片思いだったり、恋人だったり。
春も、夏も、秋も、冬も。


:)11.06.17〜07.08

「玲名ーすきすきー」
「ええい、暑苦しい!寄るな!」

外では朝から蝉の大合唱が鳴き止まない。室温はとうに不快指数に達している。
その上、ヒロトはベタベタと玲名に纏わりついてくる。
玲名の不快指数はとうに限界まで達していた。

「ねえねえ、玲名」
「離れろ、邪魔だ、消えうせろ」
「傷つくなあー」
「お前は、殴られないとわからないのか」
「えー、あ、じゃあさ、キスしてよ!そしたら離れるから!・・・なんて、」


ちゅっ


「したぞ、離れろ馬鹿が」
「・・・玲名・・・ほんとに好きすぎてつらい」



あーあー夏だね。暑いね。おあついね。
ところで、ここがおひさま園のリビングで、まわりにはたくさん人がいることをお忘れじゃないですかね、お二人さん。



:)11.07.08〜08.23


※恋人設定


おひさま園のみんなで海に来た。早々と着替え終わり既に遊んでいる男子とはうらはらに女子はまだ誰も更衣室から出てこない。

「あいつらまじおせーな」

そう言う晴矢の隣でヒロトはビーチパラソルの下にシートを敷く。
そうこうしているうちにワイワイとした賑やかな声が聞こえ始めた。

「お前らおっせーよ」
「うるさいわねー!あんたたちと違って女の子は色々用意があるのよ!」
「こっちは待ちくたびれたっつーの!」

文句を言いながらも男子たちの顔が赤くなっているのはしょうがない。色とりどりの水着を着た彼女たちはいつも見せない身体のラインをしっかりと見せていてとても刺激的だった。

「ヒロトは泳がないの?」
「うん。俺は荷物番してるよ」

じゃあ行ってくる!と言って海へと向かう彼女たちにヒラヒラと手を降る。
穴場な場所なため混むほど人は居ないが家族連れやカップル、学生たちがそれぞれ海を満喫しているようだ。平和だなあと思いながらその光景を眺めるている時だった。

「お前、カナヅチなのか」

玲名の声が聞こえたかと思うと、ふっと目の前に影が出来た。
しかし見上げて直ぐにヒロトは目を見開くと、慌てて目線を逸らした。
彼女は黒いビキニを着ていて、その豊満な胸元の谷間が直ぐ近くにあったのだ。

「れい、な。上着は・・・?」
「忘れた」

そう言いながら玲名はヒロトの隣に腰を下ろす。
ヒロトはというと、チラリ、と玲名を一瞥したがやはり直視出来ない。
黒い布と白い肌のコントラストが非常に眩しく、思春期真っ盛りな中学生にとっては非常に目の毒だ。しかも珍しく髪を結い上げているため、うなじが覗いていた。
ドクドクと鳴る心臓に落ち着け、落ち着け、と唱える。
心を落ち着かせるため、ふと周りを見ると通り過ぎる見ず知らずの男共がチラチラと何度も玲名に目線を向けていた。

「っ!玲名!これ着てて!」
「は、え、おい!ヒロト?!」

着ていたパーカーを脱いで、玲名の頭に乗せる。出来るだけ胸元も隠れるよう広げて乗せたつもりだ。

「か、隠してて」

たかが水着、されど水着。いつからこんなに独占欲が強くなったんだろう、と思いながらもやはり彼女の肌が他の男に晒されるのは嫌だった。
玲名はしぶしぶ、そのパーカーに袖を通す。

「・・・おかしいか」
「え?」
「この水着、似合って無いか」

ムッとした表情で玲名は問う。ジッパーを完全にあげると彼女の太ももから鎖骨まで綺麗に見えなくなっていた。

「似合ってる、よ」
「でもお前は見たくないんだろ」

そこでヒロトはやっと気付いた。彼女の言わんとしている事を。

「ち、違うよ!見たい、けど、他の男には見せたくないんだよ・・・!」

そう言うと、玲名は少し驚いた顔をして見せた。そして耳元をほんのりと染め、俯きながら小さく「馬鹿」と呟く。
その様子が凄く可愛らしくて、急に玲名に触れたくなった。
海の方を見るが、みんなは水遊びに夢中でこちらには誰も気づいていない。

「れい、な」

パーカーのフードにそっと手を伸ばし、それを玲名に被せる。
そして、不思議そうに顔をあげた玲名にそっと唇を落とした。

「っ馬鹿かお前は!見られたらどうするんだ!」
「大丈夫、見て無いよ。ちょうどフードが陰になったし」
「そういう問題じゃない!」

玲名はご立腹のようだったが、ヒロトはとても満足そうに笑う。

「なんだか塩辛いね」

潮風に吹かれながら、二人の影はもう一度重なった。


※黒いビキニは「男って黒が好きなのよ」っていう誰かの言葉にそそのかされて買っちゃったという設定。ヒロトに見せたくて買ったんです、よ!



:)11.08.23〜12.2.4


彼岸も過ぎ、朝は少し肌寒くなってきた。
それなのに薄いタオルケット一枚だけだったからだろうか。目覚めると身体が少しだるく、ゾクリと悪寒が走る。体温が少し高い気もするが気のせいだと自分に言い聞かせた。
そして誰にも気づかれぬようにぴしりと背筋を伸ばし朝食を食べ進めていたのだが。

「おいヒロト。お前、熱でもあるのか」

リビングに入ってきた玲名は開口一番にそう言ってきた。思わず卵焼きをぽろりと箸から落としそうになる。

「・・・無いよ?」

にこりと微笑みうまく誤魔化した筈だったのだが玲名は不機嫌そうな顔でズンズンとこちらへと近づいてきた。

「いや、本当に、無、」

コツン。

視界いっぱいに広がる彼女のコバルトブルーの瞳。
彼女の長い睫毛が皮膚をかすめ、くすぐったい。
前髪を乱暴にかき上げられたかと思ったらそのまま玲名の端正な顔が近付いてきて、そのままおでことおでこがコツン、と音をたてた。

「れ、れい、れいな?!」

ぽとり、と卵焼きは白い皿の上に落下する。

「やっぱり熱いじゃないか」

そう言いながら顔を離す玲名の顔がちゃんと見れずに、ドッドッと音を立てる心臓に思わず手をやった。

「お前、今日は安静にしていろ。倒れられても迷惑だ」
「う、うん・・・」

玲名がリビングを去った後も心臓は早鐘のように鳴る。
皿に落ちた卵焼きをぱくりと口に運んだ。咀嚼するが味なんて解らない。

(不意討ち過ぎるよ・・・)

気のせいだと思いたかった熱は確実に上がってくれたようだ。
彼女に言われた通り安静にすべく、ヒロトはごくりと卵焼きを飲み込んだ。






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