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彼だってオトコノコだから、きっとこんな雑誌を見るのだろう。
それに対して気分を害したりはしない。
しない、が。

(どうして胸が小さいモデルばかりの雑誌が三冊もあるんだ)

彼の趣向に対して、その雑誌を破り捨てたい衝動に駆られた。



私だって、オンナノコ



辞書を借りようとヒロトの部屋に入った。そこで見つけたのがその雑誌だ。教科書の下に置いてあり、思わず手に取った。それを興味本位で見てしまった私も悪いのだが、それにしても、あからさまに恋人の私とは全く違う体型の女子ばかりが載った、世間一般にエロ本と呼ばれるものが置いてあれば少しくらい怒っても良いだろう。

(あいつはこういうのが好きなのか・・・)

自分の胸を見下ろす。
そう言えば杏から胸が大きくて羨ましいと良く言われるが、実際は肩は凝るし可愛い下着はサイズが無いしで良いことなど特に無い。
その上、恋人が実は小さい胸の方が好きだったなど知ってしまったからにはもうどうしようもない。

(好きでこんな胸になったわけじゃないんだ)

小さく溜め息を吐く。
見なかった事にしようとそっと教科書の下へと戻し、当初の目的であった辞書を手にヒロトの部屋を後にした。





「すまない、ありがとう」

無事に調べ物も終え、辞書を返しにヒロトの部屋を訪れた。思わず例の雑誌が置いてあった机の上に目が行ってしまう。しかし既にその場所に何も置かれてはいなかった。

「どう致しまして。あ、そうだ。古典の文法で分からないところがあるんだけど」
「古典?どこだ」
「えっとね・・・ここなんだけど」

彼が分からないという問題は偶然にも今日の授業で習っていたところだったので悩む事も無くすんなりと解けた。

「ありがとう。助かったよ」

にこりと微笑むヒロトを一瞥し、きょろきょろと部屋を見渡してしまったのは無意識だった。彼は不思議そうに問いかけてくる。

「・・・何か探してるの?」
「あ、いや。別に・・・」

あの雑誌はどこに隠したのだろう。
私がこの部屋を出たら、彼はこっそりと見たりするのだろうか。
そんな事を考えると急に心がちくちくと痛み始めてきた。

「玲名?どうしたの?」
「・・・お前は・・・その、あれ、か。小さいあれが好きなのか」
「え・・・あれって何?」

きょとんとした目でヒロトはこちらを見てくる。オブラートに包みすぎた言葉は彼に伝わらなかったようで、それはまあ当然のことだろう。
けれど率直に聞ける勇気も無く、あーだのえーだの言っているとヒロトは何かを察したように困ったように笑った。

「・・・もしかして、見た?」

その言葉にビクリと肩を揺らす。その動作でヒロトは察したらしく、少し慌てたように口早に話し始めた。

「あれはさ、晴矢が持ってきた雑誌で忘れて行っちゃったんだ。だから、さっき返しに行ったからここにはもう無いよ。それに、俺はああいうの興味が無いし・・・って信じてもらえるかは分からないけど・・・」
「小さい・・・胸、の方が好きなんじゃないのか」
「どうして?」
「あの雑誌、そういうモデルばっかりだった、から」
「ああ、それはね。杏に似た体型だからって晴矢が、」

そこまで言ってヒロトは気まずそうに口を閉じる。

「えっと・・・ごめん。女の子が見て良いものじゃなかったよね」
「いや、別にそういう意味じゃ・・・」
「あと胸が小さい方が好きかどうかって話だけど」

ヒロトの右手がこちらへ伸びたかと思ったら、その手はそっと胸を包み込んだ。
急の事で思わず反応が一歩遅れてしまう。

「っ!おいっヒロト!」
「俺はどっちかというと大きい方が好きだけど・・・でも玲名の胸が小さくても好きだよ」

その手を叩こうとする前にパッと離される。直ぐにちゅっと頬にキスを落とされすっかりヒロトのペースに乗せられてしまっているようだ。後退しようと足を一歩後ろへと下げたが机の脚にコツンとぶつかった。そう言えば直ぐ後ろは彼の勉強机だった。

「大切なのは玲名かどうかってところだからさ」
「ん、耳元、で、話すな・・・っ!」

ぞくりと鳥肌が立つような、彼の甘い声に頬がかぁと熱くなる。

「玲名が俺の好みを気にしてくれて嬉しいな」
「気にしてなんか、」

無い、と言う前に口を塞がれた。ヒロトは嬉しそうに猫のような目を細め、けれどその瞳は直ぐに目蓋で見えなくなる。段々と長く、深くなる口付けに頬は更に熱さを増した。

「っは、・・・」

思いっきり息を吸い、吐き出す。目の前で透明の糸がぷつりと切れた。

「玲名はいつも甘いね」

そう言いながら、ヒロトはゆっくりと舌を首筋へを這わせる。
すると案の定と言うべきか、手をするりと服の裾から差し入れてきた。

「ヒロト・・・っ!」
「女の子ってどうしてこう、柔らかいんだろう」
「あ、待て。おいっ」

服の中でプチンと下着のホックが外される。ヒロトの手がもぞもぞと肌の上を滑りくすぐったい。

「玲名の、ちゃんと見たい」

吐息のように耳元を擽る言葉はとろける様に身体の中へ落ちていく。既にふにふにと双丘を弄るヒロトの指先はきゅっとその先端を摘んだ。

「・・・んっ!」
「もう固くなってるよ」

グッと服の裾を託し上げられ皮膚の上をひやりとした空気が滑る。晒しだされた胸元は息をする度に大きく上下し、どくどくと脈が速くなっているのが分かった。

「そ、そんなに、見るな・・・」

先端間近の触れるか触れないかの距離まで顔を近づけたヒロトは上目遣いでこちらを見上げ、再度目を細める。そして、カプリと、食べてしまうかのようにそれを口に含んだ。

「んっ、んぅ・・・っ」

口元に手を当て声を抑え込む。
ヒロトが丹念に胸先を愛撫する度にリップ音が鼓膜を揺らした。生温かい舌先はまるで生き物のように肌の上を滑る。

「ヒロト・・・も、やめ、」
「ん――、もうちょっと」

身体がぴくぴくと何度も反応するうちに気づけばヒロトの服を縋るように掴んでいた。柔らかい刺激に身体の奥からゆっくりと火が灯っていくのを感じる。

「・・・ベッド、行こうか」

力を抜けばガクンと崩れ落ちそうな身体をぎゅっと抱きしめて彼はそう囁いた。





「・・・機嫌が良いな」
「だって玲名が俺の好み気にしてくれて嬉しいんだよ」
「だから気にしてなんか無い」
「可愛いなあ」

ヒロトの言う通りなのだが悔しいのでぷいっとあちらに顔を背ける。ヒロトによって外された下着のホックをプチンと止め、時計を見ると既に一時を回っていた。

「部屋に戻る」
「帰っちゃうの?」
「明日も学校だろう」

ベッド下に散乱している服を拾い上げ、男物のズボンをヒロトに手渡す。てきぱきと着替え終えベッドから降りると小さく床が軋んだ。

「じゃあおやすみ」
「ん、おやすみ」

パタンと扉をゆっくりと閉め、静まり返った廊下を歩く。

(辞書を返すだけの筈だったのにとんだ誤算だ・・・)

小さく溜め息をつきながらも例の本の事が誤解だったようで内心では安堵の溜め息を吐いた。

(私だから、か)

ヒロトの言葉を思い出す。
柄にもなくふとした瞬間に、ヒロトが好む女子はどんなタイプだろうと考える事もあるのだがそれも杞憂かもしれない。そしてこうやってヒロトの思惑通りになってしまうのは結局のところ自分自身も彼を好いてるからだろう。

(まあ本人に言うつもりはないが)





私だって、オンナノコ
(好きだと、素直に言えなくても)





※リクエストありがとうございました!

12.02.13






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