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ひどく寒くて、ひどく熱い。矛盾しているようだけど事実だから仕方がない。とにかく俺が言いたいのは、ひどく土砂降りのひどい雨の日だったということだ。

ザアザアと容赦なく雨粒が俺の髪や頬を濡らす。今朝の天気予報を思い出す。「今日は全国的に晴れ模様です」とか、堂々と嘘言いやがって。いつだってそうだ。肝心な時に限って予想だとか、そういった類は当てにならない、そんなもん。





「いたぞ!こっちだ!」



次にバタバタバタ……とかなり大人数の人間達が一斉に駆ける足音。音から察するに、どうやら人数が先程より増えているらしい。思わず小さく舌打ちする。その音さえ、雨の音に掻き消されてよく聞こえない。

手元の道路標識を引っこ抜いた。極力喧嘩は避けたかったがやむを得ない。とりあえず襲って来た5、6人を適当にぶっ飛ばしておいた。すると大袈裟なのではと思うくらいに華麗に宙を舞う黒スーツの男たち。雨で若干ふやけた地面に落下するよりも先に、俺はその様子を見届ける事なく再び前方へと身体ごと向ける。



「(ああもう糞ッ、)」

「(何なんだってんだよ一体……ッ!)」


こんな事態に遭遇したのは、今回が初めてではない。今までに幾度とあるが、事の発端は間違いなくあいつが原因だった。そんな今までの経験上俺は面々を迎え撃つのではなく、一切の抵抗をせずに逃げ出す事を選ぶ。皮肉なことに今までの経験値が今生かされたのだ。とにかく今は逃げるしかない、下手に抗おうとすれば逆に面倒な事になるだろう。これじゃあアイツの思うツボだ。ただノミ蟲野郎をぶん殴る事だけを考えつつ俺はひたすら走り続ける。

ほんの少し、油断したのがいけなかった。



パァンッ



鋭い銃声。次に衝撃。

背後からの確かな衝動にグラリと体が前のめりになる。腹のあたりに違和感を覚え右手を這わせると、ぬるりと生暖かい感触がした。



――ん?なんだ?今の。

――……あたたかい?



「……、……?」



それは映画やドラマでよく耳にする――普通に生きていれば馴染みのないような、だからこそ瞬時に理解する事ができた。次に理解できたのは自分が今『ヤバい』状況にあるということ。



「(……やべ、)」



咄嗟に下を見る。片手で抑えているにも関わらず、止まる事の知らない鉄臭くて赤黒い液体がポタポタと水溜まりの中にマーブル模様を生み出していく。

そして火薬の匂い。人工的な煙が立ちこもる中、微かに見える黒い塊は確かに殺意の塊だった。明らかにこちらへと向けられた銃口。



「(鉛中毒になったら……どうしてくれんだよ……ッ)」



前に新羅から『鉛中毒』について聞いていた手前もあって、俺はただただそれだけを心配しつつ。咄嗟に路地裏へと身を潜めると、幸いにも奴らを撒く事に成功した。バタバタと今度は遠ざかってゆく音を耳に、頭では様々な考えを巡らせる。この程度じゃあ俺は死なねえが、当たり所が悪かったのかあまりにも出血が多い。とにかく今は止血だ。



「(撃ってきたの、あの追って来た奴ら……じゃあねえよな)」

「(じゃあ、誰が……)」



コンクリートの壁へと体を預ける。どうやら今の体調は優れないらしい。銃で撃たれたのだから体調が良好な訳もないが、今日はやけに身体が重く感じるのだ。

そのままズルズルと座り込み、多量の出血と疲労からか俺は重たい瞼を閉じる。



「(犯人……見つけ次第殺す)」

「(よし、殺す。絶対に殺す。確実に殺す。めらっと殺す)」


「(殺す殺す殺す殺す……)」



ふいに一瞬だけ、ザアザアと鳴り響く雨の中あいつの忌々しい笑い声が聞こえたような気がした。そんな訳はないかと肩を竦める。だってあいつは常に傍観者側に立つ、それこそノミ蟲みたいに卑怯な奴なのだ。そもそも、わざわざ自分が直に手を下すことなんて――

ああ。ホント、ひどい話。

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