酔う月

※未来捏造、大学生設定
※薄いけどエ………ロ…?





 本日、十一月十一日。
 宮地清志は一人暮らし中の部屋に恋人の伊月俊を呼び、二人っきりで甘い甘い誕生日を過ごしていた。
 夕食は上京組の福井健介から作りすぎたと押し付けられたきりたんぽを中心に鮭やきのこ類、もやしなどの野菜がたっぷり入った鍋をつつきあった。夕食後はローソクに見立てたポッキーをさしたショートケーキを食べさせあったりと、友人の森山由孝が見たら「リア充爆発しろ!」とハニートーストを顔面に向かって全力で投げつけられ兼ねないほどの幸せな時間を堪能していた。
 そして、泊まることになっていた伊月を先に風呂に行かせた宮地はレモン味のチューハイをちびちび飲みながら、ベッドヘッドに大人の夜のお楽しみセットをいそいそと用意した。どうやら今夜はしっぽりとしけ込むつもりらしい。
 宮地がベッドをもう一度綺麗に整えていると、伊月が風呂から上がって来た。自分のスウェットを着た湯上がりの伊月の可愛さに内心で悶えまくりながら、宮地は入れ替わりで風呂へ向かう。飲みかけのチューハイをリビングのテーブルに残したまま。
 それがいけなかった。

「あ、みゃじさんらぁ」

 推しメンのソロパートを鼻歌混じりに歌いながら風呂から上がって来た宮地はリビングに入るなり、ぴたりと動きを止める。赤ら顔でふにゃりと可愛らしい笑みを浮かべる伊月の手に先程まで自分がちびちびと飲んでいたチューハイの缶がしっかりと握られていたからだ。宮地は気が遠くなる心地になりながら、浮かれまくっていた数十分前の自分を呪った。
 伊月は酒に滅法弱く、少量のチューハイを飲んだだけでも酔っ払ってしまう。酔うと眠るまでふにゃふにゃの可愛らしい顔で絡み付き、色気を振りまき、こちらの忍耐力を試してくる。つまり、酔った伊月と対峙するということは己の理性と本能のガチバトルでもあった。

「お前なに勝手に飲んでんだよ、轢くぞ」

 宮地は深いため息を吐きつつ伊月から空に等しいチューハイの缶を取り上げ、キッチンに持って行く。背後で「おれのっ、かえしてくらひゃい!」とかなんとか言ってるくそかわな酔っ払いの言い分は黙殺しておこうと思う。
 キッチンから戻って来た宮地は伊月の隣だと確実に手を出し兼ねないと思い、向かい側に腰を下ろす。それが気に食わなかったらしい伊月はぷくぅと頬を膨らませ、ぺちぺちと自分の隣を叩いてみせた。

「みゃじさん」
「んだよ」
「みゃじさんちがいます。みゃじさんはこっち、おれのとなりにすわるんれす!」
「座んねーから」

 頬杖を付いた宮地は付け放しのテレビに視線を投げ、さすがに酔っ払い相手に手は出したくねーなと眉を寄せる。酔っても天使な恋人が可愛過ぎて優しく出来る自信がないのだ。宮地がそんなことを考えているなど知る由もない伊月は拗ねたように唇を尖らせ、難しい顔でテレビを眺める向かい側のハニーフェイスなイケメンをじっと見つめた。
 突き刺さる視線を黙って耐えていた宮地だったが、向かい側から軽い物音が聞こえてきて、迂闊にもそちらに視線を向けてしまう。そこにいたのは四つん這い、世に言う女豹ポーズで近寄って来る伊月の姿。
 しかも、着古したぶかぶかのスウェットを着ているものだから胸元が見えやすく、自然と鎖骨から下へと視線を伸びる。これはいかんと理性を呼び起こし、視線を上へと引き上げれば、今度はとろんとした潤んだ瞳と艶めかしく色付く半開きの唇が目に飛び込んでくるのだ。今すぐ抱き締めて唇を貪りたいと本能が叫ぶのも無理はない。だが宮地はそれを鋼の理性でぐっと押さえ込み、伊月からすすっと距離を取った。
 しかし目の前の獲物に狙いを定めた諦めの悪い女豹は双眸を緩く眇めると、開いた距離以上に近付いて宮地を下から覗き込んだ。

「みゃじさん」
「…」
「ねえ、みゃじさんてばぁ」

 可愛い可愛い恋人に甘えた声で呼ばれてしまえば、誰だって反射的に見てしまうだろう。宮地も伊月の甘えた声に抗い切れず、ちらりと視線を向けてしまった。
 見るんじゃなかった。
 伊月は宮地と目が合うとふにゃりと嬉しげに微笑んだ。女豹かと思ったらただの天使…かと思ったけど、この色気は見紛うこと無き女豹である。宮地は漂う色香に誘われるように伊月の体を視線で撫でる。噛み付きたくなるほど鎖骨、程良く筋肉の付いた滑らかな胸、そこに自分の存在を主張するかのように聳え立つ桃色乳首。
 ああ、むしゃぶりつきてーな。
 脳裏を過ぎる卑猥な思いにはっとした宮地は刺激された性欲をどうにかこうにか飲み込んで、再び伊月から距離を取る。伊月に触ってしまえば、本能の赴くままに抱いてしまい兼ねないからだ。
 でも、どうしてかな。乳首から目が離せないんだ。

「ろうしたんれすか?みゃじさん」

 自分の色香によって、宮地の性欲がどれほど刺激されているのか。全く分かっていない伊月は不思議そうに小首を傾げ、届く範囲にあった宮地のスウェットの裾を控え目に掴む。伊月から些細な接触にさえも目を丸くした宮地は心臓を跳ね尽かせ、あからさまに動揺した様子で声を荒げた。

「お、おまっ、伊月!んな格好してんじゃねーよ!あれか?!誘ってんのか?!!誘ってんだな!よし襲う!!」

 宮地は軽いパニック状態になり、言う筈のなかった言葉まで勢い余って言ってしまう。早口で言われた為、言葉の意味を理解出来なかったらしい。きょとんとした顔で首を傾げる天然爆弾伊月。しばらく首を傾げたままの伊月だったが眉を寄せる宮地の視線が自分のある一点に注がれていることに気付き、それを辿って割とオープンになっていた胸元へと目を移す。
 そこにあったのは自分の、桃色乳首。
 赤ら顔を更に真っ赤にした伊月はしどろもどろになりながら己の体を守るように抱き締め、上目で宮地を見つめた。

「えっち」

 恥じらう伊月の一言は絶大な威力を発揮した。エコーが掛かったその言葉はぐっさぐっさと突き刺さり、宮地にどんどんダメージを与えていく。何せ宮地の思考を占領するのは抱きたい、押し倒したい、犯したい、セックスしたいの大体同じ意味合いの言葉ばかり。図星過ぎてぐうの音も出すことは出来なかったのだ。
 出来なかったが、宮地の中で何かが切れる音がして。宮地は伊月の腕を掴むとそのまま自分の方へと引き寄せるようにカーペットを敷いたフローリングに押し倒す。鼻先同士が触れ合うほど顔を近付ければ、宮地の拗ねたような声音が二人の間に広がった。

「えっちなオレは嫌いかよ」

 その言葉に目を丸くする伊月だったが、すぐにふにゃとした微笑みを浮かべる。

「すき」

 言って、唇同士を重ね合わせた。

「馬鹿、そんだけじゃ足んねーって」
「ん、オレもたりない」

 どちらともなく引き寄せあい、再び唇同士を重ね合わせる。最初は戯れるような軽い口付けを交わしていたが、徐々に激しさを増していき、今や舌を絡め合わせ貪るようなものに変わっていた。伊月は宮地の首もとに腕を回し、口内を蹂躙する舌を必死に受け入れ、自らも舌先を伸ばす。片や宮地は口付けをする傍ら、伊月のスウェットの裾からするりと手を差し入れ、双丘に佇む小さな頂を指で摘まんだ。

「んっ!……ん、あ…っ」

 切なげに寄せられた眉と首もとに回された腕に力みを感じた宮地が唇を解放すれば、二人の間に銀の糸が細い道を作る。ぷつりと切れた糸が伊月の口端から伝い落ちるのを目で追いながら、くにくにと頂をこねくり回した。その時だ。伊月が甘く切ない吐息を吐き出しつつ、小首を傾げたのは。

「みゃ、じさっ…ここで、するんっ…れすか?」

 宮地は伊月と目の鼻の先にあるベッドを交互に見つめ、速攻で伊月を横抱きしてベッドへと連れて行く。これから長い長い夜になるのだ。固いフローリングよりも大人の夜のお楽しみセットが準備された柔らかいベッドの方がいいに決まっている。
 ただ、仕切り直しをしないといけないのだが。
 お互いのスウェットを脱がしあい、生まれたままの姿で向かい合う。再び宮地が伊月を押し倒し、口付けを交わそうとした時。伊月が「あ」と何かを思い出したかのように小さな声を上げ、恥じらいを頬に忍ばせながらもの言いたげに宮地を見つめた。

「あの、みゃじさん」
「なんだよ」
「みゃじさんの……その、チンアナゴ、がほしいれす。あ、チンアナゴのあな、ごこ。きたこれ」

 言葉も出なかった。
 片や伊月は自分のダジャレに満足したのか、花を飛ばさんばかりに可愛く、それはもう可愛く笑っている。それにダジャレで空気をぶち壊されのはいつものことだから気にしていたってしょうがない。
 だがしかし、チンアナゴ発言は見過ごせなかった。

「伊月、その……チンアナゴって、お前が考えたのか?」
「ちがいます。もりやまさんとふくいさんがおしえてくれたんれす。そういったら、みゃじさんがよろこぶって」
「あいつら…」

 今度会ったら、ぜってー轢く。
 脳裏に浮かぶしたり顔の森山と福井に舌打ちしたい気持ちになる。一方で先輩の言葉を信じ、恋人の為に卑猥に聞こえる生物の名前を素直に口にする伊月の健気さに胸を打たれた。
 そんな複雑な心境を抱えたまま、宮地は組み敷かれた恋人を見下ろす。しかし、目が合えば途端に嬉しげな笑みを浮かべて「みゃじさん」と抱き締めて貰えば、森山と福井のささやかなイタズラなどどうでもよくなるというものだ。
 だからといって、轢くのは止めないが。

「っと、わりぃ。体冷えちまったな」
「だいじょうぶれす、おかげでよいがさめましたから!」
「いや、呂律回ってねーし」

 ふっと笑みを浮かべた宮地はむぅと尖らせたそこに触れるだけの口付けを落とし、股間にある膨らみを伊月のそれに擦り付けた。突然の接触に鼻から抜けるような甘えた吐息を漏らした伊月もまた、誘うようにいやらしく腰をくねらせる。
 そして、再びどちらともなく舌を絡ませれば、それが合図となって二人の熱く激しい夜が始まった。



+++



 後日。

「森山くーん、福井くーん、あっそびましょーう!」

 笑顔が眩しい宮地に捕まった森山と福井は声にならない声を上げながら、彼の気の済むまでアイアンクローを食らい続けたそうだ。
 ちなみに伊月は、あの日の夜に仕出かした素面では到底出来ない大胆な発言や行動の数々をはっきりと覚えていたらしく、羞恥で頭を抱える羽目になった。それからお酒を飲むのはしばらく控えようと固く決心するのであった。






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