創生の残メンカルテット

 キセキの世代をまとめ、現在洛山高校の主将を務める赤司征十郎からのささやかな無茶ぶりがそもそもの始まりだった。

 人が人を呼び、結局キセキの世代獲得校と誠凛高校で開催したストバス大会。人数も十分にいることから3on3から5on5へとチーム形式が変更になった。その時、くじ引きのお茶目なイタズラからチームを組むことになったのが赤司、誠凛の伊月俊、海常高校の森山由孝、秀徳高校の宮地清志、そして赤司とチームメイトだった黛千尋である。
 作戦を立てたりだとか情報交換だったりだとか、大会中は必然的にチーム単位で行動することが多くなり、それに比例して一緒にいる時間も長くなる。となれば、余程仲が悪くない限りは当然何気ない世間話も増える訳で。伊月、森山、宮地、黛の内容はしょうもないがテンポのいい会話を聞いていた赤司が不意にこう言ったのだ。

「黛さん達の会話、面白いですね。出きることならもっと聞いてみたいです」

 その言葉に伊月はきょとんとした面持ちで双眸を瞬かせ、宮地は変わったヤツだなと息を吐き、黛は胡散臭さげに眉をしかめ、森山は「おー、いいぞ。いくらでも聞かせてやる」とドヤ顔で胸を張り。そんな四人共々、別々の反応をとる先輩達の姿に赤司は楽しげに口角を上げた。

「ぜひ、お願いします」

 色好い言葉を添えて。



 あの時は社交辞令とか言葉遊びの一貫だと思っていたから。だからまさか、数日後に誠凛に程近い喫茶店で先日のストバス大会と同じチームだったメンバーと再び顔を合わせることになり、赤司以外の四人は驚きを隠せずにいた。数分後には呼び出した人物が人物だけに深く考えることを止めてしまったが。だって赤司だもの。
 そう言う訳で喫茶店奥のボックス席に赤司と黛、その向かいには森山、伊月、宮地の席順で座り、各々飲み物を注文する。それが届くまでの間、ものすごく気まずい雰囲気を味わうこととなった。後にこの状況を「ダジャレさえそう簡単に言わせて貰える雰囲気じゃなかった」と伊月は語る。

「…で?」

 ぽつり。あの重たい沈黙を破ったのは意外なことに黛だった。怪訝な表情を浮かべた黛を一別した赤司は優雅な動作でホットコーヒーを口にして喉を潤したあと、微笑を湛えてゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「皆さんにお願いがあって、集まって貰いました」
「赤司がお願い?」

 珍しいこともあるものだ。森山、伊月、宮地は小首を傾げつつ、もの珍しげに赤司を見つめる。嫌な予感がした黛だけは心底嫌そうに眉を寄せていた。

「はい、皆さんにウェブラジオをやって欲しいんです」

 ほらな!ほらな!なんかとんでもないこと言うと思った!
 見事に嫌な予感が的中してしまった黛は内心で赤司を指差す。もちろん表面上の表情は嫌そうに眉を寄せたままで。森山達はといえば、何を言われたのかいまいち理解出来ないというようなポカーンとした表情で赤司を凝視していた。

「ウェブラジオ?」
「はい」
「素人に何やらせようとしてんだよ」
「スタッフはプロを呼びますから問題ありません」
「いや、そういう問題じゃないよな?」

 口々に言葉を漏らす伊月、宮地、森山を先程と変わらない微笑を携えたまま見回す赤司。最後の足掻きと影を最大限に薄くして逃げようとした黛を脇腹に一発手刀を入れてそれを制し、赤司は再び口を開いた。

「ウェブでの創作活動に素人もプロもありませんよ」

 そんなことを言ってはいけません。

「(僕が)面白ければいい。それだけです」

 あ、なんか聞こえたけど、これは追求しちゃいけない奴だ。
 これには四人共々「俺達は何も聞いてません」という体で赤司からついっと視線を逸らしに掛かる。どんなに赤司が見てきても目を合わせないように視線を逸らし続ける。そんな無言のやり取りが五分程続き、変な汗を掻き始めた頃、赤司はふっと息を吐き出した。

「分かりました、ではこうしましょう」

 そう簡単に諦める訳がなかった。だって赤司だもの(二回目)。

「宮地さん」
「な、なんだよ」

 突然赤司から名前を呼ばれ、宮地は口ごもりながら反射的に返事をする。そろりと視線を赤司に向ければ、意味深な笑みを浮かべていて。その表情を直視した宮地は内心でオワタと笑顔で両手を上げた。

「あなたはアイドルのみゆみゆさんのファンらしいですね」
「おう。みゆみゆは地上に舞い降りた天使だ」
「みゆみゆさんのグッズ、CD、ライブチケット購入等。金銭的な問題が生じているのではないですか?」
「そうなんだよ!オレの毎月の小遣いだけじゃぜんっぜん足りねーんだ……」

 宮地のその言葉に、赤司の色違いの瞳がうっそりと眇められる。それを見ていた黛、森山、伊月の三人は背筋に寒気のようなものを感じて、ぶるりと身震いをしてしまう。ヤバい、これはヤバい。

「ラジオをして頂けるなら、ライブチケット購入のお手伝いをさせて頂きますよ」
「マジか」
「なんでしたら、CD購入のお手伝いもしますが?」
「マジか!よっしゃ、オレの軽快なトークが火を吹くぜっ!」

 一人目、確保。
 にんまりとした笑みのまま、赤司が次に視線を向けたのは森山だった。視線を向けられた森山はギクッと肩を揺らして、居心地悪げに身を捩る。ちらりと宮地の方を見れば、即決即断したことに悔いながら頭を抱える姿が目に入った。
 アイツのようにはなりたくない。
 森山は切迫感溢れる試合中のような面持ちで赤司からの言葉を待った。

「森山さん」
「なんだ?」
「黄瀬から聞きました。女性が大層お好きなようですね」
「…それが?」
「スタッフは女性にしようと思っているのですが、どうですか?」
「オレの美声に酔いしれて貰おうじゃないか!」

 二人目、確保。
 よろしく頼むと赤司と固い握手を交わす森山を横目に、伊月は良サイドの先輩のようにほいほい釣られる訳にはいかないと身を引き締める。バスケのポジション柄、赤司とはマッチアップすることもあるのだ。
 試合中同様、この心理戦も負ける訳にはいかない。
 伊月は一度大きく深呼吸すると大鷲のような鋭い眼光で目の前の天帝を見据えた。

「伊月さんはダジャレがお好きなのだと黒子から聞き」
「ダジャレに興味があるのか?!!」

 ガタッと食い気味に立ち上がった伊月にあの赤司も若干顔を引きつらせる。そんなキラキラした綺麗な瞳で見つめないで下さい。自分の汚れが浮き彫りになるようで居たたまれないのです。というかさっきまで鋭い眼光はどこに行ったんだ。

「え、ええ、まあ…」
「そうか!いいぞ、ダジャレは!あ、今度赤司の為に編集したダジャレ100連発を聞かせてやろうか?!面白いぞー」
「…よろしく、お願いします」
「はっ!まさかラジオ出演の話を持ち掛けたのも、オレにダジャレを言う機会を作ってくれたからなのか?」
「そう…ですね」
「!!赤司お前……いいヤツだな」

 なぜだろう、伊月の周りに満開のお花畑が見える。咲き乱れる綺麗なお花をバックに満面の笑顔で感謝の言葉を紡ぐ伊月。そんな純粋にダジャレを愛する伊月を目の当たりにした赤司は顔を覆い、俯いた。
 三人目、確保。
 黛、森山、宮地の三人は「元気出せよ」、「分かる分かる、そうなるよな」とでも言いたげな優しい表情で最年少の赤毛の少年を見守る。それほど、伊月の満面の笑顔には威力があった。ここ、テスト出ます。

「千尋はラノベの新刊で問題ないな?」
「お前勝手に決め付けてんじゃねーよ初版でよろしく頼む」

 数分後、やっと顔から手を離した赤司の言葉に黛は文句を言いながらも即決即断する。最速だったのはやはりチームメイトの好からだろう。決して、目がくらんだとかそういうことじゃない。決して。

 全員確保、という訳で。こうして、残メンカルテットは結成されたのだった。



 そして、本編ラジオ・残メンカルテットへ続く………、






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