「なまえ、これは何?」
折り紙をついっとつまんで、藍ちゃんが話しかけてきた。
「これはね、七夕飾りだよ、藍ちゃん」
「七夕って、7月7日にある年中行事だね。それにこの折り紙や…なんだか薄い紙もあるね。これを使うの?」
「そうだよー。藍ちゃんも一緒に作る?」
「うん」
隣のイスを引いてあげると、素直に座った。ハサミを渡し、切る場所を指示する。
「もう折ってあるから、ここからハサミで両側を切っていってくれる?」
わかった、と良いお返事。
右、左、右、左とちょきちょき気持ちの良い音が部屋に響く。
「なまえ、切れた」
「じゃあここ持って。開いてみて」
「こう?…わあ」
お花紙を三角に折って切ったそれは、網目状のカーテンのようにひらひらと靡く。交互にハサミを入れただけでレースのような飾りになったそれをみて、藍ちゃんが感嘆の声を上げた。
そのきらきらした目を見るだけで、こちらまで嬉しくなる。
「すごく、きれいだね」
「ふふ。他にも色々あるんだよ。でもその前に」
これ、と差し出したのは、もちろん七夕のメイン。短冊さま。
ライトブルーの短冊を受け取ると、藍ちゃんは少し眉を顰めて考える顔をした。大方どうやって使うか、考えているんだろう。
「……なまえ、これはなに?」
答えは出なかったようです。
「これは短冊だよ。願い事を書いて笹に吊るすと、そのお願いが叶うんだよ」
「ふうん。日本人らしい風流なイベントだね。叶うはずはないけど、趣を感じるってやつかな」
「そんなこと言わないでー!」
笹に、一つずつ飾りをつけていく。勿論、藍ちゃんが作った飾りも。それをじっと見つめながら、どこか上の空の藍ちゃん。お願い事を考えているんだろう。
「お願い決まった?」
「ねえ。このお願いは、一体誰が叶えてくれるの?」
うーん。わからない。
織姫と彦星?それとも神様?まあ、結局叶えるのは自分自身の力なんだけど。
正直にそう伝えると、満足そうな表情になる藍ちゃん。油性ペンを握りしめて、パソコンでも打ったような字でお願いを書き始めた。
「『早く人間になりたい』…ってなにこれ」
「ネタに走ってみたよ」
「あれ?裏にもなにか…」
「あっ、なまえはそっちは見ちゃダメ!」
『ずっとなまえと一緒にいます』
お願いじゃなくて、宣言が書いてあった気がしたけど。