一位記念の短編

 ユニフォームとは。
 制服。特にスポーツで、所属チームを明示した揃いの運動着。ユニホームとも。

 中学・高校生、場合によっては小学生から。或いは幼稚園からかも知れない。とにかくその期間の間に部活やクラブでスポーツをやっていれば一度は考えてしまうのではないだろうか。
 所属する学校のユニフォームのかっこよさを。
 学校の規模が大きければ大きいほど、部員の数が多ければ多いほど、ほんの一握りの選ばれた人間しか着ることが出来ない憧れのそれ。更にそれを着て、試合に出れる人数は極僅かで。まるで物語終盤に一着だけ手に入る最強装備のような貴重さと高い防御力がユニフォームには備わっていた。
 その貴重で防御力の高い最強装備のデザインに着目するきっかけになるのは、いろいろな学校が集まる大会や他校との練習試合。かっこよければ何の問題もないし、むしろほめちぎっることだって出来る。しかしかっこ悪い場合、伝統や運動部特有の上下関係やなんやかんやで「うちのユニフォーム、くっそダサいっすね」なんて軽々しく口に出すことなど出来はしない。
 そんな中での大会だ。偶然視界に入った他校のユニフォームと自校のユニフォームをつい比較して、自分勝手に優劣を決めてしまう。

 これは自分達のユニフォームが一番かっこいいと思っている、彼らの話である。



 洛山高校男子バスケットボール部に月バス編集部からその吉報が届いたのは四月、新学期が始まってすぐの頃だった。
 月バス主催のアンケート、一番かっこいいユニフォーム(ジャージ含む)選手権。キセキの世代が高校生になったのをきっかけに盛り上がりを見せ始める高校バスケ界。その中で一番かっこいいユニフォームはどこなのか決めようじゃないか!と始まった編集部の息抜き企画のようなもの。
 そのアンケートで洛山男子バスケ部のユニフォームが一位の栄冠を勝ち取る。途中経過から終了まで順位を一度も落とすことなく、一位の座を守りきったらしい。
 勝ち組主将・赤司の加護でもあったのだろうか。赤司だもんそのぐらい出来そう…、とは部員の大多数の意見である。

 赤司の加護の話は関係ないから置いておくとして。

 一番かっこいいユニフォームである。
 京都府の、関西の、西日本の、全国の中で一番かっこいいユニフォーム。
 白と水色を基調とし、シンプルなのに自然と目を引き、尚且つ爽やかさと清潔さを兼ね備えたデザインになっている。選手達がこれを着て、コート上を颯爽と駆け回る姿のなんと素敵なことか。
 たなびくユニフォームから見え隠れするうんたらかんたらなんちゃらほい。

「ユニフォームの爽やかさだけじゃ払拭出来ないだろ、あいつらのダークな部分」

 長々と書かれている文面を見ながら、うんざりした様子で携帯を放り投げるのは大学生になったばかりの黛だ。久しぶりに表情筋が仕事をしたのはいいけれど、これはない。もっと別の、例えばけのととアニメ化とか、そういった話題で表情筋に仕事をさせたかった。
 黛は一人用のテーブルに突っ伏して、深いため息を吐く。そして、嫌々ながらももう一度携帯の画面に映し出されたメールに目を落とした。
 実渕から一方的に送られてきたそのメール、一番かっこいいユニフォームのアンケートで一位を取った話が半分以上を占め、おまけ程度に今月の×日にある練習試合を見に来ないかというお誘いが書かれている。本編とおまけが逆なのではないか。そう思ったが、口に出してツッコむことも返信してツッコむこともせず、そっと携帯の電源を切った。
 途中経過の時点でものすごくめんどくさかったのに、アンケートで一位取ったとか最早関わりたくないレベルだ。
 いやこの順位は普通に嬉しい。嬉しいがこんなあからさまに喜ぶとかはない。決してない。キャラじゃない。
 しばらくダラダラとしていた黛だったが、今春アニメ化したばかりのとあるラノベの実況スレのまとめサイトを覗いていないことに気がついて携帯に手を伸ばした。電源を入れ、ブクマ欄からそのサイトを探している時である。黛の携帯に一通のメールを受信したのだ。恐る恐る開くと送信者の部分に『厨二魔王』の文字。

(ああぁぁああぁぁぁあああああ!!!)

 黛は再びテーブルに突っ伏した。遅かれ早かれ見ることになったであろう厨二魔王こと赤司からメール。だからといって、このタイミングで見たくはなかった。
 よくよくメールの内容を見れば、書かれているのは練習試合への誘い。だけど、どうしてだろうか。実渕のメールからは感じなかった言いようない威圧感を赤司のメールからは感じる。黛は「僕の言うことは」で締めくくられたメールを見ながら、小さく覇気のない声で呟いた。

「ゼッターイ…」



++++



 そして、数日後。黛は赤司の強制力の高いメールに促されるように実家にほど近い高校に来ていた。
 体育館二階のギャラリーに設置された柵に寄りかかりながら、アップを始めた元後輩達を見やる。相変わらず嫌味な位に高い技術だ。レイアップシュートとっても相手との実力の差は大きいだろう。
 と、黛が試合前だけど、一応来たし帰ろうかと思案し始めた頃。

「まゆずみさーん!!」

 あれあれ、名前を呼ばれたぞ?影が薄い筈なのに見つかるなんておかしいなー。
 ちらりと声のした方に視線を向ければ、キラキラした目でこちらを見つめてくる葉山と実渕、相変わらずの黒光りマッチョな根武谷の姿があった。

「手ぐらい振ってやったらどうですか、黛さん」

 そして、背後から聞こえてくる声に全身から変な汗が吹き出る。油が切れて錆び付いたブリキの玩具のごとく後ろを振り向けば、そこにはまお……笑顔の赤司がいた。
 なるほど、こいつの魔王オーラのせいでオレの居場所がバレたのかちくしょうめ。

「アップはいいのか、主将様」
「忙しい中、わざわざ応援に来てくれたOBに挨拶するのも主将の務めだと思いませんか」
「…知らねーよ」

 黛がぶっきらぼうにそう呟けば、赤司はそうですかと苦笑を零し、アップを続ける部員達がいるコートに目を向ける。

「試合後でもいいので、声を掛けてあげて下さい。みんな、喜びます」
「どーだか」
「少なくともオレは、嬉しいです」

 では、楽しみにしてますと言い残し、赤司は一階へと降りて、アップする他の部員達と合流した。黛はしつこいくらいに主張してくる無冠の三人にしょうがなく手を振り替えしてやりながら、先程赤司の様子を振り替える。
 黛にはどちらの赤司が本来の赤司なのか検討もつかないが、終始穏やかな赤司を見ているといい方に好転したのだろうと思う。あの旧型のおかげ、といのは些か納得出来ないけれど本人がそれで納得しているのだから問題ないのだろう。
 それにしても。黛はアップを終え、ユニフォーム姿になった母校のスタメン五人を見て、首を傾げる。五人固まって話をしているようなのだが何だか様子がおかしい。
 と。葉山が相手選手を指差して、実渕に殴られた。殴られた頭をさすりながら尚も葉山は自分と相手選手を指差しながら何か、主張している。

「まさか、あいつら……、」

 一番かっこいいユニフォームの話をしてるんじゃないだろうな。
 黛の予感が的中するかのように、コートに並ぶスタメン五人は相手のユニフォームを見やり、ふっと鼻で笑った。
 確かに相手のユニフォームはその、ダサい。かっこよさからいえば、洛山の方が断然上だ。だからって鼻で笑ってはいけないと思うんだ。千尋、そう思う。
 けれど、一番かっこいいユニフォームを着て、コート上を駆け回る彼らは純粋にかっこいい。調子に乗るから本人達には絶対に言ってやらないけど。

 結局黛は最後まで試合を観戦し、実渕達に会ってやったとさ。



おしまい。






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