アイシアイ

 真っ白なシーツの海に一つ年下の恋人である伊月俊を押し倒してみたんだ。どういう反応を取るのか気になったのと、ちょっとした悪戯心で。
 オレが覆い被さるように馬乗りになって見下ろせば、突然押し倒されたことに驚いたのか伊月は目をぱちくりとさせていた。可愛い。さすがは三次元のオレの嫁。あまりの可愛さにちゅっと触れるだけのキスをして、ぎゅうぎゅう抱き締めてやった。

「今日はやけに積極的ですね。どうしたんですか?」
「別に。何もねぇけど」

 耳裏に鼻先を埋めるようにして擦りよれば、伊月はくすぐったそうに身を捩る。手持ち無沙汰だった腕がオレの背中へと周り、服を握り締めてくる様が最中の仕草に似ていて。うっかりとその場面を想像してしまい、下腹部辺りがずくりと重くなり、熱を帯び始めた。日頃からいろいろな本に触れて妄想力を鍛えているおかげだが、今発揮しなくてもいいんじゃないかと思う。
 オレは上がり始めた息を落ち着ける為に一度吐き出し、伊月の香りごと大きく吸い込んだ。それだけでも体を揺らしてしがみつく伊月くそかわ。

「…ダメか?」

 思わず耳元で囁いて、縁をなぞるように舐めたオレは悪くない筈だ。伊月はオレの服を掴んで快感をやり過ごしたあと、挑発的な笑みを浮かべる。墨色の双眸をちょっとだけ潤ませているところに気づいてしまって、下腹部がまた一段と重くなった。

「っ……、いいですよ」

 伊月は下に手を伸ばし、オレの膨らむそこをしなやかな指でゆっくりと撫でてくる。それだけで元気いっぱいになるオレの股間はなんて正直者なんだろうか。

「嫌って言っても止めねぇから」

 ゆるゆると刺激する手を捕まえて絡ませあい、吐き出した言葉と共に伊月の薄く開いた唇をそっと塞いだ。
 ちゅっ、ちゅっとリップノイズを響かせながら、触れるだけのキスを繰り返す。お互いにそれだけでは物足りなくなっていたのか、ほぼ同時に舌先を突き合わせ、今度は深く唇を合わせた。

「……っは」
「ん…、」

 気持ち良い。伊月の温かい口内で舌先が絡み合い、舐め合ってるだけなのにこんなに気持ち良いなんて。改めて伊月の熱の心地良さが偉大なのだと痛感させられる。いつもせわしなく動いている筈の思考もチーズようにとっろとろにとろけ、亀の歩く速度よりも鈍くなっているのだから。
 しかし、まるで使い物になりそうにない思考の中でたった一つだけ、はっきりとしている事がある。

 伊月俊が欲しい。

 そのたった一つの思いがオレ自身を突き動かしているのだ。

「んぅ……!」

 夢中になり過ぎたらしい。絡み合っていた手を強く握られ、それにハッとしたオレはやっと伊月の口内を解放する。
 重力に従い、顎を伝い落ちる唾液を舐めとり、そのまま首筋に濡れた線を描く。喉仏を甘噛みすれば、ゆっくりと持ち上げられた目蓋から覗くとろけた墨色の双眸に咎めるような視線を向けられた。

「何?」
「…痛いんですけど」
「その割にエロい顔してんじゃん」
「してませ…ぅあ、」

 ほらオレ、嘘付いてない。
 ニヤリとした笑みを浮かべ、ワイシャツの上から片方の乳輪ごと乳首を口に含めば弱々しい声が頭上から上がる。乳輪を刺激するように唇を動かし、ワイシャツの上からでも分かるぐらいに尖った乳首を舌先でぐりぐりと舐めしゃぶる。

「ぁ、あッ……ふぅ!」

 絡めた手を解き、もう片方の乳首もこねくり回してみれば感じ入った声がオレの耳を楽しませてくれる。視線だけ頭上に向けると下げた眉を寄せ、ギュッと目を瞑り、頬をピンク色に染め上げ、声を出さないように手で口元を隠す伊月の姿があった。声を聞かせて欲しい反面、このいじらしい姿の伊月もオレの性欲を駆り立てる。
 簡単に言えば、萌えた。
 オレは性急に伊月のスラックスに手を伸ばし、ベルトと取って、チャックを緩め、パンツごとスラックスを脱がして床に放り投げる。ぶるりと飛び出したのは先走りを流す伊月の勃起した中心。オレには珍しく表情筋を自然に使って笑みを作れば、それを下から上へと撫で上げるように指を這わせた。

「んんっ?!……ぅ、ん!」

 最初は先走りを塗り込むみたいに優しく擦り上げ、次に滑りを利用して手を早めていく。先っぽを親指の腹で撫でてやれば、伊月は快感を逃がすように頭を横向きに変えてシーツに額をこすりつけた。
 乳首から唇を離し、露わになった色付く耳元まで伸び上がってわざとらしく熱い吐息を吹きかける。ついでにリップノイズを立ててキスを落として、耳元に唇を押し当てたまま囁き掛けた。

「気持ち良いか?」

 ビクッと肩を跳ねさせた伊月はうっすら水の膜の張った墨色の双眸をゆるりと動かし、オレの姿を捉える。口元を覆っていた手をゆっくりと離すと、荒くなった熱い息を上擦る声音と共に吐き出した。

「ん…黛さんの、気持ちいい」
「―――〜〜〜っ!!」

 オレは今日、イれる前に愚息を爆発させるかもしれない。
 さっきの伊月はそう危惧してしまうほどの威力が充分に備わっていた。現にオレの愚息はさっきからスラックスをぐいぐい押し上げ、窮屈そうにもがいている。
 もうさっさとイれてぐちゃぐちゃのどろどろにしてしまおうか。いや待て落ち着け黛千尋。がっついても伊月の体への負担が大きくなるだけだ。
 ここは慎重に、慎重に…。

「とりあえず、お前一回イっとけ」
「えっ、ぅあ!ぁ、や、だッ…ぁあ!」

 上下に擦り上げる手のリズムを早めてやれば、シーツを握り締め与えられる快感に身を捩る。伊月がイく、イくと譫言のように甘えた声で啼くものだから、親指の腹でぬるついた先っぽを撫で回してやると一際甘く濡れた声を上げてオレの手の中に呆気なく吐精した。
 伊月が荒い息を整えている間に足を開かせ、ひくりと蠢く尻孔に白濁とした液を絡ませた人差し指で遠慮なく差し入れる。

「ぁ、だめ、…っ!」

 与えられる快感に体が追い付けないのか、伊月は仕切りに頭を左右に振った。こちらとしてはそのまま快感に身を委ねて頂きたいんだけどな。エロいし、可愛いし。
 そうこうしているうちに人差し指は全て埋まり、白濁とした液を塗りたくるように指を動かし始める。だがしかし、それだけでは明らかに滑りが足りない。
 思案しながら指を動かし続けていると、サイドボードとして使っているカラーボックスにひっそりと佇む使い掛けのローションの姿が目に入った。これだ。
 オレは一旦伊月から指を引き抜き、カラーボックスからローションを取り出す。息つく伊月を眺めながら、人差し指と中指にいつもより控え目にローションを絡ませ、充分に温まってからもう一度伊月の中に人差し指を潜り込ませた。

「ひぅ!……んぁ、あ、あっ」

 前立腺を故意的に避け、ローションを継ぎ足しながら徐々に慣らしていく。頃合いを見計らって指を二本に増やし、抜き差しする動きも加えてみた。わざとらしく粘着質な水音を響かせるのも忘れない。

「ああ?!やっ、だめ、そこ…っ!」

 そろそろ三本目にでも入れるかと思った時。ある一点を掠めた瞬間、伊月はびくりと体を震わせ濡れた声を上げたのだ。
 前立腺、触った…みたい、だな。
 これはこれで問題ない事にして指を三本にし、ローションが空になるまで前立腺や中を執拗に攻め抜いた。指を引き抜く頃には伊月の中心は頭を持ち上げ、先走りをだらりと零して真っ白なワイシャツを汚している。オレの愚息も早く解放しろと痛感にまで訴えかけてきているようだった。
 すぐさまベルトのバックルを外してチャックを下ろし、大きなシミの付いたパンツから取り出してやれば、ぐちょぐちょに濡れそぼった完起ちの愚息が顔を出す。

「黛さん」

 さて、と顔を上げる前に呼ばれ、そちらを向くと起き上がり、とろんとした双眸でオレを見つめる伊月。
 伊月はオレと目が合うとふにゃりと可愛らしい笑みを浮かべ、四つん這いになって目の前まで近づいて来た。

「いづ…、んむっ」

 オレの首に両腕を巻き付けた伊月はそのまま薄く開いた唇同士を重ね合わせる。早々に絡ませ合う舌の感触を楽しみながら、押し倒すかのごとく体重を掛けてくる相手の腰に手を回して支えてやった。

「ン……ん?」

 押し倒すって、無遠慮に目蓋を上げた瞬間には背中はシーツとあっついキスをしていた。唇をすぐに解放した伊月は満面の笑みを浮かべ、呆けるオレの頬を撫でる。

「黛さんは、動かないで下さいね」
「お前まさか、」
「あとはオレがやりますから」

 そう言って伊月は上体を起こし、オレの腹に手を付くと後ろ手に愚息を掴んで自ら尻孔にあてがった。そして、一つ細い息を吐き出したあと、意を決したような面持ちで腰を落とし愚息を胎内に向かい入れる。
 こいつ騎乗位のやり方どこで覚えてきやがったんだ…。
 というか、イきそうなんだが。ずっと我慢してきたのもあるが、何より今の状況がオレの射精欲を促している気がする。
 ちょっと目線を上に向ければ、頬を上気させて苦悶の表情を浮かべる美人な顔。しかも口が半開きなところがなんかエロい。
 そのまま下へと目線を動かしていけば、今度は普段お目にかかれないような痴態がオレの目を楽しませてくれる。しかし、なかなか入らないのか先っぽだけが出入りを繰り返している。そんなところを見せ付けられれば、だんだんとじれったくなってくるのだ。
 これでイくなって言う方がおかしい。

「伊月、」
「あ、まだ…!」
「イきそう、てかイく」
「えッ?!」

 我慢出来なくなったオレは戸惑う伊月の腰を掴むと、重力の力も借りて少しずつ胎内に愚息を埋め込んでいく。

「だから中で、一回出す、からっ」
「な、ひっ、ぁ、あッ!!」
「くっ…!」

 カリ先が入ったのを見届けてから一つ荒くなる吐息を吐き出したあと、伊月の腰を一気に落とした。伊月は与えられた大き過ぎる快感の波に目を見開いて、背を弓形にする。オレは看破入れずに腰を数度揺すり、宣言通り温かい中で吐精した。
 ベッドに沈み込んだオレの上に糸が切れた人形のように脱力した伊月が倒れ込んでくる。しっかりと抱き止め、サラサラの髪を撫でてやると耳元に熱い吐息が吹きかけられた。

「…好き」

 囁かれた言葉に動きがピタリと止まる。

「あッ!?…んで、おっきく…、」
「なんでって、そりゃあ……オレもお前の事が好きだからに決まってんだろ」

 そう言えば、遠ざかる呼気とシーツが擦れる音。今の体位を考えるとこれしきのことで照れてどうするとか思うが、恥じらう姿は非常にツボなので良しとする。
 そんなことよりもオレは騎乗位の醍醐味を味わってみたい。だから、催促するように数度下から揺さぶってみたのだが、恨めしそうな双眸で睨まれただけだった。

「なんだよ」
「別に」
「なら動けよ。あとはお前がやるんだろ」
「………はい」

 背中をぽんぽんと叩いてやれば、観念したのかしぶしぶ上体を起こす伊月。オレの腹部に手をつく際、若干圧迫してきて内臓が飛び出るかと思った。しかし、顔を真っ赤にして苦悶の表情を浮かべられては文句の一つも言えなくなるというものだ。
 まだかまだかと待つこと約一分。伊月は少しばかり躊躇しながらようやく動き出してくれた。上半身を上げて、下ろす時に体をバウンドさせるようにしながらまた上げて。繰り返していくうちに伊月の動きに躊躇いがなくなり、オレの愚息も完全復活していた。

「ん、ぁ、あ、あっ…」
「…っは、」

 前に後ろに、上に下にと腰をくねらせて快感を追う様はエロいの一言に尽きる。しかも、いつもとは違う体位なのもあって、お互いに感度を上げている気がした。
 それだけじゃない。部屋の中を満たす熱くて荒い二人分の息使いと忙しなく響く粘着質な水音とベッドのスプリング音、快楽に歪む顔、下半身から伝わる熱、どれもこれもがオレと伊月の感覚を犯している。
 ああ、気持ち良過ぎておかしくなりそうだ。

「あ、もっ、らめ、イく…!」
「…オレも」

 言って、タイミングを合わせて腰を打ち付ける。手は一切出さないつもりでいたのだが、伊月が動くだけではあと一歩決定打が足りない。オレはついついといった感じで動いてしまったという訳だ。

「いっ、ぁ、あ、ああぁ……っ!」
「ん、くはっ…」

 そして、ちょうど伊月が腰を下ろすのとオレが腰を打ち付けるのとかち合った時である。オレは伊月の中に、伊月はオレの腹にぶちまけるようにして白濁した液を吐き出したのだった。
 二人して脱力し、荒い息を整えているとゆっくりと目蓋を持ち上げた伊月がオレの腹部を見た途端、顔を青くしてオロオロとし始める。不思議に思い、腹部を見ればそこにはべっとりと纏わりつく白濁。
 なるほど、原因はこれか。
 オレは伊月を下半身に乗せたまま起き上がって、着ていた白濁濡れの長袖のTシャツを脱ぎ、床に放り投げた。

「これで問題ねぇだろ」
「あります!そのままにしてたら染みになりますよ!」
「そうか。勿体ないが諦めるしかないな」
「は、うわっ?!」

 抗議の声が上がる前に伊月を押し倒した。所謂、正常位という奴だ。

「えっ、嫌だ、無理です!」
「あれ?オレ最初に言わなかったか?」
「何を………」

 無理だ無理だと首を横に振る伊月に気にすることなく、着ていたワイシャツのボタンを下から順番に外していく。露わになった肌を舐めるように眺め、組み敷いた目の前の相手に向かってゆっくりと口角を上げた。

「嫌って言っても止めねぇから」

 そう言って唇を塞げば、再び始まるアイシアイ。






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