二周年リクエストを湾曲し過ぎて何がなんだかになってしまいボツな他校→誠凛の冒頭。

 物影に隠れ、息を潜めるその姿は、仲間達の無事を祈りながらたった一人、死と隣合わせの戦地で戦う兵士によく似ている。
 河原浩一は芝居がかった様子で一つ深呼吸し、天を仰いだ。

 現在、都内某所にある赤司グループが経営するスポーツ施設を貸し切って海常、秀徳、桐皇、陽泉、洛山、そして我が誠凛バスケ部の六校が合同で合宿を行っている。
 大所帯の練習に慣れていない者がほとんどで、最初こそは戸惑ったものの、親切丁寧に教えて貰った甲斐もあり、今では周りと遜色ない動きで練習に励んでいる。しかも周りは全国屈指の強豪校。強者揃いの真ん中で練習なのだ。楽しくない筈がない。
 という訳で、誠凛バスケ部一同は尊敬と敬愛をふんだんに含んだキラキラと輝く眼差しで苦しくも楽しい合宿を謳歌中であった。
 そんな合宿も中日に差し掛かった日、つまり今朝のこと。山盛りの朝食をなんとか平らげ、身支度を整える為に部屋に戻る途中、困った表情で何かを探している風の我らが女子高生監督・相田リコと遭遇する。この一年で『一人はみんなの為に、みんなは一人の為に――One for all,all for one――』精神が骨の髄まで浸透していた河原、黒子テツヤ、火神大我、降旗光樹、福田寛の五人はすぐさま相田のもとへと駆け寄った。
 聞けば、愛用のボイスレコーダーを施設内のどこかに落としてしまったらしいのだ。話を聞いている最中、タイミングよく通りかかった主将・日向順平を始めとする先輩達も加わり、誠凛バスケ部のボイスレコーダー大捜索が始まった。
 しかし合宿で使用している施設は大きく、広い。闇雲に探し回っても体力を削るだけである。まずは相田がボイスレコーダーを使った最後の場所まで移動することとなった。
 そしてその移動中、事件は起こった。
 ちょうど屋内練習場へ向かう為に廊下を歩いている時だ。地響きを彷彿とさせる沢山の足音がこちらに向かって近付いてくるような気配がして、不思議に思った一同は一斉に後ろを振り向いたのである。
 すると「え」と誰かがぽつりと呟いた瞬間、黒光する一陣の風が一同の真横を猛スピードで通り過ぎたのだ。一拍遅れてそちらを見れば、桐皇のエース・青峰大輝がドヤ顔で火神を姫抱きしていたである。

「火神はオレ(達桐皇)が頂いたぜ!!」

 勝ち名乗りとも言うべきその声を引き金に他校のスタメン(元スタメン含む)達が襲い掛かってきたのだ。
 ――逃げなければ、捕まる。
 姫抱きされてぽかんとしている火神にツッコむ暇もなく、一同は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。他校生がなぜこのような暴挙に出たのか訳の分からぬまま、ただただ足を前へ動かし続ける。しかし抵抗も虚しく、一人、また一人と捕まり、最後に残ったのは河原とテツヤ2号だけだった。
 小さく体を丸め、声を潜めて物影に隠れれば、聞こえくるのは自分と2号を探す声、声、声。体に纏わりつく恐怖が河原の心までもじわりじわりと蝕んでいく。
 ――このまま捕まってしまおうか。
 弱気な心がそんな事を囁いた。その時、ぷにっとした感触のものが河原の腕に触れたのだ。視線を向ければ、抱きかかえていた2号が励ますかのように腕に前足を置いている。

「……そうだよな。弱気になってちゃ、ダメだよな」

 河原は2号を抱きかかえたまま立ち上がると一つ大きな深呼吸をして、苦楽を共にした大切な仲間を助ける為に走り出した。



 そして、冒頭に戻る。






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