※ヒロ玲(24)←マサ





大切な大切なお姫様は、小さな男の子と楽しそうに笑っていて、それを見ていた王子様は心の中がもやもやしてしまいました。



きみ限定王子希望



「マサキ、今日の練習はどうだった?」
「あーうん。まあまあかな」
「友達とも仲良くやってるのか?」
「うん。あ、今日天馬ってやつの家に行ってさ・・・」

先ほどからリビングで繰り広げられる会話にダイニングテーブルから聞き耳を立てつつ目の前に広げられた書類に目を通してはいたが、全く頭に入っては来ない。
チラリとリビングを一瞥して、そして無意識にぐしゃりと数字がひしめく書類を握りしめる。

「・・・マサキ、そろそろ寝た方がいいんじゃないかな」

べったりと、玲名の肩にもたれかかっているマサキにとうとう声を掛けた。
近すぎる。
思春期真っ盛りの中学生が成人女性に、例え姉のように慕っている女性にだとしても、距離が近すぎる。その距離、ぜろせんちめーとる。

「まだ大丈夫だよ。ねえ、玲名姉ちゃん」

そう言うと、マサキはニヤリと笑った。

「・・・っ!そういう問題じゃ無くてさ。玲名から、離れてくれないかな」
「なに、ヒロト兄ちゃん。嫉妬してんの?大人げないなあ」

こちらをじっと見ていた玲名が呆れたように溜め息をつく。
まるで自分が悪いようだが歳は関係ないはずだ。例え中学生だろうと男に変わりは無い。自分の恋人にべったりと、しかも目の前くっつき楽しそうに話されたら男として怒るのは当然だ。

「じゃあ兄ちゃんも反対側に来れば良いじゃん」
「だから、そういう問題じゃ無くて、」
「それはお断りだ。ヒロトは重いからな」
「酷い!」
「ざまあ」
「まあでもそろそろ寝た方が良い。明日も朝練に行くんだろう」
「えー・・・分かったよ」

玲名の言葉で素直にマサキは立ち上がる。そして、リビングを出て行く間際にこちらへべっと舌を出して扉を閉めて行った事を見逃しはしなかった。
そして残るは、不満一杯の自分と、呆れ顔の玲名と、ぐしゃりと皺の寄った書類と。

「・・・ヒロト」

静寂を破ったのは玲名の静かな声だった。しかし書類を読むふりをして、玲名の言葉を無視する。無視をするなんて本当はしたくは無かったけれど、どうせ次に来る言葉は"大人げない"という言葉だろう。それなら大人げない行動をとってやろうというちょっとした反抗だった。

「おい、ヒロト」

玲名は相変わらず呆れた声だ。書類の上に影が落ちる。玲名が直ぐ真横へとやって来たようだがそれでも顔は上げない。

「ヒロ、」
「どうせ俺は大人げないよ」

目線は書類のまま、ぼそりと小さく言葉を紡ぐ。すると再度、はあ、と大きな溜め息が上から聞こえた。

マサキは可愛い。それは自分にとってもだ。可愛い弟のような存在で、もしもマサキがべったりと甘える相手が実姉瞳子ならば自分はただ微笑ましく見守れていただろう。
ただ、その相手が玲名となれば話は別だ。
彼女は大切な大切な恋人で、優先されるべきは自分の筈なのに、マサキと自分へのこの違いは一体何だろうか。

「別にそうは言って無いだろう」
「言いたそうな顔してる」
「私の顔も見らずに良く分かるな」

白い手が二本、伸びてきたかと思うとグッと顔を掴まれた。そのまま顔は上へと向けられ、玲名の瞳とかち合う。

「・・・ほら、やっぱり呆れてる」
「お前最近卑屈っぽくなってきたな」
「誰のせいだか」
「誰だろうな」

クスリ、と笑う玲名は癖っ毛のある赤髪を撫で始める。それはまるで子どもをあやす時の仕草そっくりで、少し悲しくなった。

「・・・俺はマサキじゃないんだけど」
「知ってる」
「もう。玲名、手を退けてよ」
「マサキには、」

ふわりと腰を屈め、彼女の綺麗な顔が近づいてきたかと思うと、唇に柔らかいものが当たった。

「こういう事はしないだろう」

玲名の突然のキスに、ぱちりと瞬きをする。気づけば、心臓はドッドッと足早に音を立てていた。

「玲名は・・・ずるいね」
「機嫌、直ったか」
「もう一回してくれたら直るよ」

少し椅子を引いて彼女ときちんと向き合うと、そっと指を絡める。

「手の掛かる恋人だな」

そう言いながらも優しく笑う玲名はとても綺麗で。
大人げないのは分かっているけど、この笑顔も独占出来たら良いのにと考えながら彼女の優しいキスを再度求めた。





(きみ限定王子希望)
誰にも、この場所は譲らない。



※結憂ちゃんリクエストありがとうございました!*^^*
※タイトルは『確かに恋だった』様より

11.11.18



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