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とりあえず自分の着ていた服を脱いで、みさきに着るよう手渡すとみさきは遠慮がちに頷いた後、大人しくそれを受け取った。高ぶっていた感情はなんとか抑え込んだものの、こんなみさきの姿を見ていたらいつ再発するか分かったもんじゃない。かなりブカブカではあるが、身体を隠すには十分丁度いいサイズだろう。

一応泣き止んではくれたものの、ほんの少し赤く腫れたみさきの瞳を見る度に自分がしてしまったことへの罪悪感が再び沸き起こる。



「……」



今まで我慢し続けてきたことを、とうとうやってしまったと思った。

もしかしたら追い出されるかもしれないという最悪の事態を想定していると、みさきが小さく俺の名前を呼んだ。罵られる覚悟で視線を向けると、みさきが突然俺の胸に抱き着いてきた。



「!? なッ、ちょ……みさき!?」



軽くパニック状態。ついさっきのこともある手前、ただでさえ相手の顔を見るだけで精一杯なのに。引き離すにも引き離せなくて、やり場のない両手を宙に浮かせてほんの少し冷や汗をかく。まじでホントに余裕ないな、俺。中学生や高校生ならまだしも、いい歳した大人がこんなことに動揺してしまうなんて格好悪い。



「ごめんね、シズちゃん」

「……は?」



そして唐突に謝罪をするみさきを目の前に、俺の声は思わず裏返ってしまった。

それは俺の台詞なのに。みさきが謝る事など何1つないのに。



「な、何で」

「怖かった……」

「……俺のせいだよな。ごめん」

「ッ!ちッ、違くて!私が怖かったのはシズちゃんじゃなくて!」

「?」

「あの……その、何て言うか……何だか自分が自分じゃなくなってく、みたいな感じがして……」

「……」

「な、何て言えばいいんだろ……恥ずかしくて言いづらいんだけど……は、初めてだったし……シズちゃんに触られると自分に余裕なくなるって言うか……!」



始めはみさきの言う意味がよく解らなかったけど、相変わらず顔を真っ赤にさせて言葉を必死に紡ぐみさきの姿を見て、俺はああ、そうかと状況を悟った。こいつ――処女、だったのか。

まじかよ。いや、それはかなり嬉しいけど、俺も経験ないんだけど、つーか何素直に喜んでるんだよ、俺!


「えーと……つまり、その」

「……」

「俺に触られて、嫌、じゃなかったとか……?」

「! い、嫌じゃなかったと言うか、何て言うか!」

「……」

「……」

「……」

「……い、嫌じゃ……なかった、かも……」



――……マジ、で?



想定外の反応に思わず身を乗り出すと、みさきが慌てて近くにあった大きな抱き枕に顔を埋める。これはつまり照れ隠しなのだと受け取っても良いのだろうか。

小さくみさきの名前を呼ぶと、返って来た彼女の声はほんの少し上擦っていた。



「なッ、何!?」

「1つだけ……いいか?」



――駄目だ、色々と限界。



「キス、してぇ」



それ以上は絶対に何もしないから、と。みさきの身体を抱き枕ごとやんわりと抱き返すと、みさきはほんの少し照れたように小さくコクリと頷いた。



♂♀



「…、……」

「……ッ」

「……んン、」



何度も何度も角度を変えて触れるか触れないくらいの焦れったいキスを繰り返す。身体の芯が火照るように熱い。でも、気持ちイイ。

次いで長い長いキスを。それでもそれだけでは何だか物足りなくて、俺が舌でみさきの口を無理矢理こじ開けようとすると、みさきは逃げるように一瞬顔を背けた。不満げにみさきの顔を見るが、相変わらず避けるように視線を合わせない。



「ッ!ち、ちょっと待って!」

「……いや、待てねえ」

「ぇ、や、ちょ……ン!」



逃げようとするみさきの顔を引き寄せて口の小さな隙間から強引に舌を入れる。

みさきの舌を自分の舌で絡め取るとくちゃり、と小さく水音がした。そのまま自分の元へ引き寄せ、衝動に任せて口内を犯し続ける。



「ふぁ……」

「……ッ、」

「…、…〜〜!」



苦しそうにみさきが眉をひそめたことにふと気が付いて、名残惜しくもあったが仕方なく唇を離した。どうやら早くも酸欠らしい。

最後まで繋がっていたお互いの舌を、銀色の糸がツー……と引くのを感じて、なんつーか、なんかエロい。



「大丈夫か?」

「ぅ、何かこういうの慣れなくて……」

「俺も」

「っ、へ!?」

「俺もこーいうの、初めてだし……つか、キス自体初めてだったりもする……し……」

「……」

「な、なんだよ」

「嘘だぁ」

「や、まじで」

「……その割には慣れてる気がするよ……」

「?」



事実、この23年間女と付き合った経験が無い。だからこそみさきに疑いの目を向けられたのは、どんな理由にせよ本当に意外な反応だった。多分、ここ最近異性と会話したことすら……自分のお袋くらいだろう。

一瞬セルティの顔(ヘルメット?)が頭の中に過ったが、実際あいつの性別なんて分かったもんじゃない。



「だから、たくさん練習しねぇとな」

「……は、」

「キス」

「ッ!へ、変態!」



ああ、そうか変態かも。

何より好きな女を目の前に歯止めが効かなくなっちまうのは、仕方がないんじゃないだろうか。そう思えるのはきっと、お前がみさきだからなんだろうな。

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