一位の学校の途中経過小ネタ

洛山高校バスケ部部室に不気味な笑い声が響き渡り、そこにいた実渕と葉山は短く声をあげ、根武谷は買ってきていた牛丼で両頬を膨らませながら首を傾げた。
三人の視線の先には我らが主将・赤司。先程から部室の隅で誰かと電話しているようだったが、通話を切った直後にあの不気味な笑い声である。

WCで治まった筈の中二病が再発したんじゃねーだろうな…。

受験も終わり、暇つぶしという名の強制連行を食らったオレ・黛千尋はバッシュの紐を結びながら、己のタイミングの悪さに舌を打つ。早々に帰りたくなった。


「征ちゃん…?」

「僕に敗北は似合わない。やはり、全てに勝つ僕は全て正しいんだ」


恐る恐る実渕が呼べば、赤司はぼそりとそんなことを呟いて、僅かに口角をあげる。
「征ちゃんったらイケメソ、トゥンク」している実渕に変わり、今度は葉山がすかさず口を開く。おいおい話広げんなよ。


「ねぇねぇ赤司、なんかあったの?」


赤司は待ってました!と言わんばかりに勢いよくオレ達がいる方を振り向いた。ドライアイを危惧するほど色違いの両の目をかっぴらき、こちらを見つめてくる様は恐怖以外の何物でもない。

というか、通話前と人格変わってんじゃねーか!

後が怖いから心の片隅でツッコむオレ。着替えを済ませたばかりだが、本気で帰宅を考え始める。面倒だから考えるだけだが。


「月バスで高校バスケ界の一番かっこいいユニフォームを決めるアンケートをしているらしいんだが、現在洛山が一位らしい」

「征ちゃんそれほんと?」

「ああ、途中経過だからまだどうなるか分からないが」

「でも一位でしょ?!すげーじゃん!!」

「一位っつーことは誠凛にも勝ってんだよな?」


根武谷の一言で赤司、実渕、葉山が顔を見合わせ、にんまりと笑みを浮かべる。赤司だけはすぐにいつもの真顔に戻っ……おいそこの黒歴史製造機、顔を引きつってて真顔に戻りきれてねーからな。
これ見よがしに嬉しげなオーラを放ち始める手の掛かりすぎる後輩共に隠れ、オレは静かにため息を吐いた。

考えてもみろ、まだ途中経過だぞ。いつぞやの決勝のようにいつの間にか追い付かれて一位かっさらわれちまうかもしれないんだぞ。そう簡単に喜んでられっかよ。

まあでも、かっこいいって言われんのは悪い気しねー…よ、な。

ユニフォームが!ユニフォームがだけど!べっ、別にユニフォーム着てるオレ含めてかっこいいって言われてるみたいで嬉しいとか思ってないんだからね!オレがかっこいいとか当たり前のことだしー!ふふん!

表情筋に仕事をさせることなく、内心ではツンデレしているオレすげー。なんて思いながら、ひたすらバッシュの紐を結んでは解き結んでは解きを繰り返していると不意に肩をポンと触れられる。
振り向けば、菩薩顔した赤司とニヤニヤしている実渕と葉山と根武谷の姿。オレは眉を盛大にしかめさせ、口を開いた。


「んだよ」

「大丈夫だ千尋」

「そうよ我慢しないで」

「オレ達と黛サンの仲っしょ?」

「だからよ、一緒に喜ぼうぜ」


オレが何か言う前に赤司ごとテンション高く抱き付いてくる葉山と根武谷。反対側からは実渕が抱き付いてきて、どさくさ紛れに尻を揉まれた。
お婿に行けなかったらどうしてくれる。
むぎゅむぎゅ、されるがまま抱き締められているとオレと一番密着している赤司が耳元で小さく囁いた。


「千尋、嬉しいな」


オレはなんとか腕を動かして、年相応の笑みを浮かべる赤司の真っ赤な頭をくしゃりと撫でた。


「ちゃんと一位取ってから喜べよ馬鹿」


つうか、うちのユニフォームが一番かっこいいのは当たり前のことだろうが。






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