50000キタコレ!記念に伊月嫌われブレイクを書こうとしたけどモブ子が目立ち過ぎたので敢え無く…。

 ここに来たのは単なる暇つぶしだった。
 昨晩、ほろ酔いの父が母に話していた内容によれば。なんでも赤司グループの御曹司が在籍する学校などが、父が理事を務める財団法人の所有する体育館を借りて、合宿をするらしい。スポーツのことは全く分からないし、興味もないが、赤司グループの御曹司には大変興味がある。
 もしその御曹司がイケメンなら、アプローチをしよう。御曹司だってただの男だ。自分がそれらしい態度を取れば、会って早々、恋人には慣れなくとも告白されてもおかしくない程の好感度にはなる筈だ。
 もしその御曹司がブサイクなら、音もなく立ち去ればいい。
 自分の容姿に大層自信のあるモブ子はそんなことを考えながら、合宿が行われているらしい体育館へ意気揚々と向かった。
 単なる暇つぶしなのだ、と誰ともなしに言い聞かせながら。

 体育館に着いたモブ子は右も左も分からぬまま、忙しなく響く声だけを頼りに綺麗に整備されたリノリウムの廊下を歩く。悪いことをしている訳でもないのについつい挙動不審になってしまい、きちんと前方を見ておらず、廊下の角で何者かと勢い良くぶつかってしまった。

「きゃっ」
「うわっ」

 ―――もし、この超可愛くてか弱い私にぶつかった奴がクッソみたいなブサイクだったら股間の逸物握り潰してやる…!
 などと物騒なことを思いながら、か弱い女の子を演出するかのようにわざとらしく倒れ込む。大して痛くもないのに「あいたたっ」と言いながら、出来るだけゆっくりと起き上がるモブ子の目の前にぶつかった相手のものだろうと思われる男の手が差し出される。その手を辿って、何人もの男を手玉に取って来た必殺の上目使いで見上げれば、そこには極上のイケメンがいた。

「大丈夫?」

 王子様かと思った。
 おとぎ話に登場するようなキラキラ輝く金髪ではないが、一目見ただけで分かる触り心地の良さそうなサラサラでつやつやな黒髪。吸い込まれそうな切れ長の瞳は黒髪と同じ漆黒。そして目を奪われる血色の良い唇、すーっと通った鼻筋。
 なんじゃこりゃ。同じ人類なのだろうか。同じ空気を吸って吐いてを繰り返して生きている同じ人種なのだろうか。なんだこの敗北感、こなくそ!!!いやしかし待てよ。私は女、王子様は男。一個体としては完全敗北したとしてもこの人の子供を産めるのは女の私だけ。そう、私だけなのだ。目の前のクッソ美人な王子様を恋人にすれば、私は人生の勝ち組!!!!!!!
 黒髪美人な王子様をガン見しながら瞬時にそんなことを考える。だがしかし、不思議そうにこてんと小首を傾げる王子様の姿を直視してしまえば、打算的な考えは空の彼方に吹っ飛び、ただの恋する乙女に成り下がってしまうのだ。
 チャーム状態になったモブ子は手を伸ばし、差し出された手を掴もうとする。が、寸でところで何者かによって小気味良い音を立てながら叩き落とされてしまう。

(なにやつ!!?)

 モブ子は叩き落とされた手を抱き締め、キッと突如として現れた自分と王子様の仲を引き裂いた手の持ち主を見定めようと睨むようにして見上げる。直後、モブ子はトゥンク…と少女漫画の主人公ばりに胸を高鳴らせた。
 なんと、王子様の隣にもう一人、赤髪のスーパーイケメンな王子様が現れたのだ。
 ―――私がか弱くて可愛いばかりにまた新たなイケメンを呼び寄せてしまったわ…。私ってばなんて罪な女なのっ…!!
 暴走列車並に勘違いを加速させ、自分の世界に完全に浸っているモブ子には頭上で行われている「黛さん…?」「肉食獣に食われるかと思ってな」「男の嫉妬は醜いですよ」「もし、旧型が触られそうになったらどうするんだよ」「叩き落とす」「ほらな」などという会話は一つも耳に入ってこない。勿論、この場にいる影の薄さに定評のある長身の男の存在も気付いていない。
 長身の男は黒髪美人の王子様の手を半ば無理矢理ひっつかむと、足早にこの場を後にする。赤髪の王子様もモブ子など初めから存在しなかったかのような態度で横を通り過ぎ、二人の後を追っていく。
 二人(実質三人)の姿がないことにモブ子が気付いたのは、ひとしきり一人で盛り上がった後のことで。その事実を目の当たりにした瞬間、手短なところにあった掃除用具入れのロッカーの扉を「ぬんっ!」とどこぞの世紀末覇者のような野太い声を上げながらぶん殴っていた。扉はものの見事にひしゃげており、モブ子の怪力具合が露呈されている。だが、この場にはモブ子しかおらず、「か弱いとかウソじゃん」とツッコむ勇者は誰一人として存在しなかった。



++++



 あの後、蔑ろにされたことに腹を立てたモブ子は怒りのオーラを放ちながら、体育館の二階にあるギャラリーへと向かっていた。体育館で行う種目なら必ず、フロアを使用する筈である。二階からなら広いフロアも一望出来て、二人の王子様も見つけやすいと考えたからだ。
 見つけたら自分を無視したことを問い詰めて、どちらも自分のものにしてやる。
 ギャラリーに到着したモブ子はそう息巻いてフロアに視線を向ける。と、すぐに目を見開いた。
 イケメン、イケメン、イケメン…。どこに視線を向けてもモブ子の大好きなイケメンばかり。しかも、やっているスポーツはどうやらバスケットボールらしい。イケメンが更にイケメンに見えてしまうスポーツだとモブ子は思っている。現に今し方シュートを決めた鮮やかな金髪のイケメンがものすごくイケメンに見えたのだ。

「てかあれってきせりょじゃね?!!」






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