16時になった。リビングの時計から音楽が流れる。花火大会は、19時開始だ。そろそろ支度をしようかな。
まだあと3時間もあると言うのに、そわそわして落ち着かない。藍ちゃんは、まだ仕事だ。帰ってくるのは17時を過ぎると言っていた。浴衣に着替えるのはそれからだ。
「シャワー浴びようかな」
浴衣に着替える前に、汗を流しておこう。思い立って、そのままお風呂場へ向かった。
「ただいま」
予定より少し早めに家に帰ることができた。なまえの浴衣の着付けもあるし、できるだけ早く帰ることができるよう嶺二に頼んだお陰だ。なまえとの約束があることを伝えると、じゃあ急がなきゃね、とメンバーに協力を仰いでくれた。たまには嶺二にも感謝しなければいけない。
玄関を開けると、いつもは駆け寄ってくるなまえが来なかった。耳を澄ませると、水音が聞こえ、シャワーを浴びているのだと分かった。丁度いい。彼女がシャワーを浴びている間に、浴衣を用意しておくことにした。
すっきりした。
シャワーを浴びて、バスタオルでしっかりと水を拭き取る。浴衣を着る前にシャワーを浴びたのは正解だった。満足したその時、着替えを用意していなかったことに気付く。脱いだ服は汗で濡れているので着たくない。仕方がない、とタオルを身体に巻いて脱衣所を出た。
「なんて恰好してるの」
廊下を3歩進んだところで、後ろから聞き慣れた声がした。慌てて振り返ると、浴衣を片手に呆れた表情の藍ちゃん。予定よりもかなり早めに帰ってきたようだ。まさか、こんな恰好を見られるなんて。
「ご、ごめんなさい。シャワーを浴びたんだけど、着替えを用意し忘れちゃったの。すぐに着替えてくるから」
恥ずかしくて、急いで部屋へ戻ろうとする。進もうとしたところで、腕を引かれた。そのまま後ろから抱き締められる。
「いいよ。このまま浴衣に着替えるから」
「で、でも、下着とか」
「浴衣のときは、下着を身につけないんだよ」
「それは昔の話でしょ!」
もう、と体をねじって藍ちゃんのほうを振り向くと、悪戯っ子みたいな笑顔と目が合った。そんな顔されたら、怒れないよ。
「まあ、冗談はこのへんにしておこうか。せっかく仕事を早めに切り上げてきたんだ。準備ができたら出発しよう」
「うれしい。早く帰ってきてくれてありがとう」
それから、おかえりなさい。
そう言うと、藍ちゃんは優しく頭を撫でてくれた。