あの子が幸せそうに笑うから。
だから、私も幸せ。







彼女が細いチェーンに通して首から下げている指輪を見た時にピンときた。
なんだか微笑ましくて、クスクスと吉良瞳子は笑った。

「どうしたの、姉さん」

夕食の準備をしている時だった。野菜をみじん切りしていた玲名が不思議そうな顔で瞳子を見た。それはそうだろう。隣で鍋をかき混ぜていた瞳子が急に笑い始めたのだから。

「ねえ、玲名。その指輪、綺麗ね」
「え、ああ・・・」
「誰に貰ったのかしら?」
「・・・知ってるくせに」
「さあ?知らないわ」
「言わない」

答えは十中八九彼だろうと確信はしている。けれど、彼女の口から直接聞いてみたくて少し意地悪をしてみた。

「嬉しくないの?」
「・・・」
「ふーん。嬉しくなかったみたい、って今度帰って来た時に言っておこうかしら」
「やっぱり知ってるんじゃないか」

眉根を寄せる玲名を横目に見ながら、瞳子はゆっくりと鍋をかき混ぜる。
彼女が素直に気持ちを表わせないことは十分承知だ。いや、自分が玲名と同じくらいの年だった頃、まだ小さかった玲名は素直な女の子だったと思う。今に至るまでに色々なことがありすぎた。
それでも今こうして、夕食を一緒に作って、他愛も無い話が出来ることを瞳子は心地よく思う。


「・・・嬉しくない、わけは無い」

ぽつりと、耳に届いた言葉。彼女を見るとかすかに頬が赤かった。
・・・あら、可愛い。弟がこの子を心底好きな気持ちがわかった気がする。

「私、姪っこでも甥っこでも良いわよ」
「・・・は?」
「勿論、サッカーをやらせましょうね」
「・・・!そんな、の、まだ先の、」
「ふふ、良かった。ヒロトと結婚してくれる気、あるのね」
「もう、瞳子姉さん!!」

玲名の頬が更に赤くなったのは恥ずかしさからか、その様子に瞳子はまたクスクスと笑った。



ねえ、ヒロト。私の可愛い弟。
たくさん不幸な思いをさせてしまったことを、私は今でも悔やんでいる。
それでもあなたはいつでも笑顔でいてくれた。きっと、泣きたいこともたくさんあったでしょうに、そんな感情は出さずにいつでも笑っていてくれた。
だからこそ、幸せになってほしいと願う。泣きたいときには泣いて、そして嬉しい時には笑っていてほしいと願う。
そんなあなたの隣に彼女が、素直じゃないけれど誰よりもあなたを愛してくれる彼女がいてくれることが、そしてあなたたちが笑ってくれることが私にとっての幸せなの。

無限大の愛を、あなたたちに。



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