「み、みみ…み、か、ぜ、ぜ、ぜ…て、ん、し…と」

カタカタカタ。
馴れないパソコンを使って、珍しく調べものをしているのかと思えば。はあ、と小さく溜息をついた。なまえがこちらを振り返る。

「藍ちゃん、これ、この虫眼鏡みたいなところを押せばいいの?」

「そう」

全くもって電子機器に疎いなまえが突然「インターネットで調べたいことがある」なんて言い出すから、自分のノートパソコンを貸したのだ。今のご時世、スマホで何でも調べられるはずだが、この様子だと普段からまるで利用していないのだろう。現代っ子とは思えない。

「わわっ、ちょ、藍ちゃん!」

なまえが呼ぶ。ソファから腰を上げて、彼女の横に立って画面を覗いた。
そこには、いつかの雑誌取材で撮影したグラビア写真。白いシャツのボタンを外し、肌を露出させている自分。

「一昨日発売された雑誌の写真だね」

「そ、そうなんだ…じゃなくて!」

なまえの顔を見ると、頬を真っ赤に染めていた。なにその表情。かわいいんだけど。

「こ、こんな…こんな破廉恥な格好!ゆ、許しません!」

「は?」

「まだ藍ちゃんは子どもなんだから!こんな格好をたくさんの人に見せるなんてっ…だ、だめ!」

「なに言ってるの…」

何を言い出すかと思えば。別に上半身裸と言うわけでもない。ただ少しシャツがはだけているだけの、何の問題もない写真だ。
恐らく、誰かからこの写真のことを聞いて、心配になって調べたのだろう。こんなこと彼女に吹き込むのは、レイジかオトヤか、そのあたりしかいない。

それよりも、僕が気になったこと。それは、

「なまえには、僕がまだ子どもに見えるわけ?」

「そ、そういうわけじゃ…ないけど…」

確かに、まだ僕は15歳だ。だけど、知識も、経験も、それなりにある。なまえよりもずっとしっかりしていると自負している。
なにより、好きな女の子に「まだまだ子どもだ」なんて言われたくはない。

「ふーん。なまえにとっては、僕はまだまだ子どもなんだね」

「あ、藍ちゃんっ!そういうわけじゃないってばっ」

「じゃあ、どういうわけ?」

ついつい、意地悪な言い方。
自分でも、大人気ないと思う。ああ、こういうところがなまえのいう「子ども」なのかもしれない。
すると、なまえは赤かった顔をさらに赤くして言った。

「子どもって言うか…ううん、うそ。本当は、藍ちゃんのこういう姿、他の人に見られたくなかったの」

なにそれ。
ずるい。

「……なまえ」

「わ、私のほうが年上なのに、こんなこと言ってごめんなさい…ただの、ヤキモチだからっ」

「なまえっ!」

「は、はいっ」

本当に、ずるい。
好きな女の子に、そんなこと言われたら。

「今すぐ冷却シート持ってきて!」

「え?え?」

「早く!」

「は、はいっ!」




やっぱり、僕は子どもかもしれない。