「何なの、その顔」

宇宙一可愛いアイドル、帝ナギが私の顔を見るなり眉を顰めて言った。

「気持ち悪いんだけど」

「何とでも言いなさいな」

対して、すまし顔の私。
さらに怪訝そうな顔のナギ。

「何?その顔だけで環境破壊なんだけど」

「それはひどくない?」

「だってそうだもん。何なのその顔!」

宇宙一可愛いアイドルとは到底思えない発言で私の顔を罵るナギは、イライラした声で言った。なによ。そこまで言わなくてもよくない?
ただ、私は今ウルトラハッピーなのた。そう、スーパーハッピー。あえて言うならスペシャルハッピー。

「全部意味一緒じゃん」

「まあまあ、聞いておくれよナギくん」

有頂天の私は、ナギの言い放った一言を物ともせず、そのスーパーウルトラスペシャルハッピーの理由を意気揚々と語り始めた。
そう、なんと、私が、この私が、あのスーパーアイドル一ノ瀬トキヤとドラマで共演することになったのだ!しかも、なんと相手役。こんなにスペシャルハッピーでウルトラハッピーでスーパーハッピーなことはない。

「うっざ!」

「ぐはー?!」

そのスーパーウルトラスペシャルハッピーを体全体で表現していた私の顔面に、ナギがあろうことかカバンを投げつけてきた。しかも、ナギのじゃなくて私の。ちょうど金具のところが鼻にクリーンヒットするように計算して投げてきやがった。
鼻を押さえてナギを睨む。

「いったい!何すんの?!」

「それはこっちのセリフなんだけど!なんでなまえのそんなバカみたいな話黙って聞いてあげなきゃいけないわけ?!」

「なによ!ナギが聞きたいって言ったんでしょ!」

「言ってないよ!」

珍しくナギは怒っているようだ。
まあ、確かにナギにはまるで関係ない話だけど、同じ事務所の同期のアイドルとして仲間のことは喜んであげるべきでしょうが。
いつも自分のことにしか興味がないナギのことだ、私が大きな役をもらったことが気に食わないのだろう。

「ふん、いいよ。ナギよりもっともっともーっと人気になって、いつかナギなんか踏み潰してやる!」

「はあ?ありえない!僕のほうがなまえなんかよりずっとずっとずーっとかわいいんだから!」

うっ…
確かに、ナギは可愛い。私より可愛い…かもしれない。でも、私だってアイドル。ここで負けちゃだめだ。

「うるさい!いいもん、ナギなんかより一ノ瀬トキヤのほうがよっぽどかっこよくて素敵だもんねーだ!」

「なっ…」

ナギがずがーん!と音が聞こえるくらいの衝撃を受けた顔で固まる。どーだ、まいったか。って、私が勝ったとかじゃなくて、一ノ瀬トキヤの話なんだけど。
でも、さすがスーパーアイドル一ノ瀬トキヤ。顔合わせのときに少しだけ話したけれど、顔は小さいし脚は長いし、モデルさんみたいだった。

「なまえは…なまえは僕より一ノ瀬トキヤなんかのほうがいいって言うの?」

ナギが俯きながら呟く。さっきの元気はどこへやら、小さな声だった。

「この僕が…一ノ瀬トキヤなんかに…」

「確かにナギは可愛いかもしれないけど、男としての魅力とか色気とか、もう全然足りないよねーっ」

一ノ瀬トキヤと比べて。

ナギが、世紀末のような表情を浮かべた。なんだか、いい気分。だけど、まあ、本当はナギだって仕事の時に見せる表情が、たまにあまりにも艶っぽくてドキッとすることもある。まだ13歳のくせに。言ってあげないけど!
すると、ナギはキッと私の顔を見て、

「なまえは僕より一ノ瀬トキヤのほうが好きってわけ?!」

真っ赤な顔でそう言った。

「へ?」

すると、すぐにはっとした表情になったナギはもう一度勢いよく私の顔面にかばんを投げつけた。やっぱり私のカバンを、金具が鼻に当たるように。
そして、

「僕だってすぐに宇宙一かっこよくなって、なまえが好きって言っても手が届かないくらいになっちゃうんだからね!!!」

走り去って言った。
残ったのは、私のカバンと、鼻の痛み、赤く染まった頬。それから、そんな未来に少しだけ期待してしまっている私。



やっぱり大っ嫌いだ、STARISH!
そして、打倒、一ノ瀬トキヤ!