伊月はドヤ顔(可愛い)のまま、積み重なるプレゼントに次々と手を伸ばしていく。海常の笠松幸男からはバスケットボールのキーホルダー、陽泉の岡村建一からはご当地ストラップを。更に海常の小堀浩志からは鳥のモチーフのポストカード、同じく海常の早川充洋からはふくろうの置物が贈られた。どれもこれも目を引くような可愛らしいラッピングがされており、こちらのテンションも上がっていくばかり。
 洛山の葉山小太郎からのギャグなのか単なる嫌がらせなのかよく分からない焼き鳥の写真も簡単に許せてしまうほどだ。というか焼き鳥うまそう。食べたい。
 あとでお腹一杯水戸部と火神合作のバケツコーヒーゼリーを食べようと心に決め、今度はパステル調の長方形の包みを取った。中からはシンプルなのにオシャレ感漂うシルバーのシャープペンシルが日の光を浴び、キラキラと輝きながら出てくる。贈り主は海常の中村真也で意外なセンスの良さに感嘆の息が漏れた。
 同じ文房具類でいえば、桐皇の諏佐佳典の三色ボールペンのチョイスには感心したし。同じく桐皇の若松浩輔からのシャープぺンシルの芯(HB)にはどんなミラクルだよと笑わせて貰った。

「みんないろいろ考えてるんだな」

 有り難いことだよななんて呟きながら、伊月は先程から目移りしていたやけに大きな存在感のある白色の箱を手に取る。貼り付けてあった誠凛カラーの誕生日カードに同輩であり、部の主将を勤める日向順平の名前が書かれていたことからうっすらと中身の想像が出来てしまった。いや、でも、想像と違っていたらなんか恥ずかしいかもしれない。一応ね一応。伊月は箱を開けて、中身を確認した。瞬間、何も見なかったことにしてすっと今まで開封したプレゼント達の山にそっと紛れ込ませる。セットの裏辺りから激しい物音と「オレの最高傑作じっくり見ろよおおおおっ!!!!」という雄叫びが聞こえたかのような錯覚に陥ったけど、きっと空耳だ。
 ちなみに箱の中には手作りの限界に挑戦し、細部まで拘り抜いた完全再現・直江兼続の兜が入っていた。

「気を取り直して……、」

 そう言って手を伸ばしたのは水玉模様の包装紙と同じ模様のリボンで可愛らしくラッピングされた四角形の包み。誠凛カラーの誕生日カードには同輩である土田聡史の名前があり、しかも彼女と選んだらしいことが書いてあった。これは期待出来そうだ。ゆっくり且つ丁寧にリボンと包装紙を外せば、淡い青色の色味が眼に優しい手帳がお目見えする。手帳の表紙にはにわとりとひよこが寄り添って眠っているイラストが書かれており、柔らかな色調も相俟って、ふんわりほのぼのとした雰囲気がこちらにも伝わってくるようだ。さすがは土田とその彼女さんである。
 ほっこりした気分のまま、後輩である黒子テツヤと降旗光樹、福田寛と河原浩一の贈ってくれたプレゼントを順番に開けていった。まず最初に手にした薄水色のストライプ柄の包装紙に包まれたそれは黒子からの物で、中は十月二十三日の誕生花であるらしいアケビとダチュラの花が水彩画で描かれた栞と茶色の牛革で作られたモダンな大人の雰囲気を纏わせたブックカバーだ。本好きの黒子ならではのプレゼントに自然と顔が綻ぶ。
 その時、背後からものすごく大きな物音が伊月の耳に飛び込んで来た。驚いて振り向むくとそこには、セットの壁を突き破ってこちらに伸ばされる懸命な手が。

「止めないで下さい主将(と書いてキャプテンと読む)! ボクは伊月先輩とけっこんんんんんああああああああいたたたっ」
「ダアホ! 何勝手なこと言……って、ちょっみや……んんっ、ミスターパイン?! ウチの後輩なんだと思ってんすかもっと丁寧に扱って下さい!」
「そんな場合かよ! 伊月にオレ達がいることバレちまったらどうすんだ……!」

 悲鳴にも似た叫び声を奏でながら未練を残しつつ姿を消すと、壁にはこぶし大程の穴が作られた。そこをじっと見ていると不意に自分の名前を呼ばれ、器用に片眉を上げる。
 ――いや、最初からいるのは分かってたんだけど……。
 スルーしてただけで。それにしても、あのはしゃぎっぷりでバレないとでも思っているのだろうか。はたまた自分の鈍感レベルがいつの間にか恋愛モノの主人公並に跳ね上がったと思われていたのだろうか。どちらにせよ、迷惑極まりないな話である。
 ――っていうかいるならさっさと出てくればいいのに!
 いまだどんちゃんと騒いでいる穴の向こう側の面々に背を向けた伊月は降旗が贈ってくれた木製の月のモチーフの写真立てを膨れっ面のまま眺めた。写真立てには既に、先日部活で撮った集合写真が飾られている。黒子と可愛く鳴いた2号に驚く火神、驚く火神の手があたって眼鏡が吹っ飛ぶ日向、吹っ飛ぶ眼鏡をキャッチし損ねるどころか更にぶっ飛ばす……自分。自分がぶっ飛ばした眼鏡は土田と水戸部の上を通過、手を伸ばしてキャッチ体勢を整える小金井をスルーし、木吉の頭の上に着地する眼鏡。どこからともなく飛び出す鳩。鳩の存在に驚く監督である相田リコ、相田を支えようとする福田と河原。急いで駆け寄るもカメラのタイマーに泣かされた降旗の背中。
 そしてこの直後、一斉に体育館の床に崩れ落ちて、爆笑したのだ。あの時のことを思い出すといまでも笑いが込み上げてくる。伊月は先程の膨れっ面から表情を一変さえ、天使の微笑みを浮かべた。
 背後にいる人達はきっと何か理由があって、隠れているんだろう。それはちょっぴり寂しいけれど、最後にはきちんと出て来て、理由も説明して、一緒になって楽しい……嬉しい気持ちを共有してくれる筈。だから今は目の前のプレゼント達に集中しよう。自分がコスプレ(しかも女装)をしていることなどすっかり忘れて、二人でお金を出し合って買ったという福田と河原のプレゼントを開けた。

「こっ、これは……!」

 満を持して現れたのは以前から伊月が絶対に購入しようと目論んでいた今昔ダジャレ大辞典という分厚い本だ。それを認識した瞬間、伊月は今までにない驚きの早さで本を抱き締めていた。
 ダジャレ。最低でも一日五回は言っておきたい魔法の言葉。言わないと軽い禁断症状を起こして、近くにいた日向の眼鏡を割る(理不尽)かも知れない。伊月にとって、水や酸素と同等以上の存在なのだ。ところでダジャレの起源というのは(以下略)。
 しばらくの間、本をぎゅっと抱き締めたままダジャレの起源や成り立ち、伊月監修のダジャレ百連発を何かの呪詛のように呟いていた。が、勢いよく飛んできたどこかで見たことあるような眼鏡に物理的に阻止され、ようやく本来の目的に戻る。
 抱きかかえていた本を開封したプレゼント達が置いている場所に預け、他とは毛色の違う高級感漂う香水瓶と女の子らしいピンク色で華やかにラッピングが施されたものに触れた。一つは海常の黄瀬涼太が贈ってくれたブロッサムの香りの香水で、もう一つは洛山の実渕玲央が贈ってくれた入浴剤セットである。汗臭い部活に所属する男子高校生にあるまじきお洒落感と清潔さに瞬きを繰り返す。これが今活躍中の現役モデルと女子力高いオネェの底力なのか。
 なんかいろいろ深く考えたら負けな気がして残り少ない未開封のプレゼント達に目を移す。

「次は……、」

 まず目に留まったのは籠に入ったフルーツの盛り合わせだ。これは秀徳の木村信介が贈ってくれたもので、メロンやマンゴーまで入った木村家でも一、二を争うお高いやつに違いない。美味しそうなフルーツの甘い香りに食欲を煽られるが、めったに口にすることのない生のメロンやマンゴーだ。家にそのまま持ち帰って家族みんなで食べようと心に決め、流れるように紫色のリボンを身に着けたまいう棒に手を伸ばす。苺のショートケーキ味のそれは案の定、陽泉の紫原敦が贈ってくれたものである。黒子曰わく紫原がお菓子をくれるのはかなりのレアケースらしいので有り難く貰っておくことにした。
 そして、紫原の相棒であり、火神の兄貴分である陽泉の氷室辰也からは手製のピクルスが贈られてきたようだ。瓶にはご丁寧に生産者である氷室本人の顔写真が貼られている。麦藁帽子を被り、笑顔でキュウリを持つ異様さに微妙な心地になりながら、ピクルスの隣にあった瓶を手に取った。

「…………」

 桐皇の今吉翔一本人の顔写真が貼られている市販の胃薬だった。

「あっ……」

 胃薬の隣にあった手作りケーキと手作りクッキーの製作者、つまりプレゼントの贈り主を見れば今吉の意図が僅かながら分かってしまい言葉を失う。ホイップクリームたっぷりの苺のホールケーキを作ったのは相田で、チョコチップクッキーを作ったのは桐皇の桜井良、得体の知れない真っ黒で紫色の半液体上の何か垂らす固形を作ったのは桐皇のマネージャーである桃井さつきだ。桜井のはいい。きっと美味しいクッキーに違いない。相田のも一時ほど意識が別世界にお散歩に行くものの、味は問題ない……はず。問題は桃井が作り出したあの固形だ。これはたぶん食べ物で、口に入れて飲み込んでも大丈夫なんだろう。
 胃薬、ケーキ、固形。胃薬、ケーキ、固形。飛ぶように噴き出す粘着いた紫色の半液体。粟立つ表面。胃薬、ケーキ、固形。
 しばらく思考を巡らし、今吉の写真のおかげで効力に疑問を持たざるを得ない胃薬をケーキと固形の隣に置く。未開封のプレゼントもあと僅かなのでそれらを片してからゆっくり食べようと思う。決して、今食べると道半ばで倒れ伏した戦士の気持ちを味わう可能性があるからではない。
 伊月は違う食べたくないとかじゃない命が大事なだけと誰ともなしに言い訳をしながら、真っ赤な薔薇の花束の横にちょこん置かれた茶封筒を手に取った。秀徳の宮地裕也からだった。福井、根武屋、春日の他にもまだ封筒に入れるような誕生日プレゼントが贈られてきていたらしい。百枚入りのそれの中から取り出した三つ折りのルーズリーフには祝いの言葉と『兄貴が変な誕プレ送ってごめん』というようなことが書かれてあった。

「どういう……」

 意味だと首を傾げつつ、残り四つとなった誕生日プレゼントに目を向ける。残っているのは例の薔薇の花束とオレンジ色の紙袋、そのそばに置かれたノートサイズの茶封筒。そして、オレンジ色の紙袋より大きい白い紙袋だ。
 これまでに名前を見かけていないことから異様な雰囲気の四つの中に、宮地裕也の兄・宮地清志のものがあるらしい。
 ――……なんだろう、開けたくない。
 他とは明らかに違う雰囲気を醸し出す眼前の四つのプレゼントを見つめた。期待しつつも急かすような視線が伊月の背中に突き刺さる。その視線に促されるようにノートサイズの茶封筒を躊躇いながら手に取った。
 重みは、今までのものとさほど変わらないように思う。具体的にいうならシングルCD一枚分の……、そこまで考えてぴたりと動きを止めた。いや、いや、まさか。行き着く答えに首を振るが、宮地(弟の方)の『兄貴が変な誕プレ送ってごめん』の文字が脳裏を過ぎり、伊月の否定する答えこそが真実なのだと肯定する。
 恐る恐る封筒の中を覗けば、布教用と書かれた付箋紙付きCDとライブチケットらしき長方形の紙、婚姻届が入っていた。無言で蓋を閉め、何の変哲もない外面を目でなぞる。裏面の右下の方に宮地清志の文字を見つけ、再び封筒の中を覗いた。よくよく見ればCDとライブチケットは宮地が熱を上げているアイドルが所属しているグループのもので。あれだけ否定したがっていた気持ちが嘘のように現実を受け入れ、納得している。そして弟の手紙の意味もようやく理解出来たのだった。
 生ぬるい気持ちを携え、茶封筒を木村のフルーツの盛り合わせと一緒に置いておく。海常の森山由孝からは目立ちまくっていた真っ赤な薔薇の花束(婚姻届付き)だ。伊月への愛を綴ったポエムも一緒に添えられていたが、初っ端からこちらが恥ずかしくなるような文字のオンパレードで耐えられる筈もなく、二行目以降からは読まずに止めた。さっきから「もっと感想ねーのかよ!」とか「せめて最後まで読んで!」とか背後がまた騒がしくなったけど、残り二つなのでほっとくことにする。
 まず、手に取ったのはオレンジ色の紙袋。添えられた秀徳カラーの誕生日カードに高尾和成の名前を見つけ、少なからず期待してしまう。持った感じだと衣類などの布性のものなのではないかと予想する。蓋をしていたシールを剥がし、わくわくしながら中に入っていた物を見れば案の定白色の毛糸の塊が。丁寧に編み上げているそれは高尾の手作りマフラーだ。右端には誠凛のユニフォーム、左端には秀徳のユニフォームの柄が編み込まれており、苦労して作られているのが伺い知れた。ユニフォームには伊月と高尾の背番号がそれぞれ入っており、再現度はかなり高いようだ。ただ異様に長い。二人で使っても支障ないくらいの、とても長いマフラーなのである。
 一緒に巻きたいという意思が透けて見えたような気がして、急いでマフラーを紙袋をしまう。紙袋の底に婚姻届を見つけてしまったが気付かないフリをした。いちいち反応したら相手の思う壺のような気がしたからだ。






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