※伊月の婿アンケートの結果に基づいた森月、宮月、高月、春月、黛月中心伊月総受けなお話です。
※下ネタとキャラ崩壊と伊月愛で出来たとても残念なお話です。
※最後にちょっぴりパロってます。








 伊月俊はゆっくりと重い瞼を持ち上げ、目を覚ました。ぼんやりとした、ベールのような細かい刺繍が施された純白の薄い布に覆われた視界に映るのは丸い天蓋の隙間から差し込む淡い光のカーテンと天蓋から自分を囲うように円形に等間隔で伸びる黒色の重厚感漂う鉄格子。視線を横にスライドさせて鉄格子の隙間から辺りを伺うが自分の寝転がる場所以外光が全く届いておらず、真っ暗で何も見えない。まるでここだけがスポットライトに包み込まれているかのような、そんな光の降り注ぎ方だ。
 ………って待て、鉄格子?!!
 伊月が勢いよく跳ね起きれば、真紅の花弁と甘い蜜の香りがふわっとそこら中に舞い上がる。膝の上にひらりと落ちた鮮やかな紅を拾い上げ、眉を寄せて見つめながら胡座を掻こうとしたところで足に纏わりつく布の質感の心許なさに動きをピタッと止めた。恐る恐る自分の首から下に視線を向ければ、眩い白と真紅の薔薇とその花弁が己の体を覆い尽くしていたのである。
 絶句した。薔薇がバラバラというダジャレが披露出来ないほど、絶句した。
 それはそうだ。気がついたら女性なら誰もが一度は着てみたくなるような可愛らしいふんわりとした純白のドレスを着せられ、真紅の薔薇が敷き詰められた手触り最高なふかふかのシルクのベッド(予想)のど真ん中に眠っていたのだから。訳の分からぬまま突然捕らわれのお姫様気分を味あわされたこちらの身にもなって欲しい。
 それにこのドレス、なんとなくだが自分がおいそれと着ていい代物ではない気がする。お値段的な意味でも。

「一体誰がこんなことを…」

 何が何やらさっぱり過ぎて頭を抱えた伊月はやるせない気持ちを声音に含ませ、ぽつりと呟いた。それに呼応するかのように真っ暗だった辺りにパッと明かりが灯り、視界情報が一気に広がる。急な出来事に何事かと顔を上げれば、自分を囲むかのごとく弧を描くようにして設置された長机に白いタキシード姿の見知った顔が五つ並んでいて。伊月は眼前のベールを頭の上にめくり上げながら、ぱちくりと目を瞬かせ、鉄格子のその向こう側に見える五つの顔をまじまじと見つめた。

「伊月さん見過ぎっすよ、高尾ちゃんはずかしっ!」

 右から二番目の席に座る高尾和成がわざとらしい仕草で顔覆い、体をくねらせる。伊月は高尾の言葉にはっとし、慌てて五人から目を背けた。しかし、どこに目を向ければいいのか分からない。伊月が行き場のない視線をしばらく彷徨かせていると、『伊月俊生誕祭』という煌びやかに着飾ったデカデカとした文字が視界を覆い尽くし、目を丸くした。

「オレの、誕生日…?」

 言って、部屋中を飾る形は少し歪な色とりどりの大輪の紙製の花や折り紙で作った輪っか、可愛らしい(当社比)イラスト達がこれでもかと伊月の目を楽しませる。「すごい」と無意識に感嘆の言葉を紡ぎ出せば、右から一番目の席に座る春日隆平がのんびりと口を開いた。

「この部屋の装飾、伊月の為にって誠凛が率先してやってくれたんだよねぃ」
「みんなが……」
「後でお礼言っとけよ」
「はいっ!」

 右から四番目の席に座る宮地清志の言葉に伊月はここに来て初めての笑みを浮かべる。その純粋そのもののような綺麗な微笑みを直視した五人は顔を赤らめて身悶えたり、目を背けて何事かブツブツ呟いたり、不自然な咳払いをしたりと忙しない。いたたまれなくなったのか、右から五番目の席に座る黛千尋が読んでいたラノベに栞を挟みながら場の空気を変える目的でしょうがなしに言葉を紡いだ。

「どうだ、捕らわれの花嫁気分は」
「は?」

 今、聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。
 確かに自分も捕らわれのお姫様みたいだなとぼんやり思っていたけれど、花嫁とは一体どういうことなのか。いや、着ているこのドレスがやたらと高級感漂う純白な時点でブライダル関係にまだまだ頓着のないバスケ少年な伊月でも嫌な予感はうっすらしていたのだが。
 伊月は受け入れ難い現実と向き合うべく、自分の装いに再び目を向けた。なぜか評判のいいサラサラな黒髪をマリアベールが、普段はバスケットボールを扱う節くれ立った手を手袋が、作りのいいクラシックな総レースのそれらで優しく包み込んでいる。鎖骨を見せるように肩部分は露出し、ウエスト部分から裾に向かって直線的にスカートが広がっていた。胸元とスカートにはカットレースが贅沢に施され、クラシカルエレガントなドレスとなっている。
 今の伊月はどこからどう見ても、誰もが羨む立派な花嫁の姿をしていたのだった。

「オレまだ、嫁ぐ予定もないのに…」
「いや、嫁ぎ先なら決まっている」

 打ち拉がれる伊月の言葉に反応したのは真ん中の席に座る森山由孝。困惑の表情を浮かべる伊月に向かって、森山はキリッとした渾身の決め顔のまま言葉を放った。

「伊月はオレのところに永久就職だ!」
「はい?」
「誕生日と結婚記念日が一緒だぞ、良かったな伊月!いや森山俊になるんだから俊と呼ぶべきか?それともハニー?」
「え、あの、森山さん?言っている意味がよく分からないんですけど」
「森山さんじゃない、ダーリンだ」

 ダメだこの人、話が通じない。
 早々に森山からまともな説明を諦めた伊月は他の四人に助けを求めるように視線を向ける。それに気が付いた黛、宮地、春日はすっと年下の高尾の方に「お前が説明しろ」という風な顔を揃って向けてきた。

「オレ?!!」
「たかおー…」

 視線にいち早く気付いた高尾はなんでオレが…と面倒くさげに顔を歪める。しかし、ちょっと涙目の伊月が助けを求める猫なで声で名前を呼ぶと「はーい、伊月さんの高尾和成でっす」と極上の笑みを伊月に送る。高尾は先輩方の舌打ちも完全スルーして、この『伊月俊生誕祭』について主役の伊月にも分かりやすく説明した。
 高尾曰わく、伊月の誕生日をどう祝おうかと悩んだいる時、伊月を愛するバスケ少年達は天からのお告げを聞いたそうだ。

『伊月のお婿さん決めようぜ!』

 と。おは朝占いを影から暗躍する存在が関わっているのでは…と勘ぐってみたが、当然全く関係なかった。むしろもっと別の、伊月を影から見守る鷲の神的な者が……スピリチュアルな話はどうでもいいか。
 バスケ少年達はそのとてつもなく怪しいお告げ通りに誰が相応しい婿か決める事にした。伊月本人の知らぬ間に。そして熾烈な争い(アンケート)を繰り広げた結果、第一婿の座を森山が掴み取り、あの浮かれまくった発言に繋がるのである。

「じゃあ、森山さんとオレの……言いたくないけどその、結婚式も兼ねた誕生日のお祝いをすることにしたのか?」

 森山のしつこいぐらいに推してくるダーリン呼びを華麗にスルーして、伊月は聞いた話から導き出された予想を口にした。小首を傾げる伊月の姿が抱き締めちゃいたいほど可愛く映った高尾は声にならない声を発し、机に突っ伏し悶絶する。しばらく使い物にならないだろう高尾に変わって、隣に座る春日が言葉を紡いだ。

「やるのは結婚式じゃないから安心しんしゃい。伊月はオレ達と楽しく話をするだけでいいんだからねぃ」

 春日からふわっと見惚れるような微笑みを向けられ、伊月は照れからくる顔の火照りを隠すように俯かせる。これだからイケメンは…と自分の顔面偏差値の高さを棚に上げて、理不尽な文句をつらつらと呟くのに忙しい伊月はまだ気付いていない。花嫁衣装のまま恥じらう伊月が(性的に)可愛過ぎて、真顔のまま鼻から赤いお水を垂れ流す婿達の姿を。伊月逃げて超逃げて。
 しかし悲しいかな、伊月は捕らわれの花嫁状態。襲い来る五人の狼から自力で逃げ出すなど到底無理な話である。そこで。

「誠凛セコーーームっ!!」
「お上が許しても僕らは許さない、絶対にだ」

 セコムを発動しました。

「日向に、黒子?!」

 伊月は聞こえてきたよく見知った声にはっとして、顔を上げた。そこにいたのはギャルソン姿の日向順平と黒子テツヤで鉄格子の向こう側から捕らわれの花嫁の様子を気遣わしげに窺っている。伊月は二人の姿を視界に入れるや否や、薔薇の花弁を舞い散らせながら彼らの方に出来るだけ近寄った。行く手を阻む鉄格子がこんなに邪魔だとは思いもしなかった。しかしそんなことは気にならないほど、嬉しくて嬉しくて堪らないという風な喜色満面の笑みを浮かべてしまう。伊月の笑顔は天使そのもので婿達の鼻の詰め物が一瞬にして真っ赤に染まり、黒子はイグナイトで床に穴を開け、日向の眼鏡は三度割れた。

「よう、伊月。疲れてねーか?」
「伊月先輩ご無事ですか?」
「オレは、まあ、こんな格好してるけど大丈夫。元気だよ」

 苦笑を零す伊月の頭を日向がぐりぐりと撫で回し、黒子はさり気ない仕草で冷たい鉄格子を掴む伊月の手を取り、壊れ物を扱うように優しく撫でさする。どこからともなく歯軋りが聞こえてきたような気がするが、気のせいだろう。

「あ、ここの飾り付けみんながやってくれたんだってな。ありがとう」
「伊月先輩の誕生日なんですから当然です。そんなことよりもこのような場所に閉じ込めてしまって申し訳ありません」
「何か理由があるんだろ?」

 小首を傾げる伊月の視線を誘導するように日向と黒子は婿達五人の方を向く。釣られてそちらを見れば、バスケの試合さながら真剣な面構えで五人はこちらを見ていた。その鼻にティッシュの詰め物が収まっているが何も見ていないことにしよう。
 伊月が再び目のやり場に困っている間に睨み合う五人と二人。部屋全体が一触即発の雰囲気に飲み込まれる中、それを切り裂くシャキンという刃物特有の研ぎ澄ませれた音が鳴り響く。一斉に音のする方へ顔を向ければ、サングラスを掛けて、右手に持ったハサミをチョキチョキしているスーツ姿の、妙に威圧感のあるオーラを纏った赤毛の男が婿達のそばに立っていた。

「赤司…?」

 ひそひそちらちら。ラスボスのご機嫌を伺いながら、一番穏便な対応をして貰えそうな伊月が声を掛ける。ラスボスは一チョキすると小さく口角を上げた。

「伊月さん、僕はシアカです」
「いやお前赤司だよな?赤司征十郎」
「そうですがそうじゃありません」

 ラスボスこと赤司征十郎はカッと目を見開くと声高らかに宣言する。

「司会のシアカがお送りします、赤司征十郎アワー・つきたんでいいとも!」

 部屋を包み込んだ一瞬の沈黙の後、一斉に「赤司征十郎アワーってなんだよ!」とツッコミを受ける赤司基シアカ。シアカはハサミでシャキン音を出して周りを黙らせると自分が出て来た趣旨を説明した。
 簡単にいえば、花嫁伊月を愛ですぎて予定から大幅に逸れたので予定にないシアカさんを投入して本来の目的を果たすよ、ということである。ちなみに本来の目的とは第一婿から第五婿が伊月の目の前で伊月への愛を語らうという何とも分かりやすく横道に逸れやすい内容である。
 当初の予定では服装も制服か部活のジャージだったのだが、花嫁だからせっかくだしという安直な理由で伊月の服装はウェディングドレスに変更になった。
 天使が女神にジョブチェンジしただけだった。

「えっ、それだけの理由でオレはウェディングドレスを着せられたのか?!!」
「最優秀婿は伊月さんとケーキ入刀出来る権利が与えられます」
「スルーするの、うわ………」

 運ばれて来た馬鹿でかい五段重ねのウェディング…げふん…誕生日ケーキを見た伊月は得意のダジャレを言いかけてしまうほどドン引いてしまう。表情からしてげんなりとしている伊月をちらちら伺いつつも赤司ではなくシアカの進行は進んで行く。

「もし、伊月さんを辱めるような卑猥な発言をした場合、誠凛監督・相田リコさん特性の青汁『天国への片道切符』を飲んで貰います」
「ただの青汁だろ?楽勝じゃね?」
「罰ゲームにもならないよねぃ」

 宮地と春日はシアカの言葉を聞きながら、鼻の詰め物を取りつつ余裕の表情を浮かべる。森山も高尾も黛も宮地達と同じように鼻から詰め物を取り出し、余裕の表情で目配せしあう。
 しかし日向、伊月、黒子は相田の名前を聞くなり一瞬にして顔を曇らせる。口を噤んだ日向と伊月に変わり、黒子が少し躊躇いながらもゆっくりと口を開いた。

「…飲むと意識が飛びますよ。上手くいけば、三途の川が見えるかもしれません」

 それでも楽勝なんて言えますか?
 過去に何があったのかは分からない。分からないが、悟った顔で遠くを見る日向や黒子の生気の感じられない目、青ざめるほど顔色を悪くした伊月の姿を見れば、人類には早過ぎる飲み物なのだろう予想がつく。それを悟ってしまった森山を始めとする婿達は表情を引き締め、頷きあった。

「高校バスケ界の愛の伝道師・森山由孝の手に掛かれば、伊月もイチコロだぜ!」
「健全なことしか言わないに決まってんだろ、オレ達を何だと思ってんだ轢くぞ!」
「清く正しくがモットーでっす!」
「愛しさと切なさと心強さが売りだぜぃ」
「卑猥?なにそれおいしいの」

 やる気も気合いも充分なようである。

「では、始めようか」

 サングラス越しでも分かるほど目をかっぴらいたシアカの合図で『赤司征十郎アワー・つきたんでいいとも!』、またの名を『伊月俊生誕祭』と『伊月俊への愛を語り合う会』が真の始まりを告げた。






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