「あつい〜」
今年の夏は、本当に暑い。まさに茹だるような暑さだ。少し外に出るだけで、湿気と熱気に襲われる。ただ立っているだけで汗だくだ。
古い日本家屋の我が家にも、藍ちゃんに勧められて購入したエアコンと乾燥機が設置されている。この夏、まさに大活躍だ。藍ちゃんに感謝しなくちゃ。
そんなことを考えながら、晩御飯の支度をする。今夜は冷やし中華だ。暑い夏にぴったりの、きんきんに冷やしたやつ。
しばらくすると、ガラガラ、と玄関で音がした。藍ちゃんが帰ってきた!
「藍ちゃん、おかえりなさい!」
濡れた手を拭きながら、小走りで玄関へ向かう。きっと、暑い中帰ってきて汗だくになっているだろう。いや、藍ちゃんは汗はかかないんだった。
「なまえ…ただいま」
「藍ちゃん?!大丈夫?!」
慌てて藍ちゃんに駆け寄る。なんと藍ちゃんは、玄関でへたり込んでいた。
「ど、どうしたの…て熱っ」
手に触れると、とんでもない熱さ。人間だったら、即病院送りだ。久しぶりのオーバーヒート。
「さすがにこの暑さは…想定外だったよ…タクシーで帰って来ればよかった…」
「藍ちゃん、お風呂!お風呂に入ろう?」
確か、夏は水辺の仕事が多いから防水機能に変更してあったはず。いつもなら水は避ける藍ちゃんだけど、今は熱を下げるのが優先と判断したのか、力なく頷いた。肩を貸しながら、ゆっくりとお風呂場へ向かう。
脱ぐのお手伝いしようか?と聞くと、さすがにお断りされた。
「さっぱりしたよ」
15分ほどして、藍ちゃんはお風呂から出てきた。先程とは打って変わり、清々しい表情をしている。
「初めて人間の言う『死にそう』っていう状態が理解できた気がするよ」
「それはよかった…のかな?」
でも心配させないでね。すごくびっくりしたんだから。そう言うと、藍ちゃんは私の隣に座って、ごめん。と小さな声。しょんぼりしてるみたい。ぽて、とまだ少し濡れた髪が肩に落ちてきた。よしよしするみたいに撫でると、もっと強く押し付けられる。
ゆっくり流れるこの時間が好き。
「藍ちゃん、今日の晩ごはんは冷やし中華だよ」
「それは楽しみだね」
でもまだこのまま。今度はぎゅっと腰に巻きついてきた腕に、微笑みが溢れる。甘えん坊なんだから。