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『……静雄、か?……ああ、やっぱり!随分と久しぶりじゃないか!』



バイクにまたがったまま嬉しそうにPDAに文字を入力するこいつの名前はセルティ。池袋じゃ『首なしライダー』とも呼ばれてる。

ぶっちゃけ名前以外の詳しい事は知らないし首が本当に無いのかも実際見た事がない。ただ、俺の事を怖がらずに普通に接してくれる数少ない理解者の一人だ。



「よぉ、セルティ。1週間ぶりか?」

『まぁ、そのくらいになるかな。静雄が1週間も暴れずにいるなんて、新羅なんかは暗雲低迷の予兆じゃないかって言ってる』

「あんくもていめい?」

『あんうんていめい、だ。新羅曰く恐ろしい事が起こりそうな様子のことらしいぞ』

「……なんだそりゃ」



相変わらず四字熟語を変に多用する、小学校の頃からの変わり者の幼なじみの顔を思い浮かべながら、口から出たのは小さな溜め息。



「相変わらずだよな、新羅も」

『うーん、居候させてもらっている私がどうこう言える立場じゃないけど……確かに変わってはいるよな』



セルティがそこまで文字を打ち込んで、ふとある共通点に気付いた俺は突拍子に小さく声を上げた。特に大したことでもないのだが。



「あ」

『? どうした静雄。何かあったのか』

「いや、なんかお前と新羅って、俺とみさきに似ているなって」

『   え』

「ああ、セルティにはまだ話してないもんな。実はさ、俺、今みさきって奴んところに……」



ガタッ



「?」





突然発せられた音の方向に反射的に目を向ける、どうやらセルティがバイクから降りたと同時に発せられた音らしい。そう頭が理解するのとセルティが目の前にPDA画面を突き出してきたのはほぼ同時だったと言ってもいい。そう思った時には既に、俺の視界は文字の打ち込まれた画面によって遮られていたのだから。

思わず顔を後ろへと反らすが、どうやら俺よりもセルティの方が驚いているらしい。心なしかPDAに文字を打ち込む指が震えてる。





『!!?』

「……?」

『そ そそそそそそそそれはつまり銅製という奴なnokkkkkkk』

「(……銅製?同棲て言いたいのか、つまり)」





余程驚いたのだろうか、ヘルメットの上からその表情を確認する事は出来ない。

それでも驚きの声を上げる事のないセルティにはやはり首から上は存在しないのかもしれない。普通に接していて特に不便ではなかったから、今まで気にするような事もなかったけれど。



――なんか、首とヘルメットの僅かな隙間から黒い煙のようなものがモクモクと立ち昇っているような……

――これは一体何なんだ?



『kkkkkkkkkkkkkkkkk』

「……おい、セルティ?」

『kkkkkkkkjjjjjjjjjj』

「……限界文字数越えそうだぞ」



とうとう限界文字数を超え、これ以上文字が打ち込めなくなったところでようやく事に気が付いたらしい。

セルティは入力ボタンに添えたままだった人差し指を慌てて離し、一旦画面内の文字を全消しすると、相変わらずプルプルと震えた指先で次の言葉を入力した。



『おおおおおお前、女がいたのか!?』

「! え、い、いや……女というか……俺の一方的な片想いというか……」

『そうかそうか!だからお前、最近穏やかになってきたんじゃないのか?』

「……へ?」



意外なセルティの反応に思わず声が裏返る。相変わらず相手の表情こそは見えないものの、喜んでくれている事くらいは俺にも十分理解出来た。何たって高校時代からの長い付き合いだ。



『ほら、恋をすると人は変わるって、よく言うだろ?』



――……そういえば、



確かに俺は以前よりもキレる回数が格段に減った気がする。いや、確実に。少し前の俺だったら、毎日何かしらの理由でキレては電柱を引っこ抜いて暴れてた。

今まで制御出来なかったこの力を俺は使っていない。



「恋……つーか……、なんつーか……」

『あはは、顔が赤いぞ。よほど静雄はその子のことが大好きなんだな』

「! ……」

『今度私にも紹介して欲しいな。……ああ、私は首なしライダーだから、私を見たら怖がるだろうか』



オロオロと落ち着かない様子でPDAに文字を打ち込んでは消したりしているセルティを見て、俺は小さく笑いながら言ってやった。



「大丈夫だよ、多分、みさきなら」



化け物(俺)を受け入れてくれた、あいつなら――



「そうだ、セルティ」

『? なんだ?』

「その、なんつーか……女が喜ぶものって、何かあるか?」

『え……ええ?どうした唐突に』
「あ、いや、俺そういうの全然分かんねーし、試しに聞いてみようかなって」

『うーん……心が込もっていれば何でも嬉しいと思うぞ、私は』

「(心……)」

『そうだな……例えば手作り料理とか』

「!(料理!)」

『カニ玉なら教えられるぞ』

「(……俺、家庭科2だった気が)」

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