どんぱん、どんぱん。
どこかで花火の音がする。花火大会は19時からだから、別の花火だろう。藍ちゃんに浴衣を着付けてもらってから、髪をアップにしたり普段はしないお化粧をしたりと準備に時間が掛かってしまった。なまえの気の済むまで待つよと藍ちゃんが言ってくれたのに甘えて、20分も掛けてしまった。女子としては短いほうかも知れないけれど、仕事を早く切り上げてきてくれた藍ちゃんのためには、早く用意しなくては。でも、せっかく浴衣を着て、藍ちゃんと花火大会に行くのだ。少しでも、藍ちゃんの隣を歩くのに相応しい恰好をして行きたい。そんな我儘が出てしまった。
ようやく支度が終わり、藍ちゃんが待つリビングへと向かう。髪型は、耳の横から反対側まで編み込んで、また耳の横でまとめた。かわいい髪留めでもあれば良かったのだけれど。留めたゴムが見えないように、耳の後ろに隠した。化粧は、普段し慣れていないので薄めにした。

「藍ちゃん、ごめんね。遅くなっちゃった」

パソコンへむかう藍ちゃんの後ろ姿に声を掛ける。藍ちゃんも浴衣だ。浴衣に合わせて、今日も黒髪仕様。いつ博士のところに寄ったの?と聞いたら、午前中に行って、あとはウィッグで過ごしたらしい。その徹底ぶりに脱帽だ。
藍ちゃんは、振り向いて私を見るとそのまま立ち上がって私の前までやってきた。

「どう、かな」

突然目の前に迫った藍ちゃんに緊張する。黙ったままの藍ちゃんに、どこか変だったかなと不安になり始めた頃、ようやく藍ちゃんが口を開いた。

「なまえ、すっごく綺麗だよ」

目を見つめながら言われて、思わず顔が熱くなる。こんなに真っ直ぐに褒められるなんて。

「ありがとう、藍ちゃん」

「困ったね」

藍ちゃんが、私から目を離さずに呟く。

「こんなに可愛くなるなんて予想外だ」

「褒めすぎだよ、藍ちゃん」

「どうしよう、自分でもよくわからないんだけど」

自然と抱き締められた。
他の人に、こんなにかわいいなまえ見せたくない。耳元で悩まし気な声。藍ちゃんの息が耳に掛かって、びくりと肩が上がると、一層強く抱きしめられた。

「でも、せっかくこんなになまえが綺麗に準備してくれたんだから、見に行かないとね」

少しだけ体を離すと、ゆるりと微笑む。浴衣を着た藍ちゃんの笑顔は、いつもよりキラキラして見えた。そのまま近付いてきた顔に、ゆっくりと目を閉じた。

「プレゼント」

藍ちゃんの温もりが離れていって、もう一度藍ちゃんと目が合う。何のことだろうと思って首を傾げると、しゃら、と音が鳴る。手を頭に持っていくと、かしゃかしゃとした感触のなにか。慌てて鏡を見ると、耳の横で縛っていた髪に、浴衣とお揃いの薄いピンクの花の形の髪飾りが付いていた。

「藍ちゃん、これ…」

「浴衣に合うと思って、買ったんだ。気に入った?」

「もちろん!ありがとう、藍ちゃん」

丁度髪留めが欲しいと思っていたところだ。素直に嬉しかった。藍ちゃんは私の好みをよく把握しているらしい。
花火大会へ行ったら、今度は私が藍ちゃんにたくさんプレゼントしてあげよう。そう決めた。
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