ちったぁ無理があるんでねえか?」



どうやらこいつらは相当ヤバい連中らしい、雰囲気で分かる。それは人殺しなんてものも躊躇なく犯してしまうくらいに。次々と集まって来る人、人、人。いつの間にか俺はすっかり俺達に囲まれていて――これほどの数の人間達が一体どこに潜んでいたのだろうかと逆に感心してしまう程だ。



「化け物っつったって、人間だろ?こん中のどれか使えば……まぁ、確実に死ぬだろ」



たくさんの殺気を肌で感じ取りながら、俺の頭はどうすればいかに早くこの状況から抜け出す事が出来るだろうとそればかり考えていた。とりあえずみさきへのプレゼントが傷付いては困る。状況の割にはやけに冷静な俺の頭、その頭をフル回転させ見出だした答えは――実に単純且シンプル。



♂♀



From シズちゃん
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5時にいけふくろう前な



名目上『秘書』として臨也さんの元で働き初めて、特に大きな変化もなく1週間の月日が経った。終業式後クラスメイトからクリスマス会のお誘いを受けて、ああそうだ、今日はクリスマス・イヴなのだと頭の片隅で思い出していた。

今朝、シズちゃんがあわてんぼうのサンタクロースを鼻歌で歌っていたのはそういう訳ですか。なるほど。



「苗字さん、本当に来ないのー?」

「うん、ごめんね」

「もしや……今夜は彼氏さんと!?」

「このリア充め!」

「!?へッ!?」

「いるんでしょ、彼氏」



隣で友達につつかれながら私の脳内には、何故かシズちゃんの顔が浮かび上がっていた。それを掻き消すかのように小さく首を振る。



――いやいや違う!そういうんじゃあなくて!!

――シズちゃんは決して彼氏とか言う訳では……!



「クラスの男子、ほんと残念だよねえ」

「告る前からフラれたも同然じゃん」

「……? 何が?」

「んー、何でもない!」

「?」



その後クラスメイト達からはリア充爆発しろ!などと散々罵られながら(?)一緒にマックで昼食を摂り、その後サンシャイン通り前で解散した。此処に転校して来て間もない私だが、来神学園は明日からが正式な冬休みの始まりであり、早くも長期休暇に突入なのだ!クラスメイトの誘いを断ったのには理由がある。それはつい先程届いたシズちゃんからの1通のメール、確か5時にいけふくろう前で待ち合わせだったっけ……



〜〜♪〜〜♪



すっかりクリスマスらしい姿へと早変わりした池袋の街。耳に響くのは毎年恒例のクリスマスソング。私はふと思い出したように踵を返すと、とあるショップの扉をくぐった。クリスマス以前から予約していた、あるものを買う為に。

そして数十分後、小さな小包の入った紙袋を片手にいけふくろう前でシズちゃんを待つ。普段と変わらない景色のはずが今日は何だか違って見える。街はクリスマスカラーの赤と緑と、そしてやはり黄色でいっぱいだった。あとはいつもに増して青色も。何が起きてもおかしくないような――そんな聖なる夜になる予感。



「あれ。ねぇ君、1人?」

「良かったら俺らと遊ばねえ?」



――……だけど、

――こういう事だけは極限起こらないで欲しい……!



心底強く願っていても起きてしまった以上は仕方がない。いかにもベタな台詞を口にするナンパ師は、恐らく自分よりも歳上の、強面といった感じの服を身に纏った数人の男達だった。今時こんな人がいるものなのかと内心思う。勿論相手を怒らせては仕方がないので敢えて口にする事はない。



「ね、聞いてる?」

「随分と素っ気なくやしねえか?なあ?」

「ええと、私、人を待っているので」

「まじ?彼氏待ち?」

「いやいや、そんなん関係ないっしょー」



理屈の欠片もない男達の言葉を無視しながら、意識だけは常に周りへと向けていた。出来るだけ厄介事には巻き込まれたくないのだ。

すると数十メートル先からシズちゃんが走って来る姿を視界に捉え、私は思わず彼の名前を呼んだ。



「! シズちゃん!」



時間は待ち合わせ時間の5時ジャスト。あまりにもシズちゃんが時間に忠実過ぎるから、思わず笑いが込み上げてくるが、残念ながらそんな時間はないらしい。

何故なら――いかにも不良じみた多数の男達がシズちゃんを追って来たからだ。



「……は!?」

「悪ぃ。待たせたか?」

「そ、そんな事よりもこの人達は一体……!」

「ああ、なんか勝手に付いて来た」



表現一つ変えずにしれっと言い放つシズちゃんの言葉に軽く目眩が生じたのは気のせいなのだと思いたい。

そうしているうちに次第に距離を縮めてくる男達。一方ナンパ男達はシズちゃんの姿を指差して、何故だか慌てた様子で口をパクパクとさせている。物凄く驚いているようにも見えるが。



「か……彼氏って、まさかそいつ……」



――ああ、もう、

――本当に、面倒臭い!



「え、ちょ、俺が彼氏って……ええ?」

「ああもう、詳しい事はあとで話すから!それよりあの人達、何!?」

「だから、なんか付いて来たんだよ」



突如引き起こされた聖なる夜の逃走劇。今宵クリスマス・イヴに逃げ延びた先に待ち受けるものは果たして何なのだろうか。あまりにも唐突な出来事に、順応性の低い私の頭は状況を理解するだけで精一杯。

願わくば平穏に円滑に厄介事が済みますように……!とにかく今の私には、そう願う事しかできなかった。

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