顔面蒼白で帰ってきたマサフェリーを、村人達は怯えながらも迎えた。目立った傷はなく、何よりも無事に帰ってきたことにみんな安堵した。当の本人はと言えば、せっかく刈り取った薬草を吸血鬼に取られてしまったことを悔やんでいたが、いつの間に入れたのか彼の服から薬草が出てきたときは驚いていた。恐らく魔女のおかげだろう。代わりに、魔女から預かっていた短剣がなくなっていた。
薬草のおかげで、村長の傷は塞ぐことができそうだった。薬草は、いつも村で使っていたものよりもずっと強力で、止まらなかったはずの血がすぐに止まった。もしかしたら、魔女の魔法が掛けられていたのかもしれない。何はともあれ、万事解決だ。マサフェリーは胸を撫で下ろした。
村人達は、皆山であったことを聞きたがったが、生憎話をする気分にはなれなかった。魔女に吸血鬼だ。まるでお伽話のようだが、実際に出逢ってしまったのだ。帰ってきたマサフェリーのために村ではいつもより豪華な夕食の準備が行われていたが、村人達に声を掛けると、早々に休むことにした。そして、床に着くとすぐに眠りについた。

夢の中で、マサフェリーは短剣を持っていた。魔女が与えてくれたものだ。目の前には、魔女がいる。その隣には、恐ろしい吸血鬼もいた。吸血鬼は、魔女の腰を抱いている。まるで仲睦まじい恋人同士のようだ。魔女も視線こそこちらに向いているが、微笑んでいて、嫌がってはいないようだった。そして、魔女が、
「殺して」
と言った。短剣で胸を一突き。迷うことなく吸血鬼の心臓目掛けて短剣を突き立てた。確かに肉を貫く感触がしたのに、吸血鬼の姿は消えて、ぶわりと薔薇の花弁が舞い上がった。そして、あろうことか隣にいたはずの魔女が胸から血を流していた。なんという事だ。俺は間違えて魔女を刺してしまったのか。
「なまえ、ボクが助けてあげる」
いつのまにか魔女の背後にいた吸血鬼が背中から魔女を抱き締める。吸血鬼に触れた部分から、魔女の身体がするすると消えていった。
「待て、何を!」
手を伸ばしたが、とぷん、と水が跳ねるような音がして魔女の姿は吸血鬼の中に消えた。
「これで、ボク達はいつまでも一緒だ」

起きた時、全身汗だくだった。だが、そんなことに構ってはいられなかった。魔女が、吸血鬼に喰われてしまう。助けにいかなければ。窓の外を見ると、とっぷりと日が暮れていた。梟の鳴き声が聞こえる。なんだか胸がざわざわして仕方がなかった。


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