「なまえ、あれは何?」
「あれはりんご飴だよ。棒にりんごが刺してあって、それに水飴がかかってるの。食べてみる?」
「うん。興味がある」
たくさんの出店たちに、藍ちゃんは興味津々だった。初めて見るものばかりなんだろう。目がきらきらしてる。ふふ、と笑って、小銭がたっぷり入ったお財布を握りしめた。
「きらきらしてる。これ、どうやって食べるの?」
「舐めてもいいし、齧ってもいいよ」
「……硬い。人間はこんなもの齧って食べてるの?理解できない」
「まあ殆どの人は舐めるかな」
理解できない、なんて言いながら、藍ちゃんは楽しそうだ。そんな藍ちゃんが見られただけで、花火大会に来て良かった。
ふと、視界に見慣れた名前が見えた。そうだ。
「藍ちゃん、金魚すくいしてみない?」
「金魚すくい?」
店の前まで藍ちゃんを連れて行くと、今までになくいい反応だった。誘って大正解だ。おじさんに二人分お金を払って、ポイをふたつもらった。二人仲良く並んで、しゃがみこむ。浴衣の裾気をつけてね、と藍ちゃんに声をかけると、大丈夫、と返事が返ったきた。さすが藍ちゃん。
「このポイで、金魚をすくってこのカップに入れるの。すくえたら、その金魚は連れて帰れるんだよ」
「へえ。プラスチックの枠と紙で出来てるんだ。成る程、簡単にはすくえないようになってるってことか」
ふんふん、と頷く。きっと、データを上書きしてるんだろう。ポイの使い方とか、教えてあげたいことはいっぱいあるけれど、まずは習うより慣れよ。なにも言わずに藍ちゃんに任せることにした。
「どうぞ、やってみて」
「わかった」
水の抵抗とか、紙の強度とか、きっと色々考えてるんだろう。じっと金魚たちを見つめる藍ちゃん。そして、勢いよくポイを水に突っ込んだ。
「わあっ」
水飛沫が飛び散る。私もおじさんも吃驚だ。目にも留まらぬ速さで、藍ちゃんは金魚を一匹掬い上げた。み、見えなかった…
「ごめん、なまえ。水の抵抗とか、紙の強度とか色々考えたんだ。その結果、とにかく水の中にポイを入れる時間を短くしたほうがいいって結論に辿り着いたんだけど…」
水がこんなに周りに飛ぶんじゃ、この方法は失敗だね。しょんぼりした顔で藍ちゃんが言うから、慌てて殆ど水はかからなかったことを伝える。でも、初めてで一匹でもすくえるなんてすごいよ。そう言うと、藍ちゃんはうれしそうに笑った。
「あのね、藍ちゃん。ポイはこうして水に平行になるくらい倒して、半分だけ水につけるの。そして、金魚をそっと…ほら」
正しいやり方(なのかは分からないけど)を教えてあげると、藍ちゃんは目を輝かせた。そして、今度は水を飛ばさずに金魚をすくいあげる。さすが藍ちゃんだ。知識の吸収が速い。
結局、二人でどれだけすくえるか勝負をして、私が負けてしまった。それでも12匹掬い上げたのだけれど。さすがにそんなには飼えないので、二人合わせて5匹だけ連れて帰ることにした。右手に金魚、左手に私を連れて、藍ちゃんは歩き出す。
「そろそろ時間だね」
花火大会が始まるまで、あと10分。