もうすぐお盆だ。
お盆は実家に帰るって言うけれど、私も藍ちゃんも実家なんてない。強いて言えば、ラボなのかな、なんて藍ちゃんが言っていた。確かに。
いつも静かなこの家も、お盆の時期には少しだけ活気が出る。家から少し離れたところに宿泊用のログハウスがいくつか建っており、この時期になると多くの家族連れが泊まりに来るからだ。子どもたちが森の中で虫取りをする楽しそうな声が遠くから聞こえると、なんだかこちらまで楽しくなる。
それから、お盆の時期には毎年花火大会がある。8月の14日と決まっていて、昨年は藍ちゃんと二人で縁側から花火を眺めた。それもとっても風情があって良かったけれど、今年はまた違う楽しみ方をしようと藍ちゃんから提案があった。

「浴衣を着て花火を見に行こうと思うんだけど、なまえはどう思う?」

藍ちゃんは、珍しくこちらの様子を窺うように聞いてきた。返事はもちろん、オッケーだ。

「素敵。藍ちゃんと一緒に浴衣を着れるなんて嬉しい」

そう言うと、下がっていた眉毛を上げて、良かった、と呟いた。断られたらどうしようと思ってたんだ。

「断るはずないよ。こんなに素敵なお願いだもん」

「そうだね。ありがとう、なまえ」

藍ちゃんのこの笑顔が、私はとっても好きだ。

「さて、そうと決まれば浴衣を用意しなきゃね」

そうだった。生憎この家には浴衣は用意されていない。はたまた、私は浴衣の着方も知らない。
急に不安になる。

「どうしよう、藍ちゃん。私、浴衣も持っていないし、着方も分からない」

「安心して。撮影で浴衣を着た時に、着付けのやり方はマスターしたから」

なんて頼れる藍ちゃんなんでしょう!

「それから浴衣だけど、これはなまえの趣味や嗜好もあるだろうからボクが独断で選ぶわけにはいかない」

「えっ、藍ちゃんが選んでくれたものなら、わたし喜んで着るのに」

「それは嬉しいけど、なまえにとっては初めての浴衣なんだから、自分が気に入ったものを着るべきだと思うんだ」

だからね、

「明日は買い物に行こう」






「あ、あ、藍ちゃん、手、離さないでね」

「離さないから、安心して」

藍ちゃんに誘われて、浴衣を買いに渋谷へ来た。普段田舎で暮らしているせいで、こんな都会に来ると人に酔ってしまいそうだ。あっちへこっちへ、人の波に流される。
そもそも、自分は変な格好をしていないだろうか。まわりに笑われていたりして。そんな不安が藍ちゃんに伝わったのか、握っていた手に力が込められた。

「何も変じゃないよ。なまえはかわいい」

「あ、藍ちゃんてば…!」

変装のために、藍ちゃんはいつものアクアブルーの髪ではなく黒髪だ。博士に頼んで今日だけ交換してもらったらしい。用意周到だ。黒髪に、変装用のメガネをかけた藍ちゃんは、いつもより大人っぽくて、いつも以上に格好良い。近付いてくる顔に、どきどきしてしまった。

「藍ちゃんは慣れてるんだね。私は久しぶりすぎて、どっちへ行けばいいのかわからないよ」

「大丈夫。ボクについてきて」

藍ちゃんの言葉は、魔法の言葉だ。藍ちゃんに大丈夫と言われると、本当に大丈夫な気がする。私は大人しく藍ちゃんに手を引かれて、人混みを進んでいった。
しばらく歩くと、人通りの少ない路地に入った。やっと落ち着いて藍ちゃんの隣を歩くことができる。藍ちゃんの隣にくっつくと、繋いでいた手を解いて、ぴったりと繋ぎ直された。所謂恋人繋ぎだ。なんだかうれしくなって、口元が緩む。なに笑ってるの、と藍ちゃんに言われてしまった。
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