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「(……行ってきます)」



みさきが目を覚ましてしまわぬようにそっと毛布から抜け出して、小さく胸内で呟いた。お互いの体温で程よく温まった毛布から出てしまうのは名残惜しくも感じたが、自分に課された仕事がある以上仕方がない。

時刻は6時、勿論早朝。11月末の曇り空は朝だというのに未だに暗い。テレビの音量を0にして天気予報のチャンネルを回すと、今日の天気はやはり曇りらしかった。ワイシャツに片腕を通す。ハンガーに掛けてぶら下げていたそれはすっかりと冷えていて、素肌に触れるとひんやりとする。



「(……寒、)」



再度テレビで今日の天気を確認。東京、最高10℃最低7℃。(勘弁してくれ)基本極端に寒いのが苦手な俺は、思わず肩を震わせた。

みさきが風邪を引かないようにもう1枚毛布を掛けてやる。何せ素肌にシャツ1枚しか着ていないし、今朝はより一段と冷え込んでいる。厚めの布団を両手に持ち、しかし同時に必然的に視界に映ったみさきの姿を見て、思わず固まってしまった。つーか、腰とかくびれてるし出てるところ出てるし……実はみさきって結構スタイルいいんじゃ……

「……ん……」

「!!?」

「……」

「……」

「………すー…」

「(び、ビビった……!)」




て何考えてんだよ俺。年下に、しかも現役高校生に欲情しているなんて、一歩間違えれば犯罪ではないか。

男なら誰しもが生唾を飲み込むような今の状況。しかしながらその対象が出会って間もない女な訳で、しかもまだ高校生だというのだから俺の中で罪悪感が絶えない。そもそも女の好みは歳上だった筈だ、俺はいつからロリコンになってしまったのだろう。そんな思いと葛藤しつつ、しかしこの状況で何も出来ないのが何だかもどかしくも感じて、



「……キスくらいならいい、よな」



みさきの頬にそっと口付けた。勿論唇にしたいのは山々だけれど、仮にしてしまったらその先を我慢できる自信が今の俺にはない。多分止まらなくなると思う。

適当に朝食を食べて行こうと思い冷蔵庫を漁ってみたはものの、そこには結局昨夜食わず終いのプリンが2つ置かれているだけ。だけどこれはどうしてもみさきと一緒に食べたくて、何とかプリンの誘惑に打ち勝った俺は冷蔵庫の扉を名残惜しくも閉めた。相変わらず空腹のままではあったが。



♂♀



バーテン姿でアパートを出る、朝の空気が冷たい。銀行に寄って大して残っていない自分の貯金からほんの少しの現金を下ろし、早足で駅へと向かうと早朝にも関わらずそこは人でごった返していた。池袋だろうと新宿だろうと、東京というカテゴリーに位置する場所である限り人口が多いというのはあまり変わらない。

結局俺は適当なコンビニで菓子パンと苺牛乳を購入した。本当はみさきの作った朝食が1番美味しいのだけど今回ばかりはやむを得ない。数十分電車に揺られながら池袋へと足を運んだ。



何故俺が池袋に来たのかという理由は、勿論仕事の為だ。頻度は減ってはいるものの、俺は度々池袋に出ては少しずつ金を稼いではいる。みさきの家に居候させてもらっている手前、やはりタダ食いではみさきに申し訳ない。休み過ぎてはせっかくの職も失ってしまう事になるし、おまけに今日は給料日だというのもあり自然と足取りは軽かった。

給料でみさきに何を買ってやろうだとか、何をしてやろうだとか、頭に浮かぶのはそんなこと。



「(そういえばあいつ、何買ってやったら喜ぶんだろう)」



そもそも女って生き物は何をしたら喜ぶんだ?

くどいようだが俺には女経験なんて全くないし、何か贈り物をするなんてことも尚更。人に相談するのもありだが、ただでさえ気の許せる友人が少ないというのに、そんな数少ない中で女心の分かる奴なんて、誰も。



「……、あ」



刹那――目の前を馴染みのある黒い影が横切る。

不気味な音を池袋中に響き鳴らせ、それはエンジン音というよりも動物の鳴き声のようだった。



「……いたな、1人だけ」

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テーマ「人外ファンタジー」
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