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※微裏



「お前なあ……!だいたい俺じゃなかったら間違いなく襲われてたからな!」



前言撤回、嘘でした。

衝動、所謂リミッターとやらがふいにパキリと切れた時。仮にそれが怒りという単純な感情ならば、その辺にある電柱だとか道路標識を引っこ抜いて心ゆくまで暴れてしまえるのに。それが出来ないもどかしさと発散出来ずに溜まる欲。自分がこんなにも欲深くて、まるで普通の人間みたいな。



「あんたは……本当の俺を受け入れてくれるのか?」

「ぇ……、……へッ!?」

「やっぱ我慢できねーわ」



みさきが何か言おうとしていたのは分かっていた。きっと突然の事態に驚いているに違いない。だけど今の俺はみさきの言葉にさえ聞く耳を持てず、身体が妙にウズウズして仕方がない。

とりあえず俺は衝動のままに動いてしまう事にした。



♂♀



「ひゃ……ぁ!」



びくりと反応するみさきの身体。指や手の平1つ1つの動きに忠実に反応してくれるみさきの身体が何だか愛しくて愛しくて、もう一度首筋に舌を這わせてやるとみさきが小さく身を捩らせた。どうやらみさきは首筋も弱いらしいのだ。執拗に弱い部分を責め続ける。



「あッ、や、ヤだ……!」



嫌々と首を振りながら懸命に俺の身体を押し返すその腕に、もはや反抗出来るほどの力は残されていない。

みさきのか細い両腕を片手で優しく拘束し、もう片方の手でまだ乾ききっていないみさきの髪の毛を撫でてやると、いつものシャンプーの香りが鼻を掠めた。その香りはいつも俺に安心感を与えてくれる。すん、と音を立ててその心地よい香りを鼻に含む。臨也の野郎の匂いはただ不愉快なだけだが、みさきの匂いは好きだ。しばらくその匂いを堪能した後、俺は衝動的に真っ白な喉筋に噛み付いた。



「痛ッ」



ぞくり、痛みに歪むその顔さえも愛しくて愛しくて。



「し、シズちゃ……」



震える声で小さく名前を呼ばれれば、それだけで欲情してしまう自分がいる。ほのかに赤色に染まった頬と涙ぐんだ大きな瞳が何だかすげぇ色っぽくて、いつもと違うみさきの姿は俺を異常に興奮させた。こんなみさき、初めて見た。そして思うのだ、この表情をずっと独り占めしていたいと。

ああもうヤバい、可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。



「やめッ、シズ……ん!」



拒絶の言葉なんて聞きたくなくて、衝動的にみさきの唇を俺のそれでふさいでやると、みさきが驚いたように両目を大きく見開いた。

そっと唇を離し、名残惜しげにもう一度だけみさきの唇をペロリと舐める。途端にカァッと顔を更に赤く染めるみさき。必死に表情を隠そうとする、どうせその行動も俺の性欲を煽ることしか出来ないというのに。



「すげぇ顔真っ赤」

「! だ、だってシズちゃんがいきなり……き……す、するから……ひゃあ!」



そのまま恥じらうみさきの耳に舌をねじ込み、一思いに中を舐め回す。ぴちゃぴちゃと何だかヤらしい水音が狭い部屋に響き渡り、ただひたすら自分の感情に身を任せてみさきの耳を愛撫し続けた。にゅるりと舌を奥まで捩じ込ませたかと思えば、前歯で耳たぶを甘噛みする。無論テクニックなんてものは持ち合わせていない、ただ見え隠れしていた欲望が俺の身体を支配する。もう以前までの関係には戻れない、後戻りは出来ない。どうせ結果が決まりきっているのなら、俺はこのまま突っ走るしかない。



「ンあ……!」

「……はは。やっぱり耳、弱ぇんな」

「や、やだやだ!耳元で喋んなぃ……で……ッ!」



逃げるように首をすくめるものの両腕を拘束されている上に身動きが取れず、どうしようも無くただただ身を悶えさせる。唾液で濡れた耳にふぅ、と息を吹き掛けてやると、やはりみさきの今の身体は普段よりも敏感に感じるらしく、一際大きく身体をビクつかせた。

思わず上唇をぺろりと舐める。まるで念願の獲物をすぐ鼻と目の先にして、これからじっくり在り付こうとしている獣のよう。すぐには在り付かない、焦らすところまで焦らし続ける。そして獲物の抵抗する意欲が完全に失せるまで、相手の身体と精神を追い詰める。



――最高にいいな、それ。

――何か、すげぇ身体がゾクゾクする。



「!!」



みさきの身体を纏う唯一のタオルはもう既に乱れていて、そのタオル地の上からみさきの腹部を優しく擦り回す。へその辺りを指で丸を描くように擦り、そのまま上の方へと撫で上げる。

そして胸の膨らみ付近まで手をやると、みさきの足が最後の抵抗だと言わんばかりに、微かではあるが小さく揺れた。みさきが完全に弱りきるまでもうそろそろ頃合いか。先のことに思いを馳せ、期待に胸が踊る。



「やだッ、シズちゃん、もう無理!も……止め……」

「……」

「な、んで……だって、こんな……!」

「……」



みさきの言いたい事は分かっていた。だからこそ止めることができなかった。こんな下心丸出しな行動いきなりされて――そう、これがきっと本当の俺の姿なんだ。自分の力の制御も出来ずに、いつだって俺はそうだった。すぐに身体が動いちまって、気付いたら俺はたくさんの人を傷付けて。

――……でも、



「……ぐす、」

「ッ!!」

「ひっく……シズちゃ……ッ」



違う、俺はこんなことをしたかった訳じゃない。泣かせるつもりなんて毛頭なかった、ただみさきの身体に少しでも長く、間近で触れていたかっただけなのだ。

本当はいつも常々感じていた。自分に対する憤りの心と、自分がしたことへの後悔。その過ちを俺は再び犯そうとしているのか、しかも、誰よりも大事な女に。



「……ッ!!」



気付いたら優しく拘束していたはずのみさきの両手首には、痛々しいくらいに真っ赤な俺の指跡がくっきりと痣となって残っていた。

何してたんだ、何してたんだ俺。大切な人を泣かせるような真似をして、俺は1人楽しんで。……最低だ。



「ごめん」

「ふ、……ひっく……ッ」



小刻みに震えるみさきの身体を抱き締めて、ひたすら何度も何度も謝った。

こんなことで許されるはずなんて無いのに、そんなこと初めから分かりきってはいたけれど、それでも何もせずにはいられなかった。



「もうやらないから」

「……ッ」

「だから、もう、泣くな」



みさきを泣かせてしまうなんて、みさきを傷付けてしまうなんて、それでも涙を流すみさきをこんなにも愛しく想えてしまうなんて。

許されたいとまでは願わない。俺は簡単に許されることのない最低な行為をみさきに求めてしまったのだから。ただ1つだけ……1つだけ許されるのなら、俺はみさきだけに愛されたい。



「(……みさき、)」



例え俺がどんなに残酷にその身体を奪っても、どんなに残酷に想っても、みさきは変わらぬ笑顔を俺に向けてくれるのだろうか。きっと俺は酷いことをしてしまいたいと平気で思ってしまうくらいに、みさきのことを好きになってしまったようだ。それはガキの頃の初恋相手への純粋な憧れとは程遠い、相手を服従させたいと願う、どす黒い感情。

例えそうなることがこの先ないのだとしても、それでも俺はみさきのことが――

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