合宿ネタをやろうとして失敗した。

WCから数ヶ月経ったある日、キセキの世代獲得校の誠凛、海常、秀徳、桐皇、陽泉に洛山の主将・赤司征十郎から合同合宿の招待状が届いた。招待状にはフィジカルの高い者同士が集まり、諸々をスキルアップしたり情報交換をしようではないか。というか交流したいあわよくば友達が欲しいというような本音だだ漏れの切実な願いを滲ませた内容が記されてあった。
各校の監督達は散々苦しめられた相手の情報を合法的に入手出来る機会はめったにない、これは参加しなくては!と二つ返事で了承。あれよあれよという間に合同合宿当日を迎えたのだった。

しかしながら、誠凛以外の五校はいずれも強豪校で三年生が抜けたとはいえ部員の人数は多い。いくらあの赤司といえど各校部員全員を泊める事が出来るような宿泊施設をいくつも用意出来る訳もなく。結局レギュラーとベンチ入りしたメンバー、それから監督のご好意により最後の思い出作りに来た元レギュラーの三年生のみがこの合同合宿に参加する事になった。

各校次々と合宿所に到着し、玄関に張り出されていた赤司作成の部屋割り表に従って部屋に移動。準備が出来た者から順に隣接する体育館に集合した。全員揃ったのを見計らい、各校の監督から今後の練習メニューや日程、合宿所のマナーなどの説明が始まる。監督達の説明に真面目に聞いていた彼らだったが、最後、誠凛の女子高生監督・相田リコから言葉に目を丸くしたり、キョトンとしたりと各々驚き表情を浮かべた。そんな中、誠凛の部員達だけは意味深げな表情で目配せしあっているのだが。


「なんで、手つなぎ鬼?」


誰かがポツリと零した呟きに相田はにんまりと笑みを浮かべる。


「もちろん各校別々にサーキットなんかもするけど、せっかくの合同合宿なんだしアップの一貫としてレクレーションを取り入れてみました!逃げきればいつも通りのノルマなので楽しんで下さいね!」

「その代わり、鬼に捕まったら今日の練習メニューは二倍だからな」


陽泉の監督・荒木雅子の言葉に表情を変える部員達。若干ブランクのある元レギュラーの三年生達は敵、味方関係なく目配せしあい、練習メニュー二倍阻止への協定を密かに結びあう。ざわつき始めた部員達におざなりにたしなめた監督達は壇上に上がり、見守る態勢にシフトチェンジ。どうやらこのレクレーションの進行は桐皇のマネージャー・桃井らしく、壇上からマイクを駆使しルールの説明と鬼の紹介を手早く済ませた。

手つなぎ鬼とは大人数でやると楽しい鬼ごっこが進化したレクレーションの一つ。鬼一人と子に別れて、子は逃げる。鬼に捕まった子は鬼と手を繋いで、他の子を捕まえる。四人になったら二人一組になる事が出来、鬼が増えれば増えるほど子は逃げるのが難しくなってくる。が、子が鬼のふりをして逃げる事も出来たりする。特別ルールとして体育館中央に休憩所という名の誠凛・木吉鉄平を設置。二人まで休憩可能となっている。

そして、鬼は誠凛・伊月俊。

レクレーション発案者が相田だったらしく、鬼は誠凛からが妥当だろうという事だった。ちなみになぜ鬼が伊月かというと今日が月曜日だかららしい。安直。公平にジャンケンしろよとは元レギュラーの三年生からのお言葉である。

相田のホイッスルで始まった手つなぎ鬼。部員達は伊月が十数えるうちに蜘蛛の子を散らしたように体育館中に広がった。部員達はまあ、伊月だし?大丈夫だろうとぎこちない笑みを浮かべあう。十数え終わった伊月は自分の反対側に立ち並ぶ体格のいい部員達にそこまで警戒しなくても…と苦笑する。そして、伊月が足を一歩踏み出したその時、伊月の体はがくりと力無く膝から崩れ落ちた。


「「「「「伊月(先輩)?!!」」」」」

「来るなっ…!」


伊月の異変にいち早く気付いた主将の日向順平を始めとする誠凛の面々が駆け寄ろうとする。が、伊月はそれを声で静止した。


「でも…!」


一年の中でも伊月を慕っている同ポジションの降旗光樹がそれでも駆け寄ろうと足を踏み出すが、伊月は苦しげで不格好な笑みを向けて首を横に振る。






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